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火星の生命体の証拠発見に期待できそうな理由–複数のサンプル採取計画が進行中
2022.10.31 11:30
「火星の大気には、流水も大量の水分もないので、細胞や胞子は完全に乾いてしまう」とHoffman氏。「火星の表面温度はドライアイスと大体同じであることも知られている。つまり、地表の下深くは凍っている」
Hoffman氏やDaly氏を含むチームの研究の目標は、そうした懐疑論の一部を払拭することだった。言い換えると、彼らは、「火星探査によって地球外生命体の証拠を発見する現実的な可能性はどれくらいあるのか」と問いかけている。
その問いの答えを出すために、チームは最初に放射線に対する微生物の大まかな生存限界を特定した。その後、地球の6種類の細菌と菌類を、火星を模した土地に置き、火星の地表レベルの宇宙放射線を模倣して、ガンマ線や活発な粒子などを照射した。
手短に言うと、研究者たちは、地表に生息する生物の一部は、火星の過酷な気候で何億年も生き延びられる可能性があると結論づけた。
ここで、Conan the Bacteriumに話を戻そう。
Conan the Bacteriumというニックネームが付けられたこの微生物は、デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)という名称でも知られており、チームが用意した過酷な環境に特に適性を発揮したようだ。研究者たちが「乾ききった酷寒の環境で天文学的な量の放射線を浴びせた」としている状況を生き永らえたのだ。
しかし、地中に目を向けると、火星の生命体を発見する確率は飛躍的に高まる。それは、Conanの場合も同じだ。
地表ほど過酷ではない火星の地中環境
チームの最新の実験の第2段階では、生物を地表下と同レベルの放射線だけでなく、火星の地下深くと同レベルの放射線にもさらした。予想どおり、どちらのテストでも、サンプルは地表で放射線を浴びた場合よりもはるかに高い生存力を示した。
実際に、Conan the Bacteriumはそれまでの記録を破った。
以前の研究では、この微生物は液体中を浮遊している状態で、2万5000グレイという単位の放射線に耐えられることが分かったが、今回の新しい研究で、乾いた状態でConanをテストしたところ、14万グレイの放射線に耐えられることが判明した。これは何と、人間にとっての致死量の2万8000倍である。
生存期間に関して言うと、その数値は、Conanが火星の地表から10cm下で150万年、地表から10m下で2億8000万年生き延びられた可能性があることを示唆している。
さらに期待を抱かせるのは、火星が長い間、融解と凍結を繰り返してきたという考えだ。もしそうであれば、Conanのような強力な細菌が、変化する世界で生き延びるのにさらに好都合だろう。
「火星の地中のデイノコッカス・ラディオデュランスは、火星で流水が消滅してから約20億~25億年の間、休眠状態で生き延びることはできなかったはずだが、そうした火星の環境は隕石の衝突によって、繰り返し変化したり、融解したりしている」とDaly氏は述べている。「定期的な融解により、再増殖と分散が間欠的に起きた可能性があるとわれわれは考えている」
総合的に考えると、古代の火星のバクテリアが火星の地表のすぐ下に潜んでおり、まもなく人間によって(もちろん、慎重に)掘り出される可能性はかなりある。あるいは、地球外生命体を追い求める取り組みの中で、誤って微生物の跡を残してしまい、空間と時間に思いもしない、恐ろしく大きな影響が及ぶことになるのかもしれない。
(この記事はCNET Japanからの転載です)