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スマホの中では見つからない「本物体験」を届けたい–星空体験プロデューサー・イワシロアヤカさん【宇宙のお仕事図鑑】
2024.04.08 09:00
「宇宙関係の仕事につきたいけれど、どんな仕事があるのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。実は宇宙業界は日々変化をしており、新しい職種がどんどん生まれていますが、あまり知られていないように思います。
そこで、この連載「宇宙のお仕事図鑑【コスモ女子】」では、“宇宙を身近な存在に”をテーマにした女性中心の宇宙コミュニティである「コスモ女子」が、宇宙業界のさまざまな分野で活躍する女性を紹介していきます。第5回は、星空体験プロデューサーのイワシロアヤカさんにお話を聞きました。
【プロフィール】天体望遠鏡などでトップシェアを誇る光学機器メーカーのビクセン(Vixen)に入社。主に広報として、星空案内、星を楽しむ旅行プランやイベントの企画を手がける。宇宙好きの女性「宙(そら)ガール」初代PR担当。京都嵐山で2014年にスタートした「宙フェス」立ち上げ時、協賛企業ビクセンの社員として「宙ガール」エリアを担当。2015年、結婚を機に高知県に移住。現在は sorashiro を立ち上げ、フリーランスのプランナーとして活動中。子どもから大人まで、みんなで楽しめる星空観察会、教室、座談会などを企画・開催する。イベント実績に、高知県牧野植物園での星空観察イベント「よるまきの ホシフルこんこん山」(高知市)、ホームセンターとコラボした工作&星空教室(ハマート)、キャンプ場や宿泊施設でのイベントプロデュース(四万十市、安芸市ほか)などがある。
【きっかけ】世界旅行後に「星空体験プロデューサー」に
――現在のお仕事について教えてください。
星空体験プロデューサーとして、子どもや入門者向けに星空観察会やワークショップを開催しています。「星空ガイド」として活躍したい人に向けて講座のディレクションもしています。
――イワシロさんは以前、望遠鏡メーカーのビクセンにお勤めだったのですね。
そうです。広報の仕事をしていました。望遠鏡や宇宙の面白さを伝えることによって、商品を売るための種まきをする部署ですね。そこで、お客様により分かりやすく面白さを伝えるために、子どもの頃に好きだった星について、再び学び始めたんです。望遠鏡で天体を見る技術や星座について勉強することで、自分の中で「星が好き」という気持ちが高まり、「誰かに自分の好きなことを伝えたら、すごくハッピーになれるんだな」という実感がありました。
――なぜ、退社を決意されたのでしょうか?
5年弱勤めましたが、夫が高知にいたので、結婚にともなう転居で退社しました。結婚式を挙げたあと、高知に本格的に移住する前に4カ月間世界を旅したんです。本当は1年間の予定だったのですが、体調を崩してしまいアジアまでとなりました。その合間には、新婚旅行をはさんでいます。
――斬新ですね!
インド滞在中、南部にあるコーチンで夫と合流しました。日本語ではコーチン、現地語ではコーチ、高知と同じ音だし「インドおもしろそう」ということで現地集合・現地解散しました。
――旅行は、世界各地で星を見るために?
