インタビュー

JAXA職員が民間企業で働く「越境プログラム」がもたらす意外な効果(後編)

2022.09.12 08:30

林公代

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長福氏:今回、IDEOで私がやったのは作り手に対してどういう観点でデザインすればいいのか、従来と違う見方を提示したこと。本当のデザインや開発は(その先にあって)、社会に出した時に価値につながるように収束させないといけない。

 ただ、IDEOで学んだことは、誰も気付いていない価値にアプローチしようとすることです。要はマーケットを自分たちで作る。

 彼らはたくさんのリサーチを重ねて、「こういう方がみんなよくない?」と共感を呼ぶようなストーリーに仕立て上げる。それを見せられると、「僕が欲しいのはこれかもしれない」という気になる。

 そのストーリーテリングがJAXAに必要な能力だというのが一つの学びです。「市場がこうだから必要な技術は何か」でなく「こういう考え方でこういう姿を目指します」と。今まで実現していないビジョンや姿を、国民や一般の人が共感できるストーリーにする。それがないから、僕らは硬直感があって動けないのじゃないかと思います。

新事業促進部 小谷勲氏:少し補足すると、JAXAは技術開発からスタートした長い歴史があり、世界をリードする技術開発を行うことに存在意義がありました。ところが、最近、宇宙活動が多様化して社会課題の解決や経済活動、安全保障などわれわれに求められることが多くなってきたんです。

 政策が多様化し、一つひとつのプロジェクトや技術開発が何につながるのが問われている。民間企業は顧客に対して適切なものを出していかないといけないという明確な目標があるが、われわれにそういう経験は不足している。JAXAは変わらなくてはならない転換期にある。

 だからこそ、越境プログラムを経験した人が増えることで、JAXAの立ち位置、役割を再認識したうえで、われわれの組織文化も変えていけたらと思っています。

JAXA 新事業促進部 小谷勲氏
JAXA 新事業促進部 小谷勲氏

越境経験後の生かし方が大事

――この越境経験を今後にどう生かしていきたいと思われますか?

岡本太陽氏:業務に反映していくのはもちろん、越境プログラムは他の人も是非続いてほしい。自分と違う業種や価値観を持った人たちとコミュニケーションすることによって、自分を高め、次のアクションにつながる何かを得る。そのあたりを刺激していきたい。

 答えが見えているものをさらによくするには効率化が求められるが、新しいことをやるときは効率的にはできない。余白が大事で、越境プログラムは余白を強制的に作るいい機会です。

 JAXAは社会実装に対してまだすごく課題をもっている。研究開発機関だからマーケットの知識も十分になく、技術オリエンテッドになっている状況はまだ脱皮できていない。

岡本太陽:第一宇宙技術部門(衛星の研究開発)で他社や他機関との協力を行うための協定や契約に関する法務的な取りまとめ業務を担当。DBJには2021年10月から2022年3月まで週1回越境
岡本太陽:第一宇宙技術部門(衛星の研究開発)で他社や他機関との協力を行うための協定や契約に関する法務的な取りまとめ業務を担当。DBJには2021年10月から2022年3月まで週1回越境

 事務系職員もJAXAの事業や技術を世の中に伝えないといけないが、十分なスキルがなくてなかなか難しい。そんな課題を感じていたら、DBJ(日本政策投資銀行)の方も個別の投融資案件の成立に力を入れるあまりに視野が狭まってしまうところがあり、日本の将来社会像を描き、実現していくという視点が必要という課題を感じておられた。

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