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民間ロケット企業からみた「北海道スペースポート」の魅力と課題–「北海道宇宙サミット2023」現地レポート

2023.10.16 15:58

藤井 涼(編集部)

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 アジア初の民間に開かれた商業宇宙港「北海道スペースポート」(HOSPO)がある北海道十勝で、国内最大級の宇宙ビジネスカンファレンス「HOKKAIDO SPACE SUMMIT 2023(北海道宇宙サミット2023)」が10月12日に開催された。宇宙港がある大樹町から車で約1時間の帯広に、全国から宇宙関係者が集まった。

「北海道宇宙サミット2023」が帯広で開催。会場の外にはインターステラテクノロジズが開発中の全長約32メートル級の民間ロケットのイメージ模型が展示されていた

 2021年から開催されている北海道宇宙サミットは、2023年で3回目となる。参加者は年々増加しており、今年は昨年の700名を超える800名が現地で参加。このうちの約6割が道外からの参加者だ。また、オンライン配信を通じて12日18時時点で2200人がトークセッションを視聴。トータル3000人が参加する大規模カンファレンスとなった。

三井住友海上や日本旅行など各社の展示も賑わった
2024年度中に気球旅行サービスを開始予定の岩谷技研の「旅行用キヤビン」モックも展示

 同サミットでは、宇宙港である北海道スペースポートや、3度の宇宙到達実績がある民間ロケット開発企業のインターステラテクノロジズなど、北海道における宇宙産業のキーパーソンが登壇した。本稿では「北海道スペースポート」にフォーカスを当てて、サミットの模様をレポートする。

インターステラテクノロジズ創業者の堀江貴文氏やGO代表取締役の三浦崇宏なども登壇し、サミットを盛り上げた
会場では「十勝アグリ&フードサミット」も同時開催されており、ランチタイムには「鹿肉ラーメン」「コスモバーガー」など十勝産食材を使った料理が販売された

北海道スペースポートの「5つの強み」

 サミットの冒頭では、北海道スペースポートの指定管理者であるSPACE COTANで代表取締役社長 兼 CEOを務める小田切義憲氏が挨拶。これまでの北海道宇宙サミットのテーマについて振り返った。

 初回となる2021年は、北海道スペースポートが本格稼働した年だったことから「北海道、開港。」をテーマにしたが、続く2022年の2回目は、より宇宙を身近に感じてもらうために「宇宙と出会おう。」に設定。そして、3回目の今回は、能動的に宇宙に関わるためにはどうするべきかを参加者に考えてもらいたいという思いを込めて「宇宙を動かせ。」をテーマにしたと説明した。

SPACE COTAN代表取締役社長 兼 CEOの小田切義憲氏(提供:北海道宇宙サミット実行委員会)

 続けて、北海道スペースポートの強みも紹介。(1)射場を活用するインターステラテクノロジズが民間ロケットの宇宙到達に3回成功している実績、(2)東・南方向それぞれ海で開かれており航空機の飛行頻度も少ないこと、(3)北海道の広大な敷地があり拡張性があること、(4)十勝地域は晴天が多いこと、(5)帯広空港から1時間以内という大樹町のアクセスの良さを挙げ、日本の民間ロケット打ち上げ拠点としての優位性を強調した。

北海道スペースポートの5つの強み

 なお、大樹町は人口5400人の小さな町だが、これまで40年近くにわたり宇宙のまちづくりを推進してきた。ロケット打ち上げは周辺地域への影響が大きいが、長年の活動によって、すでに地元民の理解や支持が得られていることも、宇宙港の開発の追い風になっているようだ。

ロケット企業からみた「宇宙港」の魅力とは?