星も見たかったけれど、バックパッカーの経験をしたかったんです。海外に行くことが好きで、違う文化の中で違う常識、違う言語や生活に直接触れることに興味があって。ただ見聞きしただけでは味わえない体感があるだろうと思ったのです。
人生において頭の中や目に見えない情報ではなく、自分の足でリアルな世界を実感する「本物体験」に大きな価値があると思っています。宇宙も、宇宙旅行はなかなかできませんが、宇宙についての「本物体験」をしたいと考えていました。
――「本物体験」は大事ですね。旅行後はどのようにして「星空体験プロデューサー」の仕事をスタートされたのでしょうか。
ビクセンは辞めたくて辞めたわけではなかったので、やはり宇宙に関する仕事ができないかと思いました。会社員時代に培った、星を見せるノウハウをもとに、少しずつでも何かやりたいと。でも、続けるためにはお金が必要なので、起業という道を選びました。高知は起業文化がある土地です。自治体の起業支援プログラムに応募して、自分の事業を立ち上げる経験をしました。
その後、出産して子育てが落ち着いたところで、本格的に取り組もうと開業届けを出しました。開業前にも、高知県立牧野植物園で、夜間のコンテンツを作ったりしました。1958年に開園した歴史あるすごくおしゃれな植物園で、夜間開園でのコンテンツを探している、ということでご縁がつながりました。ここが星空体験プロデューサーとしての最初の仕事になりました。しばらく続けていくうちに「星のことを伝えられる自由に活動している人=イワシロ」と認識されていったんだと思います。
この頃、高知みらい科学館がオープンしました。ずっと県内にはなかったプラネタリウムができたことで、星に興味を持つ人も増えました。いいタイミングだったのかなと思います。星のイベントに足を運ぼうという人も徐々に増えている気がします。
【仕事内容】スマホでは見つからない「本物体験」を届けたい
――星空体験プロデューサーをされる中で印象に残っていることはありますか?
子どもが目を輝かせる瞬間は、何ものにも代えがたいですね。子どもが望遠鏡から月を見た時に、「やばっ!超見えるんだけど!」などと言われると嬉しいです。さらに「お母さん、これやばいよ!」と言っていたりすると、「よしっ!」と思います。 親子で同じものを見ると、帰ってからも会話が続くと思っています。その場の感動だけでなく、後からも語ってもらえる体験を目指しています。体験を共有してほしいという思いは、自分自身の苦い経験があるからかもしれません。
――苦い経験というと?
小学生のころオゾンホールの話題がニュースになったときに、私は宇宙が好きだったし、地球という星にも興味があったので、「やばいじゃん!」と思ったんです。でも、夢中になって友だちにその話をしたら、「なにそれ」と言われてしまったんですね。共感してもらえないのは、とても寂しいことです。そんな経験があったから、子どもに芽生えた宇宙への興味を摘み取らないであげたいと思っています。
宇宙のことを話すと「よくわからない」と言われがちです。だから、子どもの話し相手となるときに、「こんな星も知ってる、ロケットのことも知ってる」と子どもが話してくれたら、「すごいね!よく知っているね」と言ってあげたいです。
家に帰ってからも、周りの大人が話を聞いてあげたり、本や図鑑を買ってあげたりすることで、子どもの興味の芽が育つといいと思います。そこから新たに、すごい技術や芸術、小説や音楽が生まれてくるんじゃないかと。「子ども=未来」ですから。親子で本物を一緒に体験することで、親子の会話や子どもへの関わり方も変わってくるのかなと思います。
――お仕事で、大変だったことはありますか?
大変というより工夫していることですが、星を見る人が集まる場所に顔を出すようにしています。高知には、星をお仕事にされている方や、趣味として楽しんでいる方のコミュニティががたくさんあります。
たとえば、コメットハンターの関勉さん、高知天文ネットワーク、芸西村天文学習館で講師をされている方、各地の星空同好会など。こうした方々とつながるのも、宇宙という共通項があっての賜物。出身地が近ければ親しみが湧くように、「宇宙好きなの?何やってる人なの?」という感じで話がつながるんです。
同時に、人間関係づくりを大事にしています。お礼をきちんとすること、仕事のフィードバックをもらって改善をするなど、今後も長く仕事をしたいと思っていただけるように意識をしています。こうしたつながりの中からお仕事をご紹介いただくこともありますし、私の活動を知っていただき、イベントに参加いただくこともあります。仕事のヒントをいただくことも多いですし、いい仕事をしていくためにも、人のつながりをとても大事にしています。
――自分から「宇宙が好き」「こんなことやりますよ」と発信することはとても大事ですよね。
行動は大事、「Just do it!」です。植物園の件も起業支援プログラムからの紹介でしたし、そもそもプログラムに応募したから実現したものです。
――ビクセン時代の経験が、今の星空体験プロデューサーの仕事に結びついていることはありますか?
