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「Starlink」(スターリンク)とは?–料金や使い方、仕組みを解説:2024年6月10日更新

2023.11.13 09:48

塚本直樹小口貴宏(編集部)

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 実業家のElon Musk(イーロン・マスク)氏が率いるSpace Exploration Technologies(SpaceX)の宇宙インターネット「Starlink」(スターリンク)は、どのようにしてサービスを展開しているのか。料金や技術要素、競合サービスなどをまとめた。

(更新:2023年12月11日)Amazon KuiperとNTTグループの提携について追記。
(更新:2024年1月5日)スマートフォンとの直接通信に対応したStarlink衛星の打ち上げ成功について追記。
(更新:2024年1月10日)令和6年能登半島地震の防災対策にStarlinkが役立っている旨を追記
(更新:2024年6月10日)スマホ直接通信でビデオ通話に成功した旨を追記

Starlink(スターリンク)とは何か

 Starlinkは、衛星から地上にブロードバンド接続を提供する宇宙インターネットサービスだ。アンテナを設置するだけで、固定回線や携帯ネットワークが整備されていない山間部や海上、開発途上国などで高速なインターネットを利用できる。

 通信速度は一般家庭向けのもので、受信最大220Mbps、上り25Mbps。遅延も30msほどと短く、ビデオ通話やオンラインゲームも快適に楽しめる。

 プランは自宅など特定の場所で利用できる「レジデンシャル」、アンテナを持ち運んでさまざまな場所で利用できる「ローム」、海上で利用できる「船舶」プランがある。

Starlinkの第2世代アンテナ

 さらに、ビジネス向けの「Starlink Business」も提供されている。国内ではKDDIやソフトバンク、NTTドコモがSpaceXと提携し、Starlink Businessを活用した企業・自治体向け事業継続計画(BCP)ソリューション、山間部の建設現場向けのデジタル化ソリューションなどを販売している。

Starlink Businessのユースケース(出典:KDDI

日本で使うには?料金はいくら?

 Starlinkは2022年10月に日本でも利用できるようになった。家庭向け「レジデンシャル」の「スタンダード」プランの場合、月額料金は6600円(税込、以下同)。また、アンテナキット代として別途5万5000円の初期費用がかかる。

 契約はウェブサイトのほか、会員制倉庫型店舗のコストコでもStarlinkアンテナを購入できる。

 申し込み後に送られてくるアンテナキットには、StarlinkのアンテナやWi-Fiルーター、電源アダプター、ケーブル、ベースなど、インターネット接続に必要なものが全て含まれている。

 細かな説明書は無く、巨大な紙に「アプリをダウンロード」「屋外に置く」「コンセントに刺す」「Wi-Fiの電波が飛ぶから接続する」などのイラストしか書かれていない。

 だからといって設定が難しいということはなく、基本的にはアプリをインストールし、表示される指示に沿って済ませれば良い。空が開けたアンテナの設置場所さえあれば、そこにアンテナを置いてコンセントをつなげば、Starlinkを使える状態になる。なお、適当な場所がない場合は別途、アンテナや屋上などへの設置工事が必要となる場合もある。

関連リンク
200Mbps超えを連発–日本上陸した「Starlink」をさっそく自宅に導入

福井県の山際でStarlinkをレビュー

 なお、衛星ブロードバンドということで天候の影響が気になるが、Starlinkは雨天でも利用できるほか、アンテナはヒーターを内蔵しており、雪の降る地域でも利用できる。実際に福井県の山際での長期レビュー時、途中で悪天候などに見舞われたが、3週間の接続維持率99.9%以上と超優秀だった。

関連リンク
Starlink
福井県の山際で「Starlink」を長期レビュー–3週間の接続維持率99.9%以上と超優秀だった話

スマホとも直接つながるって本当?

 現状、Starlinkを利用するには据え置きアンテナが必要だが、2024年末までにはスマートフォンとの直接通信サービス「Direct to Cell」の提供が予定されている。これは、既存のスマートフォンとStarlinkが直接つながるサービスで、当初はSMSに対応し、2025年以降は音声通話とデータ通信に対応する。

 日本では「au」を展開するKDDI、海外では米T-Mobile、Optus(オーストラリア)、ROGERS(カナダ)、SALT(スイス)が対応を予定している。

(出典:KDDI)

 Direct to Cellが始まれば、これまで圏外だった場所でも、Starlink衛星を経由して既存のスマートフォンで通信できるようになる。なお、通信速度はセルあたり2〜4Mbpsと低速で、あくまで電波の届かない山間部や海上などで圏外をなくするためのサービスとなる。

 なお、SpaceXは現地時間1月3日に、Direct to Cellに対応したStarlink衛星の打ち上げに成功した。同衛星は大型フェーズドアレイアンテナを搭載することで、スマートフォンとの直接通信に対応している。

 さらに5月には、Direct to Cellでビデオ通話する実証実験にも成功した。

関連リンク
SpaceX(Direct to Cell)
au、Starlink衛星とスマホの直接通信サービスを2024年提供–日本全域をエリア化

従来の衛星インターネットとは何が違う?

