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好奇心から始まった宇宙事業は人工流れ星から惑星探査へ–ALE代表・岡島礼奈さん【宇宙のお仕事図鑑】
2025.06.02 09:00
「宇宙関係の仕事につきたいけれど、どんな仕事があるのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。実は宇宙業界は日々変化をしており、新しい職種がどんどん生まれていますが、あまり知られていないように思います。
そこで、この連載「宇宙のお仕事図鑑【コスモ女子】」では、“宇宙を身近な存在に”をテーマにした女性中心の宇宙コミュニティである「コスモ女子」が、宇宙業界のさまざまな分野で活躍する女性を紹介していきます。第10回は、宇宙スタートアップのALEの代表取締役社長/理学博士(天文学)である岡島礼奈さんにお話を聞きました。

【プロフィール】1979年生まれ。鳥取県鳥取市出身。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。在学中に、サイエンスとエンターテインメントの会社を代表取締役として設立。大学院卒業後、ゴールドマン・サックス証券へ入社。その後、2009年から人工流れ星の研究をスタートさせ、2011年9月に株式会社ALEを設立。現在、代表取締役社長/CEOを務める。2019年1月に人工流れ星用の人工衛星初号機の打ち上げに成功。同年12月、人工衛星2号機の打上げに成功。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」を会社のMissionに掲げる。人々の好奇心を育む宇宙エンターテインメントと、気候変動の解明に貢献する中層大気データの活用、そして宇宙探査事業を通じ、科学と人類の持続的な発展への貢献を目指す。
【仕事内容】人工流れ星から惑星探査へと、社会と科学をつなぐ宇宙事業を展開
――現在のお仕事内容について教えてください。
株式会社ALEの代表として、「科学を社会につなぎ、宇宙を文化圏にする」というミッションを掲げ、宇宙に関するさまざまな事業を展開しています。まず、エンターテインメント事業として、人工流れ星のプロジェクトに取り組んでいます。これは、人工衛星から粒子を放出し、夜空に流れ星を描くという世界初の試みです。これまでに2機の衛星を打ち上げ、技術的な課題は克服しつつ、実現化に向けて進めています。
次に、大気データの取得にも力を入れています。人工流れ星や小型衛星を活用して、これまで観測が難しかった中層大気のデータを高頻度で取得し、気候変動のメカニズム解明や気象予報の精度向上に貢献することを目指しています。また最近では、人工流れ星で培った粒子放出の技術を惑星探査にも応用しようとしています。

海外のイベントで「人工流れ星」について説明する岡島さん
――ALEの人工流れ星の技術が惑星探査にまで広がっているのですね。もう少し詳しく教えていただけますか。
人工流れ星で用いる粒子放出装置の技術は、実はいろいろな用途に応用できそうで、その中で惑星探査という新しい扉を拓こうとしています。
2029年4月13日に、アポフィス(Apophis)という地球に近寄る直径約340mの小惑星があります。なんと3万2000kmまで接近すると言われています。気象衛星ひまわりの距離が3万6000kmなので、すごく近い。例がない接近ですね。この歴史的瞬間を観測するプロジェクトをNASAもESA(欧州宇宙機関)も進めようとしています。
具体的には、われわれの人工流れ星放出装置の技術を応用し、アポフィスに対して微笑物体を正確に地表に衝突させることで小さなクレーターを作り、その表面および内部構造の変化を科学的に観測するという国際プロジェクトです。
1cm程度かつ流れ星の時よりもエネルギーを調節して粒子を放出することで安全に衝突をさせ、観測できます。小惑星アポフィスの探査ミッションとして、東京大学の専門家と共同研究として進めていきます。将来的には、ロボットによる宇宙資源開拓へのヒントや、プラネタリディフェンス(地球防衛)にも発展する可能性があると思います。
――そのほかにも、ALEならではの取り組みがありましたら教えて下さい。
流れ星は、欧米諸国では「星に願いを」という文化があり、祈りや願いの象徴として、ランタンや灯籠の「明かり」とも密接に関わっています。この文化的背景を踏まえ、大阪万博では、「いのりとあかり」をコンセプトに、竹あかりと宇宙技術を融合したイベント「ALE for Earth 2025 ともしびで地球へエールを送る」を七夕に向けて開催します。
皆さんの願いごとを集めることで、世界が抱える社会課題の発見にもつながるのではないかと思っています。その課題を万博終了後には経済団体などにつないでいき、課題解決に向けたアクションにつなげることができれば理想的ですね。
また、万博会場だけでなく、蔦屋書店さんとも連携し、日本の各地で身近に楽しみながら参加していただけるような展示やワークショップも予定しています。スマホを見ていると視野が狭くなりがちですが、空を眺めていると世界平和のような大きな願いがしたくなる。そんな社会にしたいですね。

