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自社ロケットで衛星を好きなように打ち上げる「垂直統合型」宇宙ビジネスの魅力–IST子会社Our Stars CTOが選ぶ入門キーワード3選

2023.05.19 00:30

小口貴宏(編集部)

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 「これから宇宙ビジネスに参入したい」「業界の用語を知りたい」──。本特集は、そんな宇宙ビジネスの入門者に向けて、今ホットな宇宙ビジネス用語を各社のキーパーソンに聞く企画だ。

 第3回となる今回、キーワードを挙げていただいたのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で衛星開発に携わり、現在は民間ロケット開発を手掛けるインターステラテクノロジズ(以降IST)の子会社で、超々小型衛星によるフォーメーションフライトを手掛けるOur Starsで最高技術責任者を務める野田篤司氏だ。

 同氏が挙げたのは「宇宙開発の潮流」「垂直統合型宇宙ビジネス」「フォーメーションフライト」の3つだ。それぞれの理由を聞いた。

Our Starsで最高技術責任者を務める野田篤司氏

1.宇宙開発の潮流

(編集部注:「宇宙ビジネス用語」という範疇からは外れる、宇宙ビジネスへ入門するにあたり、冷戦時代から今に到る潮流を解説していただいた)

 野田氏:冷戦時代の1950年代、宇宙開発競争が米国とソビエト連邦の間で勃発し、その結果1969年には有人月面着陸が実現しました。そして、日本、フランス、イギリスといった国々も国の威信をかけてロケット技術を誇示していました。

 しかし、1991年にソ連が崩壊すると、「国の威信を誇示する」という宇宙開発のモチベーションが揺らいでいきます。その結果、各国が宇宙開発の目的を変えました。1つは惑星探査です。これも国の威信に近いですが、「ミサイルをすぐに作れるぞ」というモチベーションだったものが平和利用へシフトし、その頃から「宇宙ビジネス」というものが立ち上がっていったように思います。

 とはいえ、当初の宇宙ビジネスは国家主導でした。わかりやすい例は「H-II」ロケットで、従来までと異なり、明らかに商業ビジネスを視野に入れて設計されていました。大型の商業ロケットが開発されるようになったのもその頃で、H-IIから「H-IIA」に切り替わったタイミングでコストが半分に、そして「H3」ロケットでまた半分になります。

H-IIAロケット

 つまり、1990年代初頭まで「国の威信」をかけていくらでも予算をかけてロケットを開発できたものが、1990年代後半からロケットは『安く作る』という方向に変化したわけです。

 そして、2000年代の終わりから多くのベンチャー企業が立ち上がるようになり、直近の10年間は自立した宇宙開発が民間でも行われています。まとめると、宇宙開発がビジネスに繋がるという潮流は1990年代、つまり30年近く前からあったんです。私はそのころJAXAにおり、そうした方針転換を目の当たりにしてきました。

2. ロケットを自前で持つ「垂直統合型宇宙ビジネス」の重要性

 野田氏:昔の衛星は大きくて重くて高価で、費用が200〜300億円というのが当たり前でした。これは、国家という母体があれば問題ありませんが、小規模の会社では到底作れません。

 しかし、2003年に東京大学の中須賀真一先生と東京工業大学の松永三郎先生の研究室が「キューブサット」という10cm x 10cmの衛星を打ち上げることに成功しました。これが大きなトリガーとなり、誰でも人工衛星を作れるようになりました。

 これによって、多くのベンチャー企業が衛星を宇宙へ送っていますが、日本では我々Our Starsを含むISTグループを除くと、自前のロケットを持っている企業は存在しません。つまり、衛星を打ち上げるには他社のロケットを間借りしているんです。

 一方、米国ではSpace Exploration Technologies(SpaceX)が自前のロケットで小型衛星を好きなように打ち上げています。

 衛星は小さくなるほど性能が低下しますが、それを補う方法としては「地球に近づける」と「たくさんの数を飛ばす」の2つがあります。それを実践したのが地球低軌道(LEO)のコンステレーション(衛星群)で、代表例は地上にブロードバンドサービスを提供する「Starlink」ですね。彼らは、自前のロケットで好きな時に衛星を打ち上げることができるので、ロケット打ち上げ手段を持たない一般的な宇宙企業に比べて圧倒的に有利なんです。

 その点、ISTはロケットを作ってますし、その子会社であるOur Starsは人工衛星を作ろうとしています。自前で開発した衛星を、自前のロケットで好きなように打ち上げる。これが、垂直統合型ビジネスの利点です。

ISTは2024年度に衛星を地球低軌道へ投入できるロケット「ZERO」の打ち上げを予定。さらに、超大型ロケット「DECA」の開発も表明している

3. 超々小型衛星による「フォーメーションフライト

 次に挙げるキーワードは「フォーメーションフライト」です。Our Starsは親会社のISTが開発中のロケットを使えます。これを用いて、Starlinkの衛星コンステレーションの小型衛星よりも更に小さな、「超々小型衛星」を無数に打ち上げることを狙っています。

 超々小型衛星とは、今の人工衛星と比べると、信じられないくらい小さな「ピンポン玉」サイズの衛星です。最近はスマートウォッチにジャイロセンサーや加速度センサー、Bluetoothが内蔵されていますが、人工衛星もそのくらいの大きさで作れます。そして、それらを数千個から数万個という単位で編隊飛行させます。これをフォーメーションフライトと呼んでいます。

 ピンポン玉サイズの衛星だと非力に感じますが、膨大な数を編隊飛行させることによって性能が増えます。1つの衛星が2つになると4倍、4つになると16倍、自乗に比例して性能が増していきます。また、1つのフォーメーションの中で1機や2機が壊れても関係ありません。そういった意味では、非常に高い冗長性も達成できると思っています。

 我々は、無数のピンポン玉サイズの衛星を地球低軌道に編隊飛行させて、地上局アンテナを介さずとも、衛星からダイレクトにスマートフォンに100Mbpsレベルの高速通信を提供するサービスを構想しています。フォーメーションフライトとコンステレーションを組み合わせることで、従来とは全く異なるサービスを実現できると思っています。

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