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月面に有人基地を構築する「Artemis」計画の勘所と国際宇宙探査の近未来
コンピューターネットワークの新技術や製品の展示会である「Interop Tokyo」は2023年で30年を迎えた。6月14~16日に開催された「Interop Tokyo 2023」では、30回目を記念した特別企画として「Internet × Space Summit」が開催された。そこでは、宇宙探査や宇宙の活用方法などについて多くが語られた。
「国際宇宙探査の概要と月探査のための通信・測位アーキテクチャの検討状況」と題された講演には、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 国際宇宙探査センター 宇宙探査システム技術ユニット 技術領域上席 田邊宏太氏が登壇した。
月の南極域に有人基地を構築
JAXAが取り組む活動の一つに米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)など世界27の宇宙機関が参加し、宇宙探査に向けたシナリオを作成したり、技術的に検討したりする「国際宇宙探査協働グループ(International Space Exploration Coordination Group:ISECG)」がある。
ISECGは「国際宇宙探査ロードマップ(Global Exploration Roadmap:GER)」をまとめている。GERは、有人と無人の両方を活用した宇宙探査の国際共通ビジョンであり、ISECGに参加する宇宙機関で調整されたプログラムとしている。
2020年に発表された「国際宇宙探査ロードマップ 追補版(GER Supplement)」(日本語PDF)では、世界的機運の高まりを踏まえながら、各宇宙機関が協力して月面探査や民間企業との協業を推進する展望を描いてきた。
下にあるGER Supplementのロードマップは左から右へ時系列に沿った側面を描いたものだが、月周回有人拠点(ゲートウェイ)や有人与圧の探査車(ローバー)、月面に物資を輸送する着陸船(ランダー)が確認できる。
2022年に発表された「国際宇宙探査ロードマップ 追補版 2022(GER Supplement Update 2022)」(英語PDF)では、JAXAの「小型月着陸実証機(Smart Lander for Investigating Moon:SLIM)」に加えて、JAXAとインド宇宙研究機関(ISRO)が共同で取り組んでいる「月極域探査(LUnar Polar EXploration:LUPEX)」ミッションを確認できる。GER Supplement Update 2022について、田邊氏は「CNSA(中国国家航天局)の(月探査機)『嫦娥(Chang’e)』 や韓国など各国の無人での月探査ミッションもまとめている」と説明した。
日本も参画している「Artemis」計画は月面有人探査に関するプログラムを包括した総体だが、再び宇宙飛行士を月に送り込み、月の南極域に有人基地(ベースキャンプ)を構築するための研究が進行している。
「まずは人が(月に)行きます。そこから徐々に活動範囲を広げ、最終的には月面基地を作っていきましょう。持続的な月面探査も(ベースキャンプに必要な)物資や資源の入手も重要。中でも月面通信は一つのキーエレメントで活動をサポートする通信インフラは欠かせない」(田邊氏)
加えて、田邊氏は、JAXAの宇宙飛行士候補となった「2人はISS(国際宇宙ステーション)だけでなく、日本人宇宙飛行士して月面に立つという、日本の強い意志を実現するための活躍が期待される」と言及した。
その背景にあるのが、JAXAの「国際宇宙探査シナリオ(案)」。政府の宇宙基本計画を踏まえて2015年9月から検討を開始し、2回目の改訂にあたる「日本の国際宇宙探査シナリオ(案) 2021」(公開版PDF)が公開。田邊氏はエグゼクティブサマリー版(PDF)に掲載された図を用いて、シナリオ実現に必要な要素を解説した。
JAXAが注力する重力天体着陸技術や表面探査技術、有人滞在技術、ランデブードッキング技術、そして通信・測位システムの概要を紹介しながら、「特に注力しているのはLUPEXが目標の一つに掲げる水資源の探索。水があれば将来的には酸素と水素に分解して燃料化し、(月面で)生活する人々のエネルギーや飲料となる」とシナリオが成し遂げる一例を紹介した。
通信・測位システムの構築についても、「月面探査や将来の火星探査を見据えた際、通信インフラは不可欠。我々が積極的に関与して貢献する動きが活発になっている」とJAXAの動向を披露。地球と月の間における光通信構築に必要な技術要素や月測位衛星システム(Lunar Navigation Satellite System:LNSS)構想、月面活動に向けた測位アーキテクチャー、他国との連携など幅広く解説した。
最後に田邊氏は「通信測位分野企業の能力を必要とする場面は大きい」と述べながら、通信インフラ構築に関わる企業の参画をうながした。