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「宇宙葬」のための人工衛星打ち上げに成功–SPACE NTK代表・葛西智子さん【宇宙のお仕事図鑑】

2024.03.07 09:00

井口 恵(Kanatta代表取締役社長/コスモ女子運営)

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 「宇宙関係の仕事につきたいけれど、どんな仕事があるのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。実は宇宙業界は日々変化をしており、新しい職種がどんどん生まれていますが、あまり知られていないように思います。

 そこで、この連載「宇宙のお仕事図鑑【コスモ女子】」では、“宇宙を身近な存在に”をテーマにした女性中心の宇宙コミュニティである「コスモ女子」が、宇宙業界のさまざまな分野で活躍する女性を紹介していきます。第4回は、「宇宙葬」のための人工衛星打ち上げを成功させた、SPACE NTK代表取締役の葛西智子さんにお話を聞きました。

【プロフィール】2017年に宇宙空間における葬儀・散骨・埋葬・法要その他冠婚葬祭関連式典の請負、仲介斡旋およびそのノウハウの販売・プロデュース事業を内容とした株式会社SPACE NTKを設立。宇宙散骨のほか、宇宙遺骨旅行・宇宙生前葬などを企画。世界初となる宇宙散骨を目的とした人工衛星「MAGOKORO」の打ち上げを、2022年4月に成功させた。人一人分のご遺骨、ペットのご遺骨を宇宙散骨するのは世界初。SpaceXと直接交渉を成功させた世界初の葬祭関連事業としても有名となり、世界の注目を集めている宇宙ベンチャー。

【仕事内容】宇宙葬をプロデュースする会社の代表

――はじめに、葛西さんの仕事内容を教えてください。

 2つの会社を経営しています。1つは地球上の葬儀のプロデュースをする会社、もう1つが宇宙葬の会社です。葬儀の仕事に携わるようになって約30年以上になりますが、2017年から宇宙葬の事業をスタートしました。

 2022年4月2日に、米SpaceXのロケットで、人やペットのご遺骨の一部を宇宙空間に送ることに成功しました。宇宙散骨を目的とした人工衛星の打ち上げは世界初です。遺骨だけを積める人工衛星が世界初、ペットのご遺骨を宇宙葬にするのも世界初です。

 それともう1つ世界初なのが、人間一人分のご遺骨まで宇宙へ打ち上げることです。これまでは分骨で、小指よりちょっと大きめくらいのカプセル容器に入れるというものでした。人間一人分のご遺骨は、パウダー状にすると大体500mlのペットボトル1つくらいに収まります。

 宇宙葬にはいろいろな種類があります。まず「宇宙散骨」「宇宙遺骨旅行」、それから「宇宙生前葬」。実際に宇宙に行くのはその3つです。また、宇宙には行きたいけど行けない方のための、地球上での疑似宇宙葬もあります。これは宇宙をイメージした祭壇を作ったり、遺影を宇宙飛行士にしたりといった形です。

 「宇宙散骨」は、宇宙空間にご遺骨を納めた人工衛星を打ち上げることにより散骨することです。「宇宙遺骨旅行」は、宇宙空間に行って帰ってくるロケットにご遺骨を乗せるものです。実際に宇宙空間に行ってきたご遺骨を、たとえばアクセサリーにしてご遺族が肌身離さず持つ、といったことができます。「宇宙生前葬」は、まさに人生最後の旅行で宇宙へ行く、というもの。現在、2名にお申し込みいただいております。

遺骨を納めるカプセルのサンプル(出典:SPACE NTKのウェブサイトより)

 こうした「宇宙葬」は今のところ無人ロケットでの計画ですが、いつか有人ロケットで行いたいですね。最終的には、宇宙空間だけでなく月にも……。月に納骨堂を建ててみたいです。ご希望があれば、住む国や宗教も関係なく承ります。ご遺骨だけでなく、髪の毛や爪などの DNAや、想い出の品、メッセージカードなども募集しています。

――「宇宙散骨を目的とした人工衛星」について詳しく教えてください。

 宇宙散骨は自然葬の1つで、遺骨や遺灰の一部を専用の容器に入れて人工衛星に搭載し、ロケットで打ち上げます。人工衛星は、地上約500〜600Kmを数年間周回した後、大気圏に再突入して燃え尽き「流れ星」のようになります。

 これまでも宇宙散骨はありましたが、宇宙散骨専用の人工衛星ではなく、科学実験用の人工衛星の空間を一部場いただいて、ご遺骨を搭載する形でした。カプセルの大きさも、1cm四方の小さいものです。

