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天地人、「月面アスパラガス」を栽培–「宇宙ビッグデータ米」の経験生かす

2023.02.20 15:27

飯塚直

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 JAXAベンチャー天地人(東京都港区)は2月20日、宇宙の視点から農業の課題解決を目指す「天地人ファーム」で「月面アスパラガス」の収穫を3月から開始すると発表した。

 地球温暖化による気温上昇や異常気象などの影響で、従来の栽培方法では農作物を安定的に生産できなくなる可能性があるという。実際、コーヒーの栽培適地が縮小。産地によっては、2050年までにコーヒーの栽培地が現在の50%に縮小するとの指摘もあるという。

 日本でも、気候変動に加えて、農業従事者の高齢化や不足、それに伴う耕作放棄地の増加などの問題に直面している。日本の農業は、労働力の確保のため海外からの技能実習生の力に大きく頼っており、感染症による国外からの渡航禁止期間は大きな痛手となっていた。

 そこで天地人は、これらの課題に対して宇宙の視点から解決を目指す天地人ファームを立ち上げた。同ファームでは、気候変動に対応したブランド米をつくる「宇宙ビッグデータ米」のほか、月面でのアスパラガス栽培を目指す、月面アスパラガスに取り組んでいる。

 同社では、2021年から宇宙ビッグデータ米を栽培。2022年に収穫した米については、米のおいしさを表す指数のひとつである食味スコアで、トップブランドと遜色ないスコアを獲得しているという。

 月面アスパラガスについては、2022年3月に苗を植え、現在順調に生育中。宇宙ビッグデータ米の経験を生かしており、得られた知見を地球の農業に応用することで、現在の農業が抱える課題の解決を目指している。

 アスパラガスは、農学部に在籍する22~24歳の現役学生インターン生が中心に栽培し、栽培管理から収穫については川崎市の農家が指導しているという。

 アスパラガスは、栄養ドリンクに含まれるアスパラギン酸や強力な抗酸化物質であるルチンが豊富に含まれる。宇宙では、生活習慣病を抑える働きをしている、体内の抗酸化物質の量が低下する可能性が報告されており、同社では月面で生活する人類の健康の維持に貢献できると考えているという。

 宇宙飛行士が宇宙に近い環境に段階的に移行して訓練するのと同様に、月面でのアスパラガス栽培を最終目標として、段階的な研究開発(フェイズ1~4)を進めている。

収穫した宇宙ビッグデータ米(出典:天地人)
収穫した宇宙ビッグデータ米(出典:天地人)

 2022年はフェイズ1として、栽培適地でアスパラガスの栽培を開始。耕作放棄地など、悪条件の土地でおいしいアスパラガスの栽培を試みるにあたって必要なノウハウを蓄積することなどを目標としている。

 フェイズ2は、耕作放棄地での美味しいアスパラガスの栽培。フェイズ3は、過酷な環境もしくは、限られた資源でおいしいアスパラガスの栽培。フェイズ4で、月面で美味しいアスパラガスの栽培を目指す。

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