特集
広大な土地で宇宙開発を加速させる「北海道」–商業宇宙港やロケット開発拠点を現地取材
2023.12.12 08:30
広大な自然や食の宝庫として知られ、「都道府県魅力度ランキング」(ブランド総合研究所調べ)でも15年連続で1位に輝くなど、日本の観光地として不動の人気を誇る北海道。長年にわたり畜産や水産、農業など一次産業が盛んだが、近い将来、これらに加えて「民間の宇宙開発といえば北海道」と言われる日がくるかもしれない。
その象徴ともいえる施設が、コロナ禍の2021年4月に“アジアの民間にひらかれた商業宇宙港”として開港した、十勝の大樹町にある「北海道スペースポート(HOKKAIDO SPACEPORT)」だ。立地の良さを生かして、民間がつかえる宇宙港を核として“アジアの宇宙ビジネスのハブ”となるべく建設を進めている。
また、民間ロケット開発のインターステラテクノロジズ、気球での宇宙遊覧フライトを目指す岩谷技研、小型人工衛星向けエンジンを手がけるLetara(レタラ)、衛星リモセンデータを農業に役立てるスペースアグリなど、“北海道発”のユニークな宇宙ベンチャーも次々と生まれている。
勢いづく北海道の宇宙産業を後押しするように、宇宙港がある大樹町からも近い帯広では、毎年大規模な宇宙ビジネスの祭典「北海道宇宙サミット」が開かれる。2023年で3度目を迎えたが、10月中旬に開催された今回は現地に800名を超える宇宙関係者が集まり、昨今の宇宙ビジネスについて活発に議論した。道外からの参加者が約6割というから全国からの注目の高さが窺える。
UchuBizでは、そんな北海道における宇宙開発の最新動向を探るべく、現地の関係者に集中取材。北海道スペースポートを整備する大樹町や運営会社のSPACE COTAN、宇宙ベンチャーのインターステラテクノロジズや岩谷技研、さらには北海道庁など、それぞれの立場から宇宙ビジネスの取組みや今後の展望を聞いた。
アジアのハブを目指す民間にひらかれた商業宇宙港「北海道スペースポート」
とかち帯広空港から車を走らせること40分。十勝の南にある人口5400人の小さな町「大樹町」の市街地を抜け、のどかな農道を15キロほど南東に向かった先に、アジアの商業宇宙港である北海道スペースポート(HOSPO)はある。自治体の大樹町と指定管理者であるSPACE COTAN、利用者として民間ロケット企業のインターステラテクノロジズが協力し合いながら、運営・発展させてきた宇宙港だ。
ロケットの射場を見学するために、今後整備する予定だという海沿いの砂利道を進むと、インターステラテクノロジズが観測ロケット「MOMO」の打上げで使用している射場「Launch Complex-0(LC-0)」に着いた。JAXAの種子島宇宙センターや内之浦射場など、大規模なロケット射場と比較するとかなり簡易的な施設だが、すでにここから打上げられた民間ロケットが、宇宙空間(地上100km以上)に3回も到達しているというから驚きだ。
ただ、現地を見学すると、大樹町が宇宙港の建設に適した地だと理解できた。まず、東・南方向それぞれに海で開かれていることに加えて、近隣を飛ぶ航空機の便数が少ない。また、十勝地域は晴天が多いため、打上げ時に天候に左右されにくい。さらに、この辺りはもともと湿地帯エリアだったため、いまも近くに家屋が少なく、打上げ時に安全確保がしやすい。国土の狭い日本において、ここまで条件が揃ったエリアはなかなかないだろう。
宇宙港の中には1社単独の利用を想定したものもあるが、HOSPOは企業や大学、研究機関などが広く利用でき、それぞれのニーズにあわせて、試験から打上げ運用まで対応する。いまはまだ射場は「LC-0」のみだが、その隣に人工衛星用ロケット射場「Launch Complex-1」(LC-1)を建設中で、2024年度の完成を目指している。さらに、2025年以降にはより大型の「Launch Complex-2(LC-2)」の建設を計画中だという。
