特集
ISS「きぼう」の民間利用を進める宇宙商社Space BD–宇宙開発を支える中小企業の技術力
2021.12.06 15:45
中小企業が支える宇宙空間での実験
スペースデリバリープロジェクトでは、サンプルを固定するためなど、以下のようなさまざまな企業が技術協力している。
- 足立織物(兵庫県多可町、従業員数15人)=耐宇宙環境性を持たない対象物品を保護するため、限りなく宇宙空間に近いレベルで真空パッキングを委託
- コアマシナリー(京都府福知山市、従業員数19人)=複雑なデザインをアルミ板に表現するため、得意の表面加工技術を駆使し、さまざまな記念品となるアルミ板を制作
- 相模塗装(神奈川県平塚市、従業員数約30人)=記念品のアルミ板が宇宙空間に曝露された後もデザインを保持するために必要となる特殊なコーティングを塗布
- 東亜合成(東京都港区、従業員数1268人)=アルミ板を保護するために必要となる、JAXAと共同開発したコーティング剤を提供
- 由紀精密(神奈川県茅ヶ崎市、従業員数35人)=ExBASの側面部分のサンプルを固定するための枠板を製造
- ウェルリサーチ(千葉県市原市)=ExBASの温度を測定するために必要となる温度センサーを接着
- テイアイテイ(千葉県柏市、従業員数4人)=対象物品を格納するために必要となる布製のボックスを製造
- 共創テクノ集団(京都市中京区、従業員数4人)=木材暴露試験体を固定するためのアルミフレームとシャフトを加工
- 黒田工房(滋賀県大津市)=曝露用木材試験体を加工
- 道総研 林産試験場と北海道大学雨龍研究林=曝露用木材を提供
今回のプロジェクトに技術協力している企業の多くは中小企業だが、その技術力は大企業に勝るとも劣らないものと言われている。小規模であることから企業の組織体制は柔軟であることも魅力となっている。
1950年創業の足立織物は、中核事業である繊維事業の知見と真空パッキングの技術を融合させて、防災製品も事業としている。足立織物は宇宙環境に耐えられないサンプルを保護するために(今回で言えば紙)、宇宙空間に「極めて近い状態の真空パッキングでロール紙を曝露できるようになっている」(Space BD エンジニアリング事業部 中田星子氏)
これは、足立織物の防災用圧縮毛布をより小さくするための技術を活用したものだという。中田氏の説明によれば、足立織物は今回初めて宇宙領域に進出したという。
今回のプロジェクトでは、クラーク記念国際高校やSpace SAGA、損保ジャパン、八工大第一高、ブラジルのAirvantisはアルミ板を宇宙に送り出す。サンプルとなるアルミ板には各組織ごとに複雑なデザインが加工されるが、これをこなしたのがコアマシナリーだ。
1977年創業のコアマシナリーは、半導体製造装置などへの部品制作を担っており、アルミニウムやアルミニウム合金の精密切削加工とアルマイト処理が得意としている。今回のプロジェクトでもコアマシナリーは、アルマイト処理やレーザー加工で複雑なデザインを担当した。コアマシナリーも今回が初めての宇宙領域進出となる。
宇宙に曝露されるアルミ板は、さまざまな宇宙線に襲われることになる。その一つが、太陽の紫外線によって原子状に解離した、地球由来の酸素である「原子状酸素(Atomic Oxygen:AO)」であり、材料の劣化をもたらす要因となっている。
このAOにも耐えられるようにするために、瞬間接着剤「アロンアルファ」で有名な東亞合成(プロジェクト参加企業でもある)は、JAXAと共同で「耐AOコーティング剤」を開発。耐AOコーティング剤をアルミ板に塗布したのが、1963年設立の相模塗装だ。同社はさまざまな塗装技術を抱えているが、今回のアルミ板への耐AOコーティング剤の塗布には、自動車への塗装技術を活用している(相模塗装も宇宙領域には初進出)。
アルミ板を含めたサンプルをExBAS側面に固定するための枠板を製造したのが由紀精密だ。精密加工に強みがあるという由紀精密は1961年設立。JAXAを含めてさまざまな宇宙機器の製造実績があるとしている。