特集
「惑星間インターネット」実現目指すJAXAの宇宙通信の取り組みをみる
コンピューターネットワークの新技術や製品の展示会である「Interop Tokyo」は2023年で30年を迎えた。6月14~16日に開催された「Interop Tokyo 2023」では、30回目を記念した特別企画として「Internet × Space Summit」が開催された。
Internet × Space Summitは、インターネットが宇宙に広がることで生まれる可能性を探ることが狙いという。日本国内の複数の大学で結成するインターネットの研究運用プロジェクトであるWIDE(Widely Integrated Distributed Environment)プロジェクトとIPNSIG(Interplanetary Networking Special Interest Group)が協力した。
IPNSIGは、インターネットの世界的な非営利組織であるInternet Society(ISOC)の中で作られたグループであり(900人以上が参加しているという)、「惑星間インターネット」を実現するために必要なロードマップやアーキテクチャを検討している。
Internet × Space Summitで「JAXAの宇宙通信分野の取り組み-全体像-」と題された講演には、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙探査イノベーションハブ 主任研究開発員 金子洋介氏が登壇(金子氏はIPNSIGの代表を2020年から務めている)。JAXAでの宇宙通信分野の取り組みの全体像を紹介した。
「エキサイティングな時代」
国内の宇宙に対する動きは、2003年のJAXA設立以前をさかのぼると、長い月日を数える。例えば、JAXAに統合された宇宙科学研究所(ISAS)は1960年代からロケット打ち上げ実験を重ねている。
2020年代の現在は宇宙ビジネスが盛んとなっている。金子氏も「JAXAの活動を超えて民間企業が(宇宙)ビジネスに参入するエキサイティングな時代」と言い表した。
下図はJAXAが現在から未来まで行う予定の活動だが、地球の低軌道と静止軌道の衛星から火星、木星といった長距離惑星の探索プランもうかがえる。左上にある小惑星探査機の「はやぶさ2」などは広く報道されたのでご存じの方も多いだろう。
月には多くの探査機や技術実証機を飛ばしている。金子氏は1960年代に開始した「Apollo計画」を引き合いに出し、「月にチャレンジする非常にアグレッシブなArtemis計画が立ち上がろうとしています。Apollo計画はサンプルを収集して即時帰路に就きましたが、Artemis計画は月に滞在して生活し、さまざまな探査と人類活動を広げる」試みであると説明した。
火星へのアプローチにはネットワークインフラストラクチャーが重要だと述べながら、民間企業と並んでJAXAとしても取り組んでいくと解説した。
例えば、「国際宇宙探査センター」は国際協調を踏まえながら月や火星など、JAXAの宇宙探査で中核を担う。「宇宙探査イノベーションハブ」は大企業はもちろん、スタートアップ企業とも連携しながら革新的な技術開発を目指す組織と説明した。
他業種との連携の取り組みとしては「新規事業促進部」も興味深い。JAXAによる新事業創出プログラム「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(JAXA Space Innovation through PARtnership and Co-creation:J-SPARC)」経由で民間企業とJAXAが新規事業創出を目指す部門だ。
「追跡ネットワーク技術センター」は、宇宙空間に打ち上げた衛星の追跡や遠隔伝送で必要なテレコマンドの運用でも必要になる「途絶耐性ネットワーク(Delay and Disruption Tolerant Network:DTN)」プロトコルの研究開発を担う。DTNは宇宙通信での根幹を支えるものとなるという。
「光データ中継システム」は打ち上げ済みの「光衛星間通信システム(Laser Utilizing Communication System:LUCAS)」から得た大容量データと地球を中継する仕組みだ。
地上でのインターネットは登場の以前と以後で、社会や経済のあり方を大きく変えた。そのインターネットは惑星間にも広がろうとしている。その一翼をJAXAは担っている。