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エウロパだけじゃない?–木星の衛星「カリスト」にも液体の水が存在する可能性高まる
もし太陽系で「最も興味深い衛星コンテスト」があったら、カリストは有力候補だろう。木星で2番目に大きく、太陽系の中でも最も多数の衝突クレーターがあるうえ、表面には大量の氷が広がっている。
研究者たちは数十年にわたって、カリストのクレーターだらけの表面の地下に、衛星全体を覆う塩水の海があるのではないかと考えてきた。今回、約30年前のデータを改めて詳しく調べ直したことで、その海が実際に存在する可能性がさらに高まった。

NASAの惑星内部・地球物理学部門に所属するコーリー・J・コクラン氏率いるチームは、当初はカリストの海を探していたわけではなかった。コクラン氏によると、もともとは海王星の衛星「トリトン」に地下海があるかどうかを調べる別のプロジェクトを進めていた。
しかし、トリトンには非常に強い電離圏(大気の最も外側の層)があり、計測が難しかった。そこで、同じく強い電離圏を持つカリストの過去データを参考にすることにした。30年前にNASAのガリレオ探査機が取得したデータを再解析することにしたのだ。ガリレオ探査機は1989年に打ち上げられ、1995年から2003年にかけて木星とその衛星を探査している。
「今回の結果は、これまで『ノイズ多すぎる』として研究対象とされなかったカリストへの近接時のデータを改めて精査したことで得られた」とコクラン氏はCNETの取材で回答した。
「私たちは既存のプラズマシミュレーションを活用し、計測値に混ざるプラズマ由来のノイズを取り除いた。その結果、海からの信号を単独で分析できるようになった」とも述べた。
要するに、ガリレオ探査機が残した観測値はカリストの強い電離圏に邪魔され、当初は解読が難しかった。しかし、コクラン氏らの再解析によって、衛星の岩石質の外層の地下に広がる海の存在を強く示唆する結果が得られたというわけだ。
海が存在するとは予想されていたが、証拠を得るまでに時間がかかった理由
カリストの地下に海がある証拠をつかむのに時間がかかったのは、強力な電離圏が存在するためだ。探査機を近接させても「海からの信号」と似た観測値が出てしまい、本物の海と区別が困難になる。
「ファラデーの電磁誘導の法則によれば、磁石を導電性のある物質(銅線など)の近くで動かすと、その動きに同期して電流が発生する。すると流れた電流によって二次的な磁場が生まれ、これは導電性物質の特徴を示す誘導磁場になる」とコクラン氏は解説した。
惑星や衛星にも同じことが当てはまる。内部に十分な熱を持つ天体では、表面下に液体の塩水が存在することがある。塩水は電気を通すため、磁力計で「海の特性」を残した誘導磁場を検出できる。つまり、磁場を測定することで地下海の存在を推測できるのだ。
ところが、カリストや海王星の衛星トリトンのように非常に強い電離圏を持つ場合、磁力計のデータに混ざるノイズが大きすぎて、海が生み出すシグナルなのか電離圏の影響なのかを区別しにくくなる。カリストの地下海の話が長らく進展しなかったのはこのためだ。
次のステップは
今後は、地下海の調査が大きく進みそうだ。NASAの「エウロパ・クリッパー」は2024年に打ち上げられ、2030年ごろに木星圏へ到着する。また、欧州宇宙機関(ESA)の探査機「JUICE」も2031年に到着予定だ。これらの探査機が、カリストに関する追加データをもたらしてくれるのはほぼ間違いない。
コクラン氏によると、これらのミッションで新しいデータが得られるわけではない。一方で、「データの量が増える」ことが重要だという。
「カリストの海を新しい計測で証明できるかどうかは、フライバイ(近接通過)の回数と測定機会の多さにかかっている。フライバイは一瞬で通り過ぎてしまうので、磁力計で記録される木星近辺の磁場はごく限られる。しかし、その観測を積み重ねれば抜け落ちている部分を補える」とコクラン氏は語った。
エウロパ・クリッパーやJUICEが得るデータが、ガリレオ以来の空白を埋め、カリストに海が存在するかどうかを最終的に裏付ける決め手になると期待されている。また、海の層がどの程度の厚さなのか、その上にある氷の殻がどれほどの厚みなのかについても推定が進むはずだ。
カリストに生命は存在するのか?
NASAやESAがわざわざ木星に探査機を送り込む理由がある。特に、エウロパに隠された水は、地球外生命の最有力候補として注目されている。
「エウロパの海では、水や生命に必要な化学元素、内部熱源などのエネルギーが長期間にわたって供給される」とコクラン氏は語る。「エウロパ・クリッパーは生命探査ではなく『生命の居住可能性』を探るミッションなので、今回の疑問に対してより明確な答えをもたらす可能性がある。とはいえ今のところ、可能性があるとしか言えず、その確率については何とも言えない」
とはいえ、カリストにも生命の可能性が注目されつつある。意外なほど豊富な酸素を含む一方で、その大半の由来が謎とされている。そこに地下海が存在するなら、まだ確証とは言えないまでも、2030年と2031年のエウロパ・クリッパーおよびJUICEのミッションで詳しく調べる価値は十分にあるはずだ。
(この記事はCNET Japanからの転載です)