 では、ロケット開発企業からみた北海道スペースポートの魅力や課題は何か。過去にJAXAにおいて「イプシロンロケット」のプロジェクトマネージャーを勤めた経験を持つ、ロケットリンクテクノロジー 代表取締役社長の森田泰弘氏は、改めて大樹町が海に開けている立地のよさを評価した。

ロケットリンクテクノロジー 代表取締役社長の森田泰弘氏(提供:北海道宇宙サミット実行委員会)

 森田氏は、イプシロンの発射拠点である鹿児島県の内之浦射場は、山中にあることから、障害物を避けるための燃料が必要なほか、飛行安全の確保にも時間がかかると指摘。そういったリスクが大樹町は少ないため打ち上げに適していると、自身の経験を交えて説明した。

イプシロンの発射拠点である鹿児島県の内之浦射場
北海道スペースポートは海に開けておりロケット打ち上げに向いている。取材日も快晴だった

 続いて、有翼式の再使用型ロケットを開発するSPACE WALKER代表取締役CEOの眞鍋顕秀氏は、北海道スペースポートが「滑走路」と「射場」をどちらも備えていること、前述したように、大樹町が“宇宙のまち”として、地元民からも理解が得られていることも大きいとした。

北海道スペースポートの1000mの滑走路。現在は延伸工事中でさらに300m伸びる予定

 インターステラテクノロジズは、2013年から大樹町で事業を展開し、観測ロケット「MOMO」によって、民間ロケット開発企業として初めて宇宙到達に3回成功したスタートアップだ。早ければ2024年度にも、小型人工衛星を搭載した次のロケット「ZERO(ゼロ)」を打ち上げる予定だという。

インターステラテクノロジズの観測ロケット「MOMO」

 大樹町の宇宙産業に、自身も当事者として10年ほど携わってきたインターステラテクノロジズ代表取締役社長の稲川貴大氏は、近年、ロケットリンクテクノロジーやSPACE WALKER、さらには台湾のJTSPACEなど、国内外のロケット開発企業が次々と北海道スペースポートでの打ち上げを表明していること自体が、同宇宙港の魅力を物語っていると説明した。

課題は「煩雑すぎる日本の安全審査」

 一方で、北海道スペースポートならではの課題もあると稲川氏は続ける。長年の活動が実を結び、日本の民間宇宙港としてはすでに唯一無二の地位を確立している北海道スペースポートだが、実はこれまでは稲川氏が個別に挨拶回りをしながら、地元民や関係者の理解を得てきたという。

インターステラテクノロジズ代表取締役社長の稲川貴大氏(左)。同セッションのモデレーターはJAXA新事業促進部事業開発グループ長の高田 真一氏(右)が務めた(提供:北海道宇宙サミット実行委員会)

 ただし、国内外からの引き合いも増え始め「ステージが変わった」(稲川氏)。そのポテンシャルを最大化するには、資金も人材も全く足りていないと説明。今後必要になるであろう管制塔などの付帯設備も含めて、複数の関係者で組織で運用していく仕組みづくりが求められるほか、国のさらなる支援が欠かせないと訴えた。

 グローバルな観点で日本の課題を挙げたのは、台湾のJTSPACEで宇宙開発室 室長を務めるChristopher Lai氏。同社では北海道スペースポートへの打ち上げに向けて日本の関係省庁に申請中とのことだが、総務省や経産省など申請先が多いうえに日本語で対応しなければならないことから、海外企業が日本でロケット打ち上げをするには負担が大きいと指摘する。

JTSPACEで宇宙開発室 室長を務めるChristopher Lai氏

 これにはSPACE WALKERの眞鍋氏も強く同意。窓口1つで申請が終わるオーストラリアの事例を挙げつつ、アジアのハブを目指すのなら、煩雑な手続きを早期に見直す必要があると述べ、電波などの技術面も含めて「日本の宇宙港だけがまだガラパゴスになってほしくない」と危機感を見せた。

SPACE WALKER代表取締役CEOの眞鍋顕秀氏
SPACE WALKERが開発中の民間ロケットのモック

 これについて、ロケットリンクテクノロジーの森田氏は、審査する側の立場も経験したことがあることから「心配のあまり厳しくしすぎることもある」と釈明。とはいえ、国家プロジェクトと民間ビジネスでは、ロケットに求められる安全性の基準や考え方も異なることから、共存できる安全基準を関係者同士でオープンに議論する場を設けるべきだと語った。

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