 私も最初、実験用の人工衛星に一緒に搭載する形でいいと思っていたのですが、そのことを相談されたイーロン・マスク氏が、「ご遺骨は尊いもの、そんな実験用のものではダメだ。やるんだったらご遺骨だけの人工衛星を作ってあげた方がいい」とおっしゃったそうなんです。本当かどうかわかりませんが(笑)。価格的にも高額となるので悩みましたが、投資してくれる方、協力してくれる方のおかげで、なんとか打ち上げを成功させることができました。

 今回打ち上げた人工衛星は、200Kgまで積載可能な20cm×20cm×10cmのBOXが3個の衛星です。計10体の人やペットのご遺骨の一部と、メッセージカードや想い出の品などを宇宙空間に送りました。人工衛星が軌道上にある間は、スマホなどのアプリで位置情報もキャッチできます。目には見えなくても、どの方角の上空を飛んでいるかがわかれば、そちらを向いて手を合わせることもできます。

――どういう方がお申し込みになるんですか?

 故人の方が宇宙や空が好きだったという場合もありますが、幅広くいろいろな方に関心を持っていただいています。たとえば、ペットのお墓で悩まれている方。小さなペットのご遺骨なら、一体分でも100万円ほどで可能です。普通のお墓の場合は維持費もかかりますが、宇宙葬の場合は初期費用だけです。

 お墓の維持に悩まれている方にも興味を持っていただいています。首都圏を中心に「墓じまい」を検討する方が増えていますが、墓じまいの際に宇宙葬を活用するということもできます。宇宙好きな方々だけではなく、そうした方々からも宇宙葬の需要はあると思うので、まずは知ってもらうことが大事だと思っています。

SPACE NTKのウェブサイト

――宇宙葬に対しての葛西さんの想いを聞かせてください。

 葬儀と言うと暗いイメージを持たれるかもしれませんが、「亡くなる」ということは悲しいことではなく、むしろ私は次の世界に生きるステップだと考えています。私は小中高とずっと仏教の学校に通っていたので、こうした教えも受けて育ちました。宇宙葬は、ただの式典だけではなく、宇宙から来て息絶えた時にまた宇宙に還るという、仏教の輪廻の世界観のあらわれでもあるでしょう。「いってらっしゃい、お疲れ様でした」という気持ちでお送りしたいと思います。

 何よりも、亡くなった大切な方のことを思うことが一番の供養になると言われています。 そういう意味も含めて、宇宙葬とは個人の尊厳を大切にするという根本につながるのではと考えています。単純に星になるというだけではなく、そこに込められた深い意味を知ってもらいたいと願っています。

【きっかけ】子供の頃に「死んだら星になりたい」と思った記憶をヒントに

――会社を設立する前の経歴を教えてください。

 先ほどお話したように、小中高と仏教の女子校に通いました。高校卒業後、実は声優か舞台女優になりたくて演劇学校に行きましたが、早く結婚することになって、夢は途中で破れました。

 長男が中学生になった頃、私が学んだ「仏教」を生かせる仕事はないかと探して、アルバイト雑誌でセレモニーレディ募集の記事を見つけたんです。空き時間にやってみようかなというのが、葬儀業界に入るきっかけでした。お寺さんとの打ち合わせでも、仏教の知識が多少あることで重宝され、同期の人たちにお焼香するタイミングなど、お作法を教える立場になりました。そうこうしているうちに、社員になったんですね。

 そして、勤めていた葬儀会社でトラブルがあった時、起業家である私の父から「お前も、人に仕えるより代表になって自分のやりたいように仕事したほうがいいのでは」と言ってくれたことがきっかけで、33歳のときに思い切って起業しました。

――宇宙葬の事業をはじめたきっかけを教えてください。

 日本では、亡くなったらお墓の中に入るのが当たり前ですが、近年、海洋葬や樹木葬というものができ、海と土があるのに、なぜ空の葬儀はないんだろう、と疑問に思ったのが宇宙葬の始まりです。その発想のヒントは子ども時代にありました。私は子どもの頃、最期は星になりたいと思っていました。

 幼稚園児の時、日舞の稽古の帰り道に「お母さん、人は亡くなったらどうなるの?」という私の問いに「人は亡くなったら夜空に輝く星になるのよ!」と言われて見上げた夜空や、小学校からの下校中に電車から見た空など、夜空を眺めるのが好きだったんですね。

 もうひとつ、幼い頃の強烈な体験があって、それは祖母が亡くなった時に見た光景でした。宮城の方でしたが、火葬してすぐに遺骨を墓石の下にばらまくという葬儀でした。その光景がすごくショックで、自分は死んだら絶対星になりたいと思ったのです。 そんな記憶が5年ほど前に突然よみがえり、そこから宇宙葬という着想を得ました。

