インタビュー

衛星データ活用で理解すべき「できること」「できないこと」 –天地人の創業者・百束氏に聞く

2023.05.24 09:00

藤井涼日沼諭史

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日本の社会課題解決がグローバル展開のチャンスにつながる?

――現在、日本企業が進めている衛星データ活用のトレンドはあるでしょうか。

 日本では、今のところ衛星写真など単体のデータを見て何かする、というパターンが多いですね。ほとんどが1データ1ユースケースみたいな感じのプロジェクトになっているように思います。

 たしかに衛星写真はとっつきやすいですよね。ただ、衛星写真でも航空写真でも得られるインサイトは同じだったりするので、衛星のメリットをまだ本当の意味で生かせてはいないかもしれません。究極的には自転車をこいで現地まで行けばわかるようなことを、わざわざ数百kmも離れた宇宙から見る必然性はあまりないですよね。でも、事例としては生み出しやすいし、わかりやすい。

 衛星データの利点や強みは、地球全体を計測できる、どの地点においても同じ物差しで比較しやすい、あるいは過去から現在にかけて時間の変遷も含めて見える、といったところにあります。それをどう生かすかが衛星データ活用の次のステージで、そこを開拓していくのが僕らの目指すところであり、世界のトレンドでもあると思っています。

 なので、衛星写真だけを見る1データ1ユースケースのプロジェクトだとしても、世界中の何十カ所も常に監視するようなものになると、そこで一気に衛星の優位性が出てきます。地球上の離れた場所を同じ尺度、同じ観測装置で見る、それをタイムリーに更新して価値を出していくようなビジネスモデルを作れるかが、衛星データ活用のポイントだと思っています。

――天地人自身が進めているプロジェクトについてはいかがですか。

 僕が最初に参加した2018年の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster」は、天地人の設立のきっかけとなったイベントですが、そのときに「ポテンシャル名産地」というものを提案しました。これは、キウイフルーツのように南半球など限られたところに名産地があるような農作物について、その地域に近い気候であれば北半球の地域でも同じように栽培して、新たに名産地を生み出せるのではないか、というアイデアから生まれたコンセプトです。

 というのも、南半球の国の気象庁みたいなところが記録した温度の推移を見ても、北半球、たとえば日本の気象庁にある温度の推移とは、単純に比較できないと思うんです。気象台は決まった場所にしかないですし、国が違えば温度測定の考え方が違う可能性もあります。でも、人工衛星を使って測定したデータであれば、地球上のどこであっても同じ物差しで測ることができます。

 これは、まさに今僕らが提供している「天地人コンパス」というサービスにもフィロソフィとして受け継がれているものです。1つのデータで1つのユースケースを作るのと似ているかもしれませんが、考え方としては大きく違っていて、時間的な変遷と空間的な広がりを分析可能な衛星データのメリットをしっかり活かしたアイデアだと自分自身では思っています。

「天地人コンパス」

 また、後ほどご説明したいと思っていますが、「水道管路の漏水リスク評価」のようなインフラ系のプロジェクトでは、1種類のデータではなく、複数種類の衛星データを使っています。

――海外でそのように衛星データを複合的に活用している例はありますか?

 僕らが一緒に取り組んでいる例で言うと、温暖化が進んだ未来に作物をどこで栽培するべきかを検討したい、という欧州企業とのプロジェクトがあります。喫緊の課題解決というより、5年、10年、15年先を見据えて、今打てる手を考えるというものですね。

 他社でも気候変動に向けた分析や、二酸化炭素排出量の分析、森林状態のモニターなどで衛星データの活用が進んでいるようです。ただ、実例として見えてくることはあまり多くありません。事例がまだ少ないという見方もあるものの、未来に向けた意思決定に関係するところですので、僕としては戦略的な意味で言いたがらない会社が多いのではないかと思っています。ここで作ったらめちゃくちゃおいしい果物ができるとか、この場所に再生エネルギー関連の投資をしたら儲かるとか、そういう情報は言いたくないでしょう?(笑)

――たしかにそうですね(笑)。では、日本の強みが生かせそうな衛星データの活用方法は何かありそうですか。

 1つキーワードとなるのは、昨今よく叫ばれている少子高齢化ですね。僕らが始めている水道インフラのリスク評価のようなサービスは、高齢化に伴って担い手がいなくなり、効率化が求められているためにニーズが高まっているわけです。その意味では、日本は社会課題が顕在化している先進国みたいな立ち位置にいます。

 海外でも同じようにインフラの老朽化や労働力不足の問題がこれからますます本格化してくるでしょうから、今のうちに日本の課題に取り組むことがグローバル展開のきっかけにもなる気がしています。逆説的ではありますが、それは日本にとってチャンスというか優位性のあるポイントではないか、という気がします。衛星データの使い道は無限にあるような気がしていますから、みんながその可能性に気づいて取り組んでほしいですね。

――日本において足りていない分野、という点ではいかがですか。

 日本は僕ら天地人みたいに衛星データを扱って分析するところまだ少ないように思います。海外では衛星データを利用・分析するソリューション事業を手がけているスタートアップがたくさんあるのに、日本ではプレーヤーは増えてきてないんです。

