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「宇宙投資」で民間の宇宙開発を伴走支援–文系から宇宙業界へ入った大貫美鈴さん【宇宙のお仕事図鑑】

2023.11.17 09:00

井口 恵(Kanatta代表取締役社長/コスモ女子運営)

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 「宇宙関係の仕事につきたかったけれど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった」という方も多いのではないでしょうか。実は宇宙業界は日々変化をしており、新しい職種がどんどん生まれていますが、あまり知られていないように思います。

 そこで、この連載「宇宙のお仕事図鑑【コスモ女子】」では、“宇宙を身近な存在に”をテーマにした女性中心の宇宙コミュニティである「コスモ女子」が、宇宙業界のさまざまな分野で活躍する女性を紹介していきます。第1回は宇宙ビジネスコンサルタントであるスパークス・イノベーション・フォー・フューチャーのエグゼクティブヴァイスプレジデント・大貫美鈴さんにお話を聞きました。

【プロフィール】宇宙ビジネスコンサルタント。清水建設宇宙開発部署、JAXAでの勤務を経てスペースアクセスを設立、宇宙ビジネスコンサルタントとして欧米の宇宙企業のプロジェクトに参画するなど、国内外の商業宇宙開発の推進に取り組む。2020年春から現職で宇宙ファンドの運用や調査に携わっている。経済産業省国立研究開発法人審議会委員、ニュースペース国際戦略研究所理事、国際月面天文台協会理事ほか。著書に「宇宙ビジネスの衝撃」(ダイヤモンド社)ほか。

【仕事内容】資金運用だけでなく、経営や営業支援も同時に行う「宇宙投資」

――まずは、大貫さんの仕事内容を教えてください。

 ひとことでいえば、「宇宙投資」です。スパークス・イノベーション・フォー・フューチャーは、宇宙専門ファンド「宇宙フロンティアファンド」を運用する会社です。宇宙ファンドの運用や調査、ファンドに投資してくださる企業様への事業支援をしています。

――宇宙投資について詳しく教えてください。

 私たちの仕事は、スタートアップに対する「投資」と投資後の「伴走」が両輪となって会社の成長を成し遂げることを使命としています。 政府主導の宇宙開発では、国の予算が使われます。一方で、民間の宇宙事業では、自分たちで事業をするための資金を調達しなくてはなりません。

 宇宙事業は、資金のかかる事業も多く、回収までのスパンも長い傾向にあります。ですので、宇宙関連企業への投資が増えることは大きな意味があるわけです。そこで宇宙投資では、投資家の方からファンドに資金を集め、宇宙産業の振興に貢献することを目標に、宇宙ベンチャーをはじめとする民間の事業会社を支援していきます。

 ただ、資金の支援をするだけではなく、市場獲得や事業を拡張していくためのハンズオンも大切にしています。宇宙ベンチャーの意志にしっかり寄り添いながら、私自身の経験を活かして伴走型で支援をしています。

――大貫さんの肩書である「宇宙ビジネスコンサルタント」という名称はオリジナルですが、どういう発想からつけられたのですか?

 JAXAでの経験を経て独立したときに、肩書として「宇宙ビジネスコンサルタント」と名づけました。しかし、独立した当時は「宇宙ビジネスコンサルタント」は世の中になく、聞きなれないものとして怪しく響いたかもしれません。この15年あまりの宇宙商業化とともに、宇宙ビジネスコンサルタントの社会的な役割も広がってきました。

 私は、現地に行き、リアルに人と交わって得た情報や知識を大事にしています。宇宙商業化の中で事業開発、市場開拓になんとか貢献したい気持ちでいっぱいでした。だからこそ、単に情報収集をして終わりではなく、多くの人を巻き込んで行動を喚起し具体的に形にしていくことを大事に仕事をしています。

無重力体験をしたときの写真

【きっかけ】配属先が「宇宙開発部署」–まったく興味がなかった宇宙との出会い

――宇宙業界の仕事に関わることになったきっかけを教えてください。

 もともと宇宙が特別好きというわけではなくて、最初に就職した総合建設会社で、たまたま宇宙開発部署に配属になってしまったんです。建設の仕事のつもりが偶然、宇宙に行ってしまった、というか。とても戸惑いました。

 実を言えば、就職は結婚までの「腰掛け」のつもりだったんですよね。自分がやりたいこともはっきりしていませんでした。当時はバブルのまっただ中で、学生時代はのんきな女子大生でした。 宇宙開発部署配属は想定外でしたが、お気楽な新人だったから楽しく過ごしていましたね。ただ、楽しく過ごしてはいたものの、自分の居場所じゃないと感じていました。

――独立しても宇宙の仕事をしていくことになったのは、なぜですか?

