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世界で進む「超小型衛星革命」–生みの親が語る日本が乗り遅れる理由

2022.03.15 08:00

林公代

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 「世界で超小型衛星革命が起こっている」。超小型衛星の「生みの親」でもある政府の宇宙政策委員会委員 中須賀真一氏は1月18日、産業振興や宇宙利用拡大を目指して開催された「超小型衛星利用シンポジウム2022」(主催:JAXA新事業促進部)のオープニングで語り、自身が感じる危機感を続けた。

宇宙政策委員会委員の中須賀真一氏。超小型衛星「生みの親」として知られる
宇宙政策委員会委員の中須賀真一氏。超小型衛星「生みの親」として知られる

 「NASAは年間約300億円、ESA(欧州宇宙機関)は約20億円、中国も含めて、超小型衛星に官民による大きな投資が起こっている。これらの投資で力をつけた企業がビジネスを始め、宇宙探査衛星、実用衛星も含めて低コストで確実に実施するエコシステムが世界中で起きている。日本も早く追いつかないといけないという危機感をもっている」

 100㎏以下の衛星を「超小型衛星」と呼ぶ。そもそも1kg級の超小型衛星(10cm立方=1U、「キューブサット」と呼ばれる)を世界に先駆けて打ち上げたのは、日本である。

 東京大学と東京工業大学の学生たちが世界最小、手のひらサイズの衛星を打ち上げことがきっかけとなり、超小型衛星開発が世界に広がる。それから約20年。50㎏以下の衛星は年400~500機以上打ち上げられ、情報調査会社ユーロコンサルによると、今後約10年の間に500㎏以下の衛星が約1万機打ち上げ予定だという。

 「大事なことは、超小型衛星が教育や実験でなく、『実用』で使われていること。NASAでは超小型衛星による実宇宙科学探査プログラムが起こっている」。中須賀氏は、世界の画期的な超小型衛星ミッションの具体例を挙げた。

 例えば系外惑星を探査するNASAの「ASTERIA(アステリア)」。10×20×30㎝、12㎏と超小型ながら、高い姿勢制御能力を実現。「MarCO(マルコ)」(34×24×12㎝、13.5㎏)は火星着陸機の電波を地球に中継する。

 アメリカばかりではない。カナダのトロント大学は世界中から20~50㎏の宇宙科学・観測プロジェクトを多数受注、欧米の複数のスタートアップは3~6U衛星を1社あたり20~100機受注しているという。

 「日本でも超小型衛星を使って宇宙科学をやろうという動きがあるが、日本で(衛星の製造を)頼めるところがないために、海外のスタートアップに発注する話が出ている。これは非常にまずい状況だと思います」(中須賀氏)

 日本が先駆者だった超小型衛星。20年の間になぜこんなに差が開いたのか。

 「日本と海外の宇宙機関をはじめとした政府のマインドに大きな差があったのではないか。政府による継続的・戦略的投資のあるなしが大きな差を生んできたと考えている」と中須賀氏は指摘する。

NASAの超小型衛星戦略とは

MarCO(Mars Cube One)の想像図
MarCO(Mars Cube One)の想像図(出典:NASA)

 具体的にNASAは超小型衛星についてどんな戦略をとってきたのか。中須賀氏によると、戦略は主に三つ。

 一つは10年ごとに全米科学アカデミーの宇宙部会などが定める基本計画(Decadal Survey)。宇宙物理学や惑星科学、地球科学などを対象に、超小型衛星で研究できるものは、どんどん使っていこうと舵を切ったこと。二つ目が深宇宙探査用星の機器開発や超小型衛星のシリーズ化。そして三つ目が大学と組んだ技術開発だ。

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