 また、現在の宇宙産業はロケットを作る人、打ち上げる人、衛星を作る人、データ分析する人、その分析結果をサービスにつなげる人、という感じの業界構造になっていますが、たとえば衛星を開発しているところが衛星写真を提供していたりすることもあって、誰がどのポジションにいるのかわかりづらくなっているところもあります。

 SpaceXとかがえげつないのは、彼らはロケットも作ってるけど衛星のStarlinkも、それを運用するためのサービスも作っていること。それら全部をやろうとしたときにボトルネックになるのがロケットだと思ったからロケットから最初に作ったという……。お金があるとそういう垂直統合みたいなことを一気にやってしまえるんですよね。

 そういうロケットや衛星の開発、打ち上げのような「川上側」は投資が大きいので、日本のベンチャーが始めるのは難しい。なので、分析やサービス化など「川下側」を先に育ててマーケットを作ることで日本の宇宙産業全体を強くすべき、というのが僕の持論です。それによって川上側に投資が集まり、衛星を作る人が何十億、何百億のお金をかけて優れた衛星が作れるようになる。そういうのが順序的には正しいのではないでしょうか。

衛星から見えない地下の水道管を「見る」新たな事業

――天地人では「水道管路の漏水リスク評価」の事業が本格的に進み始めていると伺いました。

 これも日本の「インフラの担い手がいない」という課題解決からスタートしたアイデアで、愛知県豊田市での実証実験を経て、2023年4月から正式に事業としてスタートしました。福島市水道局さんが国内で初採用してくれました。水道管の漏水リスク管理業務システム「天地人コンパス 宇宙水道局」という名称にしています。

 地下に埋まっている上水道の水道管は、地面を掘らない限り直接見ることはできませんが、複数の衛星データと水道管の管路データを組み合わせることで水道管の劣化予測ができます。たとえば50年前に敷設した水道管が離れた場所に複数あるとして、どちらも材質や径が同じだとしても、どちらかが先に劣化して漏水します。なぜそんな違いが生まれるかというと、環境要因が考えられるかと思います。

 水道管は地表から数十センチ下に埋まっているので、寒い季節には凍結したり、猛暑の日には熱のストレスがかかったりします。さすがに50年前のデータはありませんが、直近5年程度でも衛星の赤外線データを遡って見てみると、それぞれの水道管にどういう温度ストレスがかかったかわかります。他にも地形・地質的な違いも影響するでしょう。地震で地盤が歪みやすいと、それだけ水道管にも力がかかりやすくなるので、SAR画像で地震前後の地形の変化を分析すれば漏水のリスクを測れます。

 こうしたリスク評価をもとに、自治体の側でどこが漏水している可能性があるか、どこを優先的に工事して新しい水道管に更新していくか、といった判断ができるようになります。福島市さんではすでに2023年度の分析に着手しているところです。

――そうした水道管の分析で最も手間のかかるところはどこですか。

 衛星データと自治体さんからいただいた管路データを組み合わせて、所定のアルゴリズムで分析しています。人の手で1つずつ分析しているわけではないので、そこまで手間がかかるわけではありません。無償のデータを最大限活用して分析のかなりの部分を自動化しているので、競合に比べて費用はおそらく半分程度と、かなりリーズナブルかと思います。

 ただ、自治体さんが今お持ちの管路情報や過去に漏水した箇所の履歴情報が紙の資料でしかないとなると、それを電子化、データ化して分析できる状態にするところで手間がかかります。しかしそれは、自治体さんにとってはいずれ必ずDXしていかなければならないところを今やる、というだけの話でもあります。僕らはその電子化からお手伝いしていますので、ご相談いただければという感じですね。

 とはいえ幸運にも、宇宙の技術を使いながら業務の効率化を図ろうとしている自治体さんは、先進的な取り組みをされているところばかりです。今のところは電子化からお手伝いすることが必要ない自治体さんがチャレンジしてくださっていますね。

――農業に衛星データを活用する取り組みもされていますが、そちらはいかがですか。

 お米の栽培に最適な土地を見つけて作った「宇宙ビッグデータ米」に加えて、今は月面のような過酷な環境でも育成できる技術を探求して栽培した「月面アスパラガス」にも取り組んでいます。宇宙から得られる成果はリアルな物として見えにくいものなのですが、お米やアスパラのような物を作って、実際の販売まで関われるというのは、僕らからするとすごく夢が感じられるものです。

 ただ、農業と漏水評価のようなインフラ系の2つの事業は、実はテクノロジー的にも共通しているところがあるんです。農業の場合は、顧客から成功の秘訣を聞き、それに使える衛星データや顧客がもつデータを集めて、それらのデータ統合で「美味しくなるところ」を探します。漏水評価の場合は、同じようにデータを集めて、ある意味「美味しくならなそうなところ」を探すので、基本的な考え方、システムとしては似ているんです。

 農業はなかなかコストがマッチしにくいのでニーズが高まりにくいのですが、そこで頑張ってきたエンジニアの取り組みが漏水評価の方にも応用できるので、決して無駄にはなりません。農業とインフラの領域を同時に手がけるという、難しいビジネスがなんとかうまくいっているのは、システム的にうまく共通化できているのも大きいのかなと思います。

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