 国際宇宙大学の日本窓口を担当したことが最初の転換点でした。国際宇宙大学は、宇宙関連分野で活躍する人材を育成する教育機関で、約10週間にわたり夏期セミナーの形式で各国の持ち回りで開催されています。私は、日本から参加する学生や講師派遣、現地運営に携わりました。

 20カ国以上100名を超える学生が毎年参加して、様々な専門の先生が入れ替わり立ち代わりで講義をする10週間。学生も先生も非常にやる気溢れるひと夏を過ごします。当時参加していたのは、宇宙先進国からこれまで宇宙開発をやっていなかった新興国まで様々でした。

 国際宇宙大学を設立したのは、当時MIT(マサチューセッツ工科大学)の大学院生だった3人です。そのうちの1人、「ピーター・ディアマンディス」は後にXプライズ財団やシンギュラリティ大学などを設立したビジョナリーです。今でこそ、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスといった世界を代表する、絶大な影響力のある事業家が宇宙産業も牽引していますが、そういったビジョナリーと最初に接する機会でもありました。

 ピーター・ディアマンディスは開校式で何カ国の友だちがいるかと聞き、卒業式にもう一度同じ質問を参加者にします。最初は2~3カ国であった参加者も卒業時には20カ国以上になります。失敗や成功も体験を通して国際協力を学ぶ場にもなっていますし、運営を通して私も惹き込まれていきました。

 国際宇宙大学を通して、世界中から学生や講師が集まり、宇宙について学びながらデザインプロジェクトをやり遂げて卒業していくという過程に毎年繰り返し接していました。入社したてでこれから社会勉強をしていくという、まさにスポンジ状態で吸収できるときに、こうした環境に身を置くことができてよかったと思います。

 その当時、国際宇宙大学に参加していた人が今は年を重ねて重要なポストにつき、大切なネットワークとなっていますこの国際宇宙大学の運営で培ったネットワークが、宇宙ビジネスコンサルタントとして活動をする上での財産になり、今の投資会社にも生きています。

【やりがい】宇宙業界の最先端に関わる醍醐味

――仕事のやりがいについて教えてください。

 世界の宇宙業界の最先端に関わり、本当に多くの経験をさせていただいています。1990年代に清水建設が宇宙ホテルを提案したことをきっかけに、世界中から宇宙旅行の情報がくるようになっていました。フォン・ブラウンの宇宙ステーションや、ジェラルド・オニールの宇宙コロニーはありましたが、一企業が宇宙ホテルを提案したのは、世界に先駆けて清水建設が初めてでした。

 その頃日本では、建設各社が宇宙開発への参入を目指して、月面基地や火星基地、宇宙農場や宇宙国際会議場など様々な構想を提案していました。

 宇宙ホテル構想の提案は、大型宇宙構造物の提案であるとともに、一般の人が宇宙に行く宇宙旅行の提案でもあったわけです。宇宙旅行客を想定して宇宙における衣食住遊も研究の対象になり、宇宙に対する興味が喚起されました。宇宙ホテル構想がきっかけで宇宙旅行に関わるようになりましたが、独立して商業宇宙を立ち位置に宇宙ビジネスにかかわるきっかけになったのも宇宙旅行でした。

 1990年代に米国のXプライズ財団が、民間による最初の有人弾道宇宙飛行を競うコンテストを開催しました。2004年に、スペースシップワンが民間の宇宙船として初めて100㎞を超える宇宙に到達する飛行を2回達成して賞を獲得しました。私は現地でこの飛行を見たのですが、「これからは民間の時代が来る」と確信しました。同年にヴァージン・ギャラクティックが設立され、スペースシップ2の運行を発表し、サブオービタル宇宙旅行時代の到来を予感させる大きな出来事でした。

 同じ思いは、2020年5月にスペースXのクルードラゴンが2人の宇宙飛行士を乗せて打ち上げられ、国際宇宙ステーションにドッキングした時にもありました。「商業有人宇宙飛行の黄金時代がくる」と感じました。国際宇宙ステーションのライブ映像はNASDAQ(全米証券業協会)の巨大スクリーンに映りましたが、経済刺激のシンボルとして、宇宙産業のみならずあらゆる産業の振興につながることが期待されていると思いました。

