インタビュー

衛星データ活用で理解すべき「できること」「できないこと」 –天地人の創業者・百束氏に聞く

2023.05.24 09:00

藤井涼日沼諭史

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 地球の周回軌道上に投入された衛星の数は累計で1万5000を超え、近年は毎年1000機以上が新たに打ち上げられているという。そうした大量の衛星が観測することによって得られたさまざまなデータは、地図や天気予報、防災など、私たちにとって身近で欠かせないサービスとして役立っているのはご存じの通り。しかし、いまだそれら衛星の機能がもつポテンシャルをフルに発揮できているとは言いがたい。

 たとえば内閣府では「課題解決に向けた先進的な衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」という取り組みを通じて、衛星データの有効な利活用の方法を模索している。言い換えれば、既存の衛星データの活用には新たなビジネスにつながるチャンスも秘めていると言えるだろう。とはいえ、衛星データの活用はハードルが高いイメージがあり、何から手を付ければいいのかわかりにくいところもあるのではないだろうか。

株式会社天地人 COO/創業者の百束泰俊氏

 そこで今回は、JAXAにおいて衛星開発の経験をもち、衛星データを活用するスタートアップの天地人を立ち上げたCOOの百束泰俊氏に、衛星データを活用するにあたって考えるべきポイント、有望な応用分野など、新たなビジネスにつながるヒントを伺った。

衛星データで「できること・できないこと」を理解しよう

――まず、百束さんのご経歴や創業にいたった経緯などを教えてください。

 僕はJAXAで人工衛星の開発に携わってきました。衛星にはいろいろな種類があり、みちびきのような位置情報を知るための「測位衛星」、BS/CSなどの「放送衛星」、場所を問わずにインターネット接続できるようにする「データ通信のための衛星」、それともう1つ「地球観測衛星」というのもあります。

 僕が開発してきたのは最後に挙げた地球観測衛星なのですが、宇宙なのに地球を見ているわけで、言ってみれば地味なんですよね(笑)。探査機のような夢を抱けるようなジャンルではない。でも、地球を見ているので地球の課題解決には使える。というか、そのために打ち上げたものなんですけど、長期的な気候変動の分析や異常気象の原因解明など、これまでは主に科学的な用途で使われることが多かったんです。すぐに結果が出るわけではないですし、今困っていることを素早く解決する、というような目的にはあまり使われてきませんでした。

 災害監視や防災など、公共性の強い用途もありますが、JAXAや国土交通省のような公的機関が使うばかりで、なかなか民間企業では使われてこなかった。それでも地球観測衛星の歴史はすでに30年(日本最初の地球観測衛星は「もも1号」で1987年打ち上げ)。地球のデータが大量にアーカイブされているので、改めてそのデータを紐解いてみれば、何かもっと別のことに役立つインサイトが得られるんじゃないか、あるいはそれがビジネスで使えるのではないか。そう思って天地人という会社を作りました。

 近年は衛星で使われるハードウェアの性能がどんどん上がってきていますし、データ活用の領域もどんどん広がっている。そこが両輪で回り始めている状況ですので、数年後にはさらに進んだデータ活用ができるようになる可能性も高い。ハードウェア面での理解とビジネス面での使い方のセンス、その両方を組み合わせながら事業を展開していくことが重要と思い、天地人ではまさにそれを目指しています。

――衛星を使って何ができ、何ができないのか、そのあたりの情報を改めて整理できればと思うのですが。

 AIもそうですけど、新しい技術って「これまでになかった何かができそう」みたいな期待値が高いがゆえに、現実を知ってがっかりすることがあると思います。または新しい技術のなかにも、本当に優れたものとそうでないものが同時に出回って、ユーザーからはどれが良くて、どれが良くないのか判断しにくい状況になったりもします。人工衛星や衛星データって、今はまさにそんな感じなんですよね。

 たとえば衛星写真を使うと自動車やバイクや人が見えます、という話をすると、「銀座にいた人を衛星で追いかければ、その後どこに移動しているかわかりそう」なんて思われてしまうことがあります。たしかに技術的には不可能ではないのかもしれないけれど、現実的には衛星でそんな使い方はできません。高解像度の衛星写真は地球周回衛星によるもので、地球周回衛星は、静止衛星のように真上にずっととどまっているわけではありませんので。

 また、衛星写真だと1メートル以下の解像度で見えるほど進化していますが、それには大気がある程度澄んだ状態であること、曇っていないこと、昼間であること、といった前提条件があるんですよね。電波を使ったSAR画像というものであれば夜でも、雲があっても観測できるのですが、写真のような見え方になるわけではありませんから、クルマ程度は何となく見えたとしても、色や車種を特定するのは困難でしょう。

 地球観測衛星では赤外線カメラを使って地表の温度を調べられますが、赤外線カメラは普通のカメラほど分解能は高くなく、せいぜい100~200mくらいの解像度でしか情報が得られません。こういった衛星の種類ごとの制約がごっちゃになって議論されていて、期待値と実際にできることの間にギャップが感じられる状態になっているんですよね。

 それと「衛星データは値段が高い」というイメージもありますよね。これも若干誤解があって、実は政府系宇宙機関であるNASAや欧州のESAが提供している衛星画像は無料なんです。JAXAも有料と無料のものがありますが、公的機関が出している衛星データの多くはフリーなんですよ。ただし、今すぐに、指定地域の衛星写真を、タイミングもある程度指定して、できるだけ高い解像度で、みたいに特別なリクエストをすると数百万円かかることも珍しくありません。「衛星データが高い」というのは、そのイメージが強いからかもしれませんよね。

――そうすると、民間企業が衛星データを利用して何か事業を始めたいと思ったときには、最初はそういった無料のデータを活用するといいわけですね。

 そうですね。宣伝になってしまいますが、その際にはまず天地人に相談していただければ(笑)。お客様から相談があったときは、僕らもESAなどの無料のデータを利用して、分析費+α程度で最初のPoCを回すようにしています。衛星を開発してそこから得たデータを販売しているわけではないので、そういう会社と比べると圧倒的に安価に衛星データを活用したビジネスの検討を始められると思います。

――実際に衛星データを触ったことがある人はまだまだ少ないと思いますが、どのようなものを指すのでしょう。

 ものによって違いますが、たとえば衛星写真は一般的なJPEGではないものの、画像情報にはなっています。SAR画像は画像になっているものもあれば、電波の反射強度という数値的なデータになっていることもあります。地表面の温度だと、地上の位置情報と温度の数値が対になっているようなイメージです。夜間光のデータについても、位置情報と光の強さの数値で記録されていたりしますね。なので、僕らはそういった必ずしも可視化されていない情報を目に見える状態にしたり、時には頂いた条件をもとに一定のルールで数値を変換してお客様に提供しています。これらを1から処理しようとすると本当に大変なんです。

――それらを踏まえて、企業が衛星データを活用したビジネスを検討したいときには、まずどのようなところに相談するのが良さそうですか。

 衛星データ分析をしたい、その方法がまだわからない、という段階であれば、衛星を開発している会社ではなく、コンサルティングなどもセットで提供している企業に相談するのがファーストタッチとしてはいいだろうなと思います。僕らの他にはたとえばRidge-iさんやPASCOさん、リモート・センシング技術センター(RESTEC)さんなどが考えられます。たとえば僕らの場合はコンピュータービジョンを手がけながら気象データも扱うなど、各社で得意とするところが違ったりしますので、まずは気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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