ニュース
QPS研究所、「Lバンド」SAR衛星を研究開発–地形図や地殻変動の3次元計測に期待
2022.12.13 16:45
小型の合成開口レーダー(SAR)衛星を開発、運用するQPS研究所(福岡市中央区)は12月13日、「Lバンド」を利用した超小型SAR衛星の研究開発契約を宇宙航空研究開発機構(JAXA)と締結したことを発表した。
Lバンド(L帯)は、マイクロ波の周波数帯域のひとつ。1GHz帯の極超短波にあたり、波長150~300mm、1~2GHzの電波で衛星電話や携帯電話などの通信や地球観測衛星のレーダーなどに利用されている。
同社は、100kg台の「Xバンド」を利用する小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発しており、現在2機を運用。今回の契約では、衛星2機による協調観測の技術実証を目的としたLバンドの超小型SAR衛星を検討、試作、試験する。
具体的には、独自に開発したXバンド用のパラボラアンテナをLバンド向けへと転用し、ミッション部、バス部、アンテナを設計、製造する。
Xバンド(X帯)もLバンドと同じマイクロ波の周波数帯域のひとつ。9GHz帯のセンチメートル波にあたり、波長25~37mm、8~12GHzの電波で、主に軍事通信やレーダー、気象衛星、高分解能の降雨レーダー、地球観測衛星の合成開口レーダーなどに利用されている。
Xバンドは光学カメラで撮ったような画像化や細かいものをみるのに適しており、森林を観測すると、木の上の葉っぱ(樹冠)で電波が反射するという。
Lバンドは、マイクロ波の中でも特に波長が長いため、電波が葉や枝、草を通過し、幹や地表面に近いところの情報が得られるという強みがあると説明。Lバンドだと、地形図や地殻変動の3次元計測、環境監視での活用が期待できるとしている。
地形図での利用では、衛星2機による協調観測で、山間部などの植生域でも精度が高いというデジタル標高データ(Digital Terrain Model:DTM)を作成できるという。
地殻変動の3次元計測では、Lバンドの超小型SAR衛星を傾斜軌道に投入し、干渉SAR解析にも挑戦する。地殻変動の南北方向の観測精度が向上するため、JAXAが運用するLバンドのSAR衛星と組み合わせて観測することで、上下・南北・東西の3次元の地表の変位を面的に捉えられるようになると説明。地震や火山などによる災害状況把握、人工構造物や地盤の変位監視、全球測位衛星システム(GNSS)での測量と組み合わせた測位精度向上などにも活用できるとしている。
LバンドでのSAR衛星の特長として、森林構造やバイオマスの推定にも強みがあると解説。衛星2機による協調観測で森林の立体構造をさらに精度高く抽出できるようになることで森林炭素量や温室効果ガス収支を評価できるようになることで、カーボンニュートラルなどの取り組みに大きく貢献できると考えられるという。
QPS研究所は、2025年以降を目標に、36機の小型SAR衛星コンステレーションを構築。世界中のほぼどんな場所でも平均10分以内に撮影し、特定の地域を準リアルタイム(平均10分に1回)で定点観測できる地上観測データサービスの提供を目指している。