インタビュー
JAXA職員が民間企業で働く「越境プログラム」がもたらす意外な効果(後編)
2022.09.12 08:30
そこで、技術や社会実装の仕組み、またビジネスのアーキテクチャなどをともに学び、改善や提案をしていくための勉強会を一緒にやろうと職員に入ってもらい議論する環境づくりをやろうとしています。
――面白そうですね! 島さんは今後についてどうお考えですか?
島氏:実は今、企業さんとの協業が見えていて、私はそのメンバーに入っています。経産省・NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで東京ガスさんと一緒に二酸化炭素からのメタン生成に関する研究開発をともにします。
私たちの研究ではメタン生成の過程でできる水が目的なのですが、東京ガスさんはメタンを売ることが目的と思ったとき、研究の方向性が変わっていくなと。越境プログラムに参加しなかったら、そこまで課題意識をもたなかったと思います。10年後にどういう形で、社会の中で技術を実装させるか、今回の学びを生かしていきたいです。
一方で私が資生堂さんに行ったことで、先方には宇宙をより近く思ってもらったように感じました。新事業促進部の活動に今後も積極的に関わって頂けるということで貢献したかなと感じます。
――ありがとうございます。さっそく越境経験が生かされますね。長福さんは?
長福氏:三つあります。一つは今回、IDEOさんと1カ月で作った成果である宇宙旅行の「ジャーニーマップ」やデザイン指針をウェブの形で公開したい。JAXAの中にもインパクトを与えたいし、宇宙開発業界の裾野を広げ、ショックを与える機会になればいいなと。
次は「Ocha!」というクリエイティブマインドを醸成するようなサービス。IDEOでやっていた文化ですが1週間に1回、ランダムに一対一でマッチングしてドーナツを食べに行く。実際はコロナ禍のためオンラインミーティングですが、主な目的は雑談する中でインスピレーションを得ること。
IDEOで学んだのは彼らがポジティブであること。否定しない。物事は不透明で当然で、その先に新しい価値や発見がある。わからないことを楽しむ。そんな文化をJAXAにもインストールできればと思って。JAXAでもやってみたら最初は数人しか参加してくれなかった(笑)。
でも、今は50人を超えました。ふだん話さない人と会話すれば気づきがあるし、仕事がやりやすくなるだろうと思います。
もう一つは新しいミッションを生み出すスキルや方法論を作りたい。デザイン思考やIDEOから習ったアプローチを参考にして、JAXAの型を作りたい。今までのJAXAルールだと担当者が新しいミッションを生み出すことになっているが、ツールや支援チームが必要だよねと。有志で活動を始めています。
――じゃあ、そのうちJAXAからストーリーが生まれてきますか?
長福氏:強烈な(笑)。でも、ある程度トレーニングが必要です。そもそもデザインはアートと異なり、物事の本質に迫り形にしていくこと。IDEOでもOJTでトレーニングを受けてできるようになったと聞きました。JAXAでもそれができたら。
「人類のため」というJAXAの役割を再認識
――逆に、JAXAは民間企業と同じである必要はないという考え方もあります。JAXAの役割を再認識したことはありましたか?
島氏:「人類のため」という意識について、逆に資生堂の方は非常に新しいと仰っていた。企業さんがお持ちの「顧客」という観点ではない、もっと広い視点で対象を捉えるのは新鮮なようです。民間企業の最終目的が経済活動でもあるのに対して、われわれは「人類のため」と胸を張って言っていい組織なんだと。
岡本氏:DBJは民間企業というよりはJAXAに近い。彼ら自体が社会や産業を作ることはできないが、お金という血液を流すことで、新しい産業を作るための触媒とか結節点になることが事業理念。JAXAも同じようなところがある。
技術という血液を流すことによって社会や産業の素地を作る。JAXAが触媒になることでみんなが一緒に何かやっていこうという機運ができるのではないか。
人事部と新事業促進部が連携、越境経験を多くの職員に
――新事業促進部で越境プログラムを担当なさっている指田さん、3人のお話を聞いて今後どうつなげていきたいとお考えですか?
新事業促進部 指田さやか氏:元々越境プログラムの目的は、JAXA業務で得られないビジネスセンスを身に付けること、JAXAと企業の異文化を共有して企業が宇宙ビジネスに入るための促進の一助になればということでしたが、想定以上の広がりと成果を見せてくれました。羨ましさを感じるほどです。
この経験を共創活動につなげたり、後輩にマインドを広げてJAXAの活動に深みを与えたりしてもらえれば。同じような経験を若手から中堅まで幅広い世代に体験してほしいと思います。