ロケット射場だけでなく、滑走路を備えていることも強みだ。HOSPO内には1000m滑走路を有する「大樹町多目的航空公園」が整備されている。もともとJAXAや企業、大学の航空宇宙実験などを目的に滑走路は1995年に設けられたものだが、今後はこの滑走路で宇宙旅行などに使われるスペースプレーンの試験なども可能になる予定で、今まさに1300mに延長する工事を進めている。将来的には3000m滑走路を新設する計画もあるという。
大樹町とともにHOSPOを運営するのが指定管理者のSPACE COTAN。同社で代表取締役社長 兼 CEOを務める小田切義憲氏は、ANAでの運航管理業務やLCCの立ち上げなどを経験してきた、いわば“航空のプロ”だ。その実績を買われて、アジアの商業民間宇宙港である北海道スペースポートの運用管理を任された。
2021年4月のHOSPOの開港から2年半が経ったが、小田切氏は「打上げタイミングの多少のずれはあるが、おおむね計画通り進んでいる」と現状を評価する。インターステラテクノロジズの打上げ実績の信頼性などから、すでに引き合いも多く、ロケットリンクテクノロジーやSPACE WALKER、さらには台湾のJTSPACEなど、国内外のロケット開発ベンチャーが同港での打上げを表明しているという。
しかし、課題もある。これまで利用者はインターステラテクノロジズ1社のみだったが、今後複数のロケット企業が打上げるようになると、一般的な空港にあるような管制塔などの様な付帯設備や、より組織的な運営が必要になってくる。現状はその仕組みづくりや設備・資金リソースが足りていないと、インターステラテクノロジズ代表取締役社長の稲川貴大氏は危機感を募らせる。
この点については小田切氏も、複数のロケット企業による打上げがより具体化してくれば、HOSPOの運営メンバーの増員も必要になるとの考えだ。また、これまでインターステラテクノロジズが打上げ時に1社で行ってきた行政機関や地元住民への説明をはじめとするさまざまな調整・渉外業務も、SPACE COTANが担う可能性はあると語った。
企業版ふるさと納税で全国2位になった「大樹町」
HOSPOがある大樹町は突然「宇宙のまち」になったわけではない。1985年に「宇宙のまちづくり」を掲げて、それから40年近く航空宇宙産業を誘致してきた。たとえば、2008年にはJAXAと連携協力協定を締結し、大樹町多目的航空公園内に大気球指令管制棟・大気球スライダー式放球装置を設置。ここで数多くの団体による航空宇宙実験が行われてきた。
その後、同町は「北海道に、宇宙版シリコンバレーをつくる」べく、2019年に「北海道スペースポート構想」を公表。地域再生計画「大樹発!航空宇宙産業集積による地域創生推進計画」が内閣府の認定を受け、2021年4月にアジアの民間にひらかれた宇宙港を開港した。
現在は、HOSPOの施設充実を急ピッチで進めているわけだが、その財源となっているのが「企業版ふるさと納税」。2022年度はHOSPO整備と宇宙スタートアップ支援に71社から約14億円(ハード整備に約2.6億円、ソフト支援に約11.4億円)が集まった。前年度の7.2億円から倍増しており、この金額は全国でも2番目に多い寄附実績だという。
大樹町に拠点を置くインターステラテクノロジズ創業者の堀江貴文氏の存在も大きい。同氏は2015年から大樹町に住民票を移しており、11月下旬時点で約360万フォロワーを抱えるX(旧Twitter)でも、大樹町について投稿するなどしてその魅力を発信している。また、町内には堀江氏がプロデュースしたパン屋「小麦の奴隷」の1号店や、家系ラーメン「堀江家」などの飲食店もあり、こだわった外装などが存在感を放っている。
こうしたさまざまなバックアップも受けながら、今後は長年の課題である町民の人口増加策にも取り組んでいきたいと、大樹町の黒川豊町長は話す。宇宙産業が盛り上がれば関係・交流人口が増えるのは他の宇宙港も同じだが、北海道は食や自然の宝庫だ。民間ロケットの商業宇宙港という強力な武器と、美味しい食事・自然やサウナといった魅力を掛け合わせて訴求することで、観光客の増加を狙えると考えている。
「これまでの40年、先人のたゆまぬ努力のうえで大樹町の今があると思っている。(宇宙の取組みは)山あり谷ありで、元気がない時期も途切れずに地道に続けてきた。長年の取組みの成果として、近年は他の町での出店を計画していた店舗が大樹町に変更した事例もある。今後は観光客向けに、多種多様な自然や農村の暮らしを生かしたアクティビティなども検討していきたい」(黒川氏)