 衛星を利用したインターネット接続サービスは従来から存在していたが、Starlinkの最大の特徴は高速かつ低遅延な点だ。

 従来の衛星インターネットは、地上から遠く離れた高度約3万6000kmの静止軌道(GEO)からサービスを提供しており、衛星数も数機程度と限られていた。

 一方のStarlinkは、高度550km程度の低軌道(LEO)に5000機以上もの衛星を打ち上げ、サービスを提供している。衛星と地表からの距離が近いために、電波の往復にかかる時間、すなわち遅延の大幅な短縮を実現した。また、5000機以上の衛星が存在することで、通信容量を各衛星に分散できるようになった。

 そのほか、Kuバンド、Kaバンドやフェーズドアレイアンテナといった高度な通信技術を用い、衛星通信でありながら快適なビデオ通話やオンラインゲームを楽しめる通信品質を実現した。

(出典:KDDI)

 また、Starlinkは衛星間の光通信にも対応している。このため、近くに地上局がなくても、衛星同士のリレーによってデータを遠くの地上局に降ろすことができる。日本でも地上局から遠い沖縄地域のStarlinkエリア化には、この衛星間光リンクが用いられている。

関連リンク
Starlink(技術ページ)

なぜStarlinkは多くの衛星を打ち上げられたのか

 Starlinkは、5000機以上という膨大な衛星をどのように軌道に投入したのだろうか。

 この打ち上げを担っているのが、Starlinkを提供するSpaceXのロケット「Falcon 9」だ。つまり、SpaceXは自社のStarlink衛星を、自社のロケットで打ち上げているのだ。こうした垂直統合型のビジネスモデルが、Starlinkの迅速展開を可能にしたと言える。

Falcon 9ロケット

 また、Falcon 9の第1弾は再使用可能で、打ち上げ後には射場近くに垂直着陸で帰還する。これによって、低コストかつ高頻度な打ち上げを実現している。

 さらに、Starlink衛星の形状にも工夫がある。打ち上げ時にはパネル上に畳まれ、何層にも積み重なってロケットに搭載されるため、1回の打ち上げで最大60機ものStarlink衛星を軌道に投入できる。

1回の打ち上げで最大60機のStarlink衛星を軌道に投入できる

 Starlinkは将来、1万機〜1万2000機の衛星を展開する予定だ。これによって、提供地域の拡大と、より高速で安定したサービスの提供を目指す。さらに将来的には、次世代ロケットの「Starship」を活用し、3万機の次世代衛星「Starlink V2」の打ち上げを予定している。

災害対策にも威力

 2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、被災地域での通信手段の確保にStarlinkが威力している。KDDIは350台のStarlink機器を避難所などに無償提供しているほか、ソフトバンクも被災自治体向けにStarlinkの無償提供を実施している。

 また、電力会社や自衛隊など、被災地の救援に関わる組織にもStarlinkが提供されている。

関連:KDDIとソフトバンク、「Starlink」を被災地へ無償提供–能登半島地震で

競合サービスのOneWebやKuiperも頑張っている

 低軌道衛星ブロードバンドを提供する企業としては、英Network Access Associatesが手掛ける「OneWeb」や、Amazon(アマゾン)の「Project Kuiper」が存在する。

 このうちOneWebはすでに全地球規模の衛星群を構築しており、2023年末にグローバルでサービスを開始予定。日本ではソフトバンクが販売パートナーとなり、品質保証型の専用線サービスとして提供する計画だ。

 また、KuiperはArianespace、Blue Origin、United Launch Alliance(ULA)の次世代ロケットでの打ち上げを予定しており、2024年早期の米国と欧州での試験サービスを予定している。日本ではNTTグループがパートナーとなり2024年下期からベータ版のサービスを提供する。

関連リンク
NTTやスカパーJSATら、アマゾンのStarlink競合「Kuiper」と協業–24年下期からベータ版
OneWeb
Project Kuiper

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