【宇宙へのきっかけ】幼少期に見上げた星空–天文学から金融業界を経て宇宙業界へ
――宇宙が好きになったきっかけを教えてください。
私は鳥取県出身で、星空がきれいなところで育ちました。小さい頃にスティーヴン・ホーキングの『ホーキング宇宙を語る』(早川書房)の書籍や、アインシュタインの相対性理論を扱ったマンガ、科学雑誌『ニュートン』の宇宙特集等の本を読んで、すごく宇宙に興味を持ちました。「宇宙はどうやってできたんだろう?」ということに強く惹かれて、中学や高校くらいから宇宙分野に進みたいなと考えていました。
――創業のきっかけを教えてください。金融業界に入社された時から起業を意識されていたのでしょうか?
私は大学で天文学を専攻していて、人工流れ星のアイデアも学生時代に思いついたものなんです。そもそも、「科学を社会につなぐ」ことがやりたかったんです。科学を発展させて、それで人類のサスティナブルな発展に役立てたいという想いから、いつか起業をしようと思っていました。
そんな中でゴールドマン・サックス証券に入社したのは、お金について学びたかったからです。金融の世界を知れば、科学分野に資金を集めるための考え方やアイデアが得られるのではないかと考えました。ただ、入社した年がちょうどリーマンショックの年で、すぐに部署縮小となり、1年で退社することになりました。そのタイミングで、自分の会社を立ち上げて、人工流れ星の研究開発を本格的に始めました。
――研究は具体的にどうやって始められたのですか?
はじめは論文を読みながら進めていましたが、私自身はエンジニアリングの専攻ではなかったので、自分の知識や経験だけでは難しいなと感じました。それでまずは、協力してくれる大学の先生を探しました。「こういうことをやりたいので、一緒にやりませんか?」とお願いをして、共同研究がスタートしました。その後、流れ星の粒が明るく光ることが実験室レベルで確認できたので、これなら事業化できると思いました。
ただ、人工流れ星は世界で初めての取り組みだったので、周囲の理解を得ることがまず難しかったですし、ベンチャーキャピタルから資金を集めるのも本当に苦労しました。また、前例がない事業だからこそ、「これはどこが許可するのか?」という法制度の面でも難しさがあり、さまざまな法律関係の専門家に相談しながら進めてきました。やはり新しいことへのチャレンジというのは、いろいろあるなあと実感しています。

【これから宇宙を目指す方へ】宇宙業界の可能性
――最後に、宇宙業界を目指す人へのメッセージをお願いします。
実際にこれだけ高頻度で大容量のロケットが打ち上がる時代。宇宙業界は現在、国家予算が投入されるなど、技術革新が急速に進む重要な産業になってきています。多様なバックグラウンドの人が本当に求められている業界で、これからさらに大きくなっていくと思います。いろいろな方に宇宙業界にチャレンジをして可能性を切り拓いてほしいですね。
〇宇宙のお仕事図鑑とは?
このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで「宇宙のお仕事」を発信していきます。
〇コスモ女子とは?
『宇宙を身近な存在に』をテーマに活動している女性コミュニティです。勉強会やイベントを毎月開催。星や天体の楽しみ方から、宇宙旅行・教育・宇宙ビジネスまで幅広いテーマで開催しています。\世界初!/女性中心のチームでの衛星打ち上げに成功!