日本初「宇宙に到達」した民間ロケットベンチャーの開発拠点
HOSPOからわずか5キロほどの近さに本社と工場を構えているのが、同港で民間ロケットを打上げる宇宙ベンチャーのインターステラテクノロジズだ。もともと本社として使っていた建物から目の鼻の先の、道路を跨いだ場所に2020年に新設した。黒い外壁の中に、同社のオレンジ色のコーポレートロゴが映える。
同社はもともと、宇宙機エンジニアらによる有志組織「なつのロケット団」として2005年に活動を開始。そこから発展して、2013年にインターステラテクノロジズ株式会社として大樹町に本社を構えた。そして幾度もの打上げ失敗と改良を経て、2019年に打上げた観測ロケット「MOMO」3号機が国内民間単独開発ロケットとして初めて宇宙空間に到達。さらに2021年には、ひと月に2機連続での宇宙到達を達成した。
これまで同社が打上げてきた観測ロケットのMOMOは、高度80~100キロの宇宙空間に弾道飛行するロケット。宇宙空間滞在中の数分間を活用した微小重力環境での実験などを目的にしたもので、全長は10mほどだった。MOMOで得られた知見を生かして次に挑むのが、小型人工衛星を打上げるためのロケット「ZERO」。全長32m、直径2.3mとなり、MOMOの約3倍の長さ、重量比では約10倍も大きなロケットだ。
昨今、小型衛星の市場は重量100~200kgがボリュームゾーンとなっているが、ZEROは地球低軌道(LEO)に最大800kgを打上げる能力を持つ。一気通貫の開発・製造体制にすることで、1機あたり8億円以下(量産時)という国際競争力のある価格での宇宙輸送サービスを目指す。国内のみならず、日本から近いアジアやオセアニア地域の打上げ需要に応えていきたいという。現在、HOSPOで建設が進む発射場Launch Complex-1で、2024年度以降の打上げを予定している。
同社の代表である稲川貴大氏によれば、現在はZEROのBBM(ブレッド・ボード・モデル)やEM(エンジニアリング・モデル)などで試験を繰り返しながら、各部品を開発している段階だという。また、HOSPO内に完成したばかりのZEROの燃焼試験設備で、12月7日にはエンジン「COSMOS」の燃焼器単体試験に成功した。
この燃焼試験で使用されたのが、十勝地方の牛のふん尿から製造した液化バイオメタン(Liquid Biomethane:LBM)。産業ガス大手のエア・ウォーター北海道と連携することで実現した。液化メタンは価格、燃料としての性能、扱いやすさ、入手性、環境性などが総合的に優れた燃料とされている。バイオメタン活用を発表しているのは、欧州宇宙機関(ESA)が開発しているロケットエンジン「Prometheus」に続き世界2例目で、民間ロケット会社としては初になるという。
稲川氏は「ロケット燃料には不純物を含まない高純度メタンが必要。さまざまな調達方法があるが、北海道にいる我々にとってベストな方法が牛由来の液化バイオメタンだった」と説明。地球温暖化や環境問題への貢献といったSGDsの側面はありつつも、あくまで性能と調達性を考えうえでの最善な判断だと語る。
そして、同社にとって2023年のビッグニュースの1つが、「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」に採択されたこと。衛星の打上げをSpaceXなどの海外ロケットに依存している日本の現状を変えるため、文部科学省は世界で戦える日本の民間ロケットを生み出すべく、スタートアップに補助金を交付する「SBIR」(Small Business Innovation Research)制度において、宇宙輸送分野に総額350億円を交付する。
このSBIRにインターステラテクノロジズも採択され、2024年9月末までに最大20億円が交付されることが決まった。この制度の特徴は、成果物の完成後に支払うのではなく“前払い”であること。これにより、スタートアップは資金繰りを気にせずにロケット開発や打上げに集中できる。ただし、選ばれた民間ロケット事業者は2027年度までに軌道上まで衛星(ダミーでも可)を打上げる実証を成功させる必要がある。
