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「H3ロケット」打ち上げ再開へ大詰め–どんな対策が施されるのか、イプシロンS爆発の影響は(秋山文野)

2023.10.04 13:53

秋山文野

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 2023年3月7日のH3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗にともなって続いてきた原因究明と対策に関する協議が大詰めに入ってきた。

 原因の絞り込みと具体的な対策については、ほぼまとまっている。現在は試験機1号機で起きたトラブルに加え、過去のトラブル事例にも目配りしつつ、その対策と背景要因まで分析した報告書が取りまとめられる段階に入っている。

 報告書が承認されれば、本格的な「リターン・トゥ・フライト」に向けた準備が始まる。しかし、7月に発生したイプシロンSロケットの燃焼試験での爆発事故が新たな影を落としている。

 これまでの調査から、H3試験機1号機で2段エンジンに着火できなかった原因として、「エンジンに点火するスパークプラグの一種である『エキサイタ』内部でショートが発生」「エキサイタへの通電で過電流状態が発生」「PSC2(2段推進系コントローラ)2系統のうちA系内部での過電流が発生、続いてB系への伝搬」というおよそ3つが考えられている。

 H3に固有のもの、H-IIAと共通のものがあり、すでに対策は行われているH-IIA共通のものについては、9月7日のH-IIAロケット47号機の打ち上げ成功で2段エンジンの共通部分に関わる対策は有効であるとの成果が得られている。

「実績のある部品」を過信か

 9月25日に開催された文部科学省の宇宙開発利用部会調査・安全小委員会では、打ち上げ失敗の直接的な原因究明と対策が終わり、背後要因の分析の段階にあることが報告された。

 浮かび上がった背景のひとつが「これまで利用されてきた2段エンジンという”実績のある部品”に対して不具合の可能性を追求していなかった」という部分だ。実績品だからこそ信頼できるとはいえ、不具合のポテンシャルが内在しており、事故が起きるまではそれを洗い出せなかった。

 岡田匡史プロジェクトマネージャは「以前から使っていた枯れた技術を尊重する考え方と、その発展を両立させるための考え方が必要」と述べ、過去からの継承も油断せずに見直す考えを示した。

出典:2023年9月25日「H3ロケット試験機1号機打上げ失敗原因調査状況」より

 この点は、調査・安全小委員会の木村真一教授からも示された通り、2022年10月に発生したイプシロン6号機の打ち上げ失敗で、実績品であるはずの推進薬タンクで組立時に製造不良を見抜けなかったケースと共通する。

 今後はH-IIロケットから使い続けている機器や、基本的な設計が終わっている機器であっても、改めて評価し直す改善を行うという。

 過去に発生した現在は対策済みの危険な事例を踏まえた対策も行われる。H3試験機1号機で不具合が発生した2段エンジンの電気系機器には、2系統のフライトコントローラーがあるが、その2系統が同時にエンジンの駆動電源をシャットダウンして飛行が中断した。

 冗長系として用意された2系統の基本的な考え方は引き継ぐものの、短時間に短絡が起きて復帰するような「ソフトショート」と呼ばれる事象の場合は回復の余地を残すように、B系のフライトコントローラーでは異常検知から遮断までの時間を延長する措置を取るという。一瞬だけ短絡が発生し復帰する現象は過去にH-IIAで発生しているといい、過去のヒヤリハット事例にも手を打った格好だ。

 電気系統を知るエンジニアの確保という新たな課題も浮かび上がってきた。今回は電気系統で発生した問題のため、人工衛星の部門のエンジニアや、過去にロケット開発を経験し、現在は他の宇宙機の部門にいる人物などからも支援を受けたという。

 JAXA内でロケット、人工衛星、研究開発部門を歴任し他分野の経験を積む人材育成なども今後考えていくというが、時間とコストがかかる。民間企業や大学との人材交流や、資金の手当てまで検討しなければならない課題だといい、H3の開発だけで答えが出る課題ではないものの、JAXA内での議論が始まっているという。

打ち上げ再開の明言には「イプシロンS」事故が影

 7月14日には秋田県能代市の試験場で固体ロケット「イプシロンS」の2段モータの燃焼試験で爆発事故が発生した。

 イプシロンSの事故では、「モーターケース後方のドーム部分(ノズルがある側)を起点としていると特定できるところまで来た。要因として燃焼異常、インシュレーションの異常があるが、要因を2つに絞り込める見通しだ」(JAXA 佐藤寿晃事業推進部長)という報告があった。

出典:2023年7月31日「イプシロンSロケット 2段モータ(E-21)地上燃焼試験調査状況」より

 イプシロンSの2段「E-21」モータと、H3ロケットの固体ロケットモータ「SRB-3」は、燃料の結合剤と内部の断熱素材の部品で共通点がある。

 ただ、SRB-3はすでに3回の地上燃焼試験をクリアし、H3試験機1号機で正常に燃焼したという実績もあるため、共通部分があるにせよ「懸念となるほどではない」というのがこれまでのJAXAの見解だ。

 とはいえSRB-3への水平展開については10月に報告があるといい、それまでは現状ではH3試験機2号機の打ち上げ時期検討については明言を避けた。JAXAは「できるだけ早期に試験機2号機の時期を決定したい」とは言うものの、まだ不透明さが残る状況となっている。

(更新)初出時、H-IIAロケット47号機の打ち上げ日を8月と記載していましたが、正しくは9月7日です。訂正しお詫び申し上げます。

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