星に関する技術は、社内にたくさんいる望遠鏡や星が好きな人たちから教わりました。星を見る旅行にも行きましたが、そこで防寒着はこうしたほうがいいとか、望遠鏡を見せるときにはこうしたら、といったことを教えてくれる文化がある会社でした。
仕事のやり方、進め方を学べたのは、上司に恵まれたおかげですね。小さい会社だったので、大きな展示会のブース作りを入社1年目でいきなり任されたんです。そのときに、「失敗しても私が責任取るから大丈夫」と言ってくれる上司で、恐れずにチャレンジさせてもらいました。
――イワシロさんのような仕事は、どのような人に向いていると思いますか?
「好きなことをやっている人は強い」と思いますね。たとえば、星に関することだったら事務作業であれ何であれ、苦に感じず働ける人は強いなと思います。好きで体験したことは全部つながっていきますよね。スマホがあれば何でも検索できるけれど、それは誰かに与えられたもの。自分が経験したものは誰も奪えません。私が「本物体験」を重視しているのは、そういうところです。
人に楽しんでもらうことが好きな人には、この仕事は向いているのかなと思います。私の仕事は、星を見て楽しんでもらうことです。自分自身が星を観察することが好きなら天文学者がいいかもしれませんが、誰かに星をみて喜んでもらうことが好きな人には、私のような仕事が向いているかもしれません。
【星が好きになった理由】好きだった「星の世界」を就活で思い出す
――星が好きになったきっかけを教えてください。
星に興味がわいたのは、小学生の頃。小学5年生のときに、ニュースで皆既月食があると知って、両親に望遠鏡を買ってもらったんです。ビクセンの50mm屈折式・経緯台、今も現役で使っているんですよ。土星の輪が見えるくらいの精度です。月が欠けていくのを見たり、家族で流星群を観に行ったりといった経験を積み重ねて、だんだん星が好きになっていきました。
でも、中学生になってからは、勉強や部活が忙しくなって星どころじゃなくなり、高校も星に関係ない部活に入っていました。大学2年生になって天文同好会に入ったんですが、かろうじて籍を置いている幽霊部員で、合宿やイベントの時にしか行っていませんでした。
ただ、大学卒業が近づいてきて、就活中に自分が好きなことを考え直しました。「そうだった、星が好きだった」と。買ってもらった望遠鏡は、確かビクセンという会社だったと、ウェブサイトを見て応募したというのが、就職までの流れです。
【これから宇宙を目指す方へ】
――これから挑戦したいことや目標など、今後の展望を教えてください。
ビジネスとしてもう少し活動できる範囲を大きくしたいです。今は一人でやっていてイベントの数も限られるので、一緒に働く仲間がほしいですね。私は平日の夜は活動できないので、平日夜に動ける人と、プロジェクトベースでコラボしたいです。新しいサービスや事業をどうやったら実現できるのか、ということに取り組んでいる最中なので、うまくいくといいなと思います。
――宇宙業界を目指す方にメッセージをお願いします。
大きな目標を立てて、ここでこうしなきゃいけないというのではなく、できることから始めるといいですよ。動いてみたら、いいことあるかもしれません。自分が好きなことや、夢中になったことを大事にしてほしいです。
〇宇宙のお仕事図鑑とは?
このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで「宇宙のお仕事」を発信していきます。
〇コスモ女子とは?
『宇宙を身近な存在に』をテーマに活動している女性コミュニティです。勉強会やイベントを毎月開催。星や天体の楽しみ方から、宇宙旅行・教育・宇宙ビジネスまで幅広いテーマで開催しています。\世界初!/女性中心のチームでの衛星打ち上げPJを発足中!(2024年度中打ち上げ予定)