これまで参加したカンファレンスバッジの写真

――まったく宇宙と関係のないところから宇宙業界に入って、ご苦労もあったのではと思います。

 私は文学部の出身で、宇宙には興味を持っていませんでした。宇宙の仕事に就いたときは、周りに仲間がおらず常にアウェー感。自分はやっていけるんだろうかという心配が募るばかりでした。

 今は変わってきていますが、かつて宇宙業界は、理工系、物理、科学など「自分の専門はこれです」と言える人が活躍する敷居の高いところで、私が生きてきた世界とはまったく違いました。自分は、理工学部の出身でもなければ、文系であっても法律を学んで宇宙法や宇宙政策に明るいわけでもなかったからです。

 それでも、専門的な知識や経験がないことを隠す必要はないし、憂う必要もないと気付きました。逆に、守るものがないからこそ挑戦できる環境なのかもしれないと。独立して「わからないからこそ飛び込むことができる」という考え方に変わってから、かなり楽になりました。

――宇宙業界ではどのような適性が必要だと思われますか?

 宇宙業界は、変化のスピードがとにかく早い世界です。国際宇宙大学や、欧米の企業のプロジェクトに関わっていた際に特に強く感じましたが、新しい変化に適応しようとする姿勢は必要かなと思います。

 そして何よりも、仕事への情熱ですね。普通は得意な分野じゃなかったら、諦めたり冷めたりするのかもしれませんが、なんとか乗り越えてきました。特に宇宙分野というのは、幅広い領域がありますし、専門性の高い分野も多い業界です。前例がないことに関わる場合も多くあります。新しいことや正解がないことであっても、好奇心をもって楽しんで打ち込める素質は必要かもしれません。

【これから宇宙を目指す方へ】宇宙業界は特別な場所ではなく、身近に関わることができる

――ご自身の今後の展望を含めて、これから宇宙を目指す人へのメッセージをお願いします。

 宇宙産業は特別な場所ではなく、どんなひとでも関わることができる産業だと思います。私が伝えたいのは、いつでも挑戦可能で、挑戦するに値する産業であることです。宇宙産業は技術とビジネス両方においてイノベーションが起きるような魅力的な要素で溢れています。

 近年、コロナ渦で多くの業界が影響を受ける中、宇宙業界は変わらず発展を遂げてきた勢いのある業界です。資金や市場も拡大しており、宇宙新興国を含む新たなプレイヤーも増えました。ダイバーシティ(多様化)が加速度的に進んでいます。宇宙資源におけるルクセンブルクの活躍もありますし、ニュージーランドやオートラリアでも新たに宇宙機関が創設されました。国単位だけではなく、地方単位でも宇宙への参入も進んでいます。非宇宙産業、非宇宙企業の参入が進み、あらゆる産業とのシナジーが生まれていますが、その流れは加速度的に進んでいきます。

 宇宙商業化の流れの中で、宇宙産業は基幹産業になることが期待されていると思います。それとともに宇宙はどんどん私たちの身近なものとなり、宇宙産業は特別な人だけが関われるものではなくなります。会社に入ったら宇宙の部署があった、異動先が宇宙の部署だったという時代も遠からずくるでしょう。

 現在、日本で宇宙の職業に就いている人は約9000人と言われていますが、宇宙ベンチャーの雇用もあり、増加傾向にあります。宇宙の仕事が1つのキャリアパスにもなってきています。さらに宇宙ビジネスで新たな市場や売り上げが増大すれば雇用もずっと増えることが予想されます。市場開拓や資金調達で、営業や金融業界からのエキスパートも入ってきていますが、宇宙資源掘削オペレーターや宇宙服デザイナーなど、今後は今ない職種も出てくるかもしれません。

 今後、宇宙産業が他の産業へ新たな価値をもたらし、産業規模も大きくなる追い風となり得ます。様々な産業との結びつきの中で宇宙の利用を拡大するときに、私も何かお手伝いができればいいなと思っています。宇宙が身近になっているからこそ、宇宙の名前をあえて冠する必要のない宇宙を使った仕事が出てくることが理想です。

国際宇宙ステーションのロボノートと2ショット

〇宇宙のお仕事図鑑とは?
このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで「宇宙のお仕事」を発信していきます。

〇コスモ女子とは?
『宇宙を身近な存在に』をテーマに活動している女性コミュニティです。勉強会やイベントを毎月開催。星や天体の楽しみ方から、宇宙旅行・教育・宇宙ビジネスまで幅広いテーマで開催しています。\世界初!/女性中心のチームでの衛星打ち上げPJを発足中!(2024年度中打ち上げ予定)

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