「米国ではNASAや軍の政策として、民間企業の資金、技術、射場を全面的に支援している。(日本の宇宙ベンチャーも)同じ土俵で戦えるように、JAXAや文科省に支援を要望していた。政府の中でも民間ロケットの必要性が議論される中で、我々が積み重ねてきた打上げ実績や、自らリスクを取って工場や人材に投資し続けてきた努力を、きちんとご理解いただけたことは嬉しい」(稲川氏)
同社では、まずSBIRで得られる資金によって、ZEROの開発と早期の打上げを目指す。そしてロケットを製造するだけでなく、自ら衛星データの企業ニーズなども生み出していきたいと話す。「自動車会社もいまでは車を作るだけではなく価値の提供にシフトしている。ロケット企業もハードとソフト、どちらも作っていく必要がある。一般の人々の生活が豊かになる総合インフラ会社になっていきたい」(稲川氏)
気球での「宇宙遊覧」を目前に控える岩谷技研
北海道ならではの宇宙開発はHOSPOに関わるものだけではない。広大な土地を生かした宇宙ベンチャーとして、もう1社紹介したいのが、北海道内に拠点を置き、気球による宇宙遊覧サービスを目指している岩谷技研だ。2024年度中の打上げ開始を予定している。
同社の宇宙遊覧サービスは、ヘリウムガス気球につながれた旅行用気密キャビンに乗りこみ、地上25Kmまで浮上。まるで宇宙から地球を見下ろしているような景色をじっくりと堪能して、地上に戻ってくるというもの。体験時間としては、2時間かけて上昇し、1時間ほど成層圏に滞在、十分に景色を楽しんだ後、1時間かけて降下する約4時間の旅だ。
宇宙旅行といえば、ヴァージン・ギャラクティックやBlue Originなどが展開するサブオービタル旅行をイメージする人も多いだろう。この宇宙旅行は航空機やロケットなどを利用して地上80〜100kmまで到達するため、空中に数分間浮くことができる。まさに宇宙らしい体験だが、そこに向かうまでのロケット打上げ時には6G近い負担が身体にかかる。また、当初は2500万円ほどで販売されていたが、需要の増加により、現在は6000万円以上と多くの人にとって手の届かない価格になってしまった。
この点、岩谷技研の気球旅行はサブオービタル旅行のように宙に浮くことはできないが、地球を見下ろしているような壮大な景色は楽しむことができる。また、ゆっくりと浮上することから身体的な負担も少なく、高齢者なども安心して利用できる。価格も2400万円とサブオービタル旅行の半額以下だ。すでに初年度の搭乗者5名は決まっているが、2年目以降は共創パートナーであるJTBが旅客募集をする予定だという。
「(地上25kmでは)昼間なのに星空が見られる。でも個人的には、地上が少しずつ離れていき、宇宙に近づきながら浮上していく最初の2時間が一番楽しいかもしれない」。同社の代表取締役である岩谷圭介氏は、気球による宇宙遊覧ならではの魅力をこのように語る。
岩谷氏は北海道大学で宇宙工学を専攻し、2011年に風船で宇宙に向けてカメラを打上げたことをきっかけに、気球の研究開発を開始。2016年に岩谷技研を設立し、2020年7月に有人宇宙遊覧プロジェクトを始動した。その後、2022年2月に有人飛行試験で高度30mに到達したのを皮切りに、徐々に高度を上げていき、2023年7月に高度6000m(6km)、さらに10月には10000m(10km)に到達した。
打上げ場所はもちろん、広大な土地のある北海道だ。10月の試験の離陸場所は南富良野町、着陸場所は中川郡本別町だった。ロケットと違って射場や滑走路なども不要で、爆発するといったリスクもないため、試験飛行をする際にも自治体の理解を得られやすいという。
同社は、今回の有人飛行試験での成層圏到達成功により、(1)人を成層圏まで運ぶための有人気球を開発・製造し運用できる、(2)減圧環境に耐える気密キャビンを開発し運用できる、(3)与圧キャビンを作るために必要な独立した生命維持装置を開発できる、という3点において日本初の企業となった。また、実験パイロットである研究開発部の及川明人氏は、日本初の成層圏を気球で飛行したパイロットになった。