【やりがい】お客様に「よかった」と言われること

――仕事のやりがいについて教えてください。

 宇宙散骨の人工衛星の打ち上げ時に、総勢20名で米国に行きました。ご遺骨を打ち上げられたご家族の方や、想い出の品を載せた方も一緒だったのですが、実際に足を運んで、打ち上げの瞬間を見ることができて本当によかったと口々におっしゃっていました。

 打ち上げに行ったことをきっかけに、「宇宙が身近に感じることができた」「大事な人を思い出しながら空を見上げることが日課になった」という声も聞きました。初めてのことばかりで大変なこともたくさんありましたが、その分大きなお客様の「よかった」という声を聞くことがやりがいにつながっています。

――世界初の取り組みの中で、特に大変だったことについて教えてください。

 2017年に宇宙葬の会社を立ち上げて最初に分かったのは、日本では、法律の問題で宇宙散骨の人工衛星を打ち上げられないということでした。いろいろと調べていくうちに、民間では米国なら実現可能だとわかりました。

 しかし、私には宇宙業界の人脈も、知識も経験も何もありません。 米国に渡り、宇宙関連の企業にプレゼンをして回りました。2018年の国際宇宙開発会議では、アマゾン創業者のジェフ・ベソス氏もいる中で宇宙葬の実現に向けてプレゼンをしました。そこで出会った方たちのおかげもあり、SpaceXの日本人関係者とも知り合うことができました。

 それから、念願の想いが届きSpaceXと直接交渉をして、宇宙散骨用の人工衛星を打ち上げることになったのですが、私は大きな勘違いをしていました。SpaceXには人工衛星が用意されていて、お客様のご遺骨だけを乗せてもらえばいいと単純に考えていたのですが、そうではなく、人工衛星から作らなくてはいけないと分かりました。人工衛星を作った経験も知識も何もない状況でしたが、たくさんの方にご協力をいただき、なんとか間に合わせることができました。

――世界初のことばかりの中でプロジェクトを進めていくには、何が大切なのでしょうか。

 5年間、毎日が目まぐるしく大変な日々ですが、今はその大変さが逆に楽しくなっています。先ほどの質問でお答えしたような大変なことが起こった時に、「また来たか!」という感じで捉えることができるかは大事だと思ってます。あわせて必要なのは人脈づくりです。特に宇宙業界はお金がかかりますし、知識や技術や経験も必要です。1人でできることではないと思いますので、どれだけ必要な人脈を作っていけるかがポイントだと思います。

――人脈づくりの中で、大事にされていることを教えてください。

 その人の良いところを見つけてお付き合いするようにしています。私は人が大好きで、「馬鹿」がつくくらい正直に人を信じてしまいます。何度も何度もだまされたこともありましたけどね。それでも、あんな良い人なのに、なぜなんだろうと思ってしまうタイプなんです。

 とにかく人を大切にしたいと思っているので、その思いが伝わった人が、周りに残ってくれているという感じですね。人との関わりを大切にすることによって、プライベートでもビジネスでもどんどん広がっていく楽しさを自分なりに感じています。

【これから宇宙を目指す方へ】夢を実現するのはあきらめない力

――ご自身の今後の展望を含めて、これから宇宙を目指す人へのメッセージをお願いします。

 私は、宇宙のことなんて何も知らない状況で、ただ「星になりたい」という思いがきっかけで宇宙事業を始めました。2022年に形にすることができましたが、まだまだスタート段階だと思っています。2024年には第2弾の人工衛星を打ち上げたいと考えています。また、これからは宇宙空間だけではなく、月面探査車を活用して月をお墓にするという目標も形にしたいです。実際に募集もスタートしています。

 宇宙業界を目指す方へは、「絶対に諦めないでやり抜くという気持ち」を持って欲しいとお伝えしたいですね。夢を持ったら諦めないでやり続ける、それが成功への道標だと思っています。宇宙飛行士の山崎直子さんもおっしゃっていましたが、これから誰もが宇宙で仕事ができる時代になる、今はその先駆けだと。私は少しだけ先に、宇宙に携わる仕事をしていますが、これからどんどん若い人たちに、この後をついてきてもらいたいなと、心から思っています。

〇宇宙のお仕事図鑑とは?
このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで「宇宙のお仕事」を発信していきます。

〇コスモ女子とは?
『宇宙を身近な存在に』をテーマに活動している女性コミュニティです。勉強会やイベントを毎月開催。星や天体の楽しみ方から、宇宙旅行・教育・宇宙ビジネスまで幅広いテーマで開催しています。\世界初!/女性中心のチームでの衛星打ち上げPJを発足中!(2024年度中打ち上げ予定)

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