ただし、気球による宇宙旅行を考えているのは岩谷技研だけではない。米国ではSpace Perspectiveが、気球型宇宙船「Spaceship Neptune」での遊覧サービスを同じく2024年に予定しており、GMOインターネットグループが日本企業として初めて搭乗することを2月に発表して話題となった。
岩谷氏は、競合他社の動向はそこまで注視していないと前置きしながら、人を乗せた上で、高度10000mの飛行実績を持つ同社が、世界でも一歩先を行っていると説明。「マーケットは一番最初に旗を取ることが大事」と強調し、自社の掲げた目標に向かって前進するのみだと淡々と語る。
なお、同社の気球旅行は当初は2人乗りのキャビンのため、パイロットと旅行者1人となるが、家族や友人と楽しめる大型モデルも検討しており、将来的には年間500人以上を気球で成層圏まで連れていきたいと展望を語った。
人材獲得や補助金で宇宙ベンチャーを支援する北海道庁
ここまで北海道の宇宙関係者の取り組みや声を紹介してきたが、道内の宇宙開発の動きを、北海道庁はどう見ているのか。北海道 経済部 産業振興局 スタートアップ推進室 主幹の八木裕輔氏に話を聞いた。
八木氏は、札幌生まれ札幌育ち。2007年に北海道庁に入り、食品や工業などさまざまな領域を渡り歩くなかで宇宙産業にも携わった。その後、2021年に出向した経産省でも宇宙を担当。2023年に帰庁し、現在は経済部のスタートアップ推進室で、スタートアップや航空宇宙に関連する企業を支援している。
北海道庁では2014年からインターステラテクノロジズのロケット打上げを支援。具体的には、航空・漁業関係者との連絡会議や、打上げ時の見学会場のイベント補助などをしてきた。また、道内企業の衛星データ活用も促進すべく、「北海道衛星データ利用ビジネス創出協議会」を設立。衛星データ利用に関する技術的な研修会や、国の実証事業を活用した事業化検討などをしてきた。
2020年には北海道衛星データ利用ビジネス創出協議会を「北海道宇宙関連ビジネス創出連携会議」に改名。副知事を会長とし、“オール北海道”の産学官連携体制を構築して、宇宙機器関連産業分野と宇宙利用産業分野を一体的に振興してきたと説明する。現在もこの連携会議を中心に、宇宙ビジネスセミナーや、宇宙ベンチャーの人材獲得支援、企業の実証支援などをしているという。
北海道にとって追い風となったのが、2023年9月に前述したSBIRに北海道のロケットベンチャーであるインターステラテクノロジズが採択されたこと。また、同じく採択された道外のロケットベンチャーであるSPACE WALKERや将来宇宙輸送システムもHOSPOでの打上げを表明していることから、今後さらに道内の宇宙産業が盛り上がることを期待したいと八木氏は話す。
一方で、北海道の宇宙ベンチャーからは北海道庁からの支援が弱いという声も聞かれた。八木氏によれば、北海道は1700を超える自治体の中で唯一、経済産業省や内閣府に人材を常に派遣し続けている自治体なのだという。そういった各省庁での経験を通して、多くの職員が国の補助金などの制度に詳しいと説明。北海道庁からの支援に加えて、国の制度情報も道内企業に提供することで、今後も宇宙産業を支えていきたいとした。
北海道の宇宙産業に感じた可能性
今回、道内の宇宙関係者の取材を通して、改めて北海道という土地が民間宇宙開発に向いており、今後日本の宇宙産業をリードしていく可能性があると感じた。民間ロケットの打上げや気球による宇宙遊覧サービスが始まる2024年度以降はその勢いはさらに増すだろう。
従来、世の中のイノベーションの中心にあったIT産業では、東京をはじめ人材が密集するエリアに圧倒的なアドバンテージがあったが、宇宙産業ではむしろ人口が少なく広大な土地があるエリアの方が有利な側面もある。宇宙開発で先行する米国、ロシア、中国、インドなどと比べて国土が狭い日本では、なおさらそういったエリアは貴重だ。北海道が日本の民間宇宙開発を力強く押し進めてくれることを期待したい。