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月着陸機「ブルーゴースト」、月を周りながら息をのむ天体写真を撮影中

2025.02.20 16:00

CNET Japan

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 米民間企業Firefly Aerospaceの月着陸機「Blue Ghost」(ブルーゴースト)が月の周回軌道に入った。月面に着陸するのは3月を予定しており、現在は月の周囲を回りながら、目を奪われる美しい天体写真を撮影している。

Blue Ghostが月に向かう途中で撮影した地球(出典:Firefly Aerospace)
Blue Ghostが月に向かう途中で撮影した地球(出典:Firefly Aerospace)

 「すべてのテストとミッションのシミュレーションは完了した。現在は人類の月への帰還に向け、軌道運用と軟着陸の成功に全力を注いでいる」と、Firefly Aerospaceの最高経営責任者(CEO)、Jason Kim氏は最近の声明の中で述べた

1月15日、地球周回軌道上で打ち上げロケットからBlue Ghostが分離した(出典:SpaceX / Firefly Aerospace)
1月15日、地球周回軌道上で打ち上げロケットからBlue Ghostが分離した(出典:SpaceX / Firefly Aerospace)

 今回のミッションは正式名称を「Ghost Riders in the Sky」という。米航空宇宙局(NASA)の観測機器などを載せて、1月15日に米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられた。

第1週:キャリブレーションと日食

 打ち上げからわずか数日後に、Blue Ghostは「日食」の様子を撮影した。この日食は、地球が太陽の前を通過して太陽の光を隠すという、地球上では見られない状況を捉えたものだ。Blue Ghostの上部デッキから撮影された日食は、地球で目にする日食よりもはるかに速く進んだ。

 それ以外は計画通りだ。第1週のほとんどはペイロード、つまりBlue Ghostが月面に運ぶ機器類のキャリブレーション(調整)や、月面での作業に備えて通信の安定性を確認する作業に費やされた。Blue Ghostは最初のエンジン噴射を実施し、地球を離れ、月へ向かうための軌道修正を行った。

第2週:美しい地球の映像とさらなるキャリブレーション

 ミッション2週目、Blue Ghostは2度目のエンジン噴射を行い、地球周回軌道上で再び軌道を調整した。新しい軌道上でも驚くべき地球の姿が撮影された。下の映像(またはこちら)はその一例だ。第2週は軌道の調整に加えて、さまざまなペイロードのキャリブレーションが引き続き行われた。打ち上げから2週間でBlue Ghostが移動した距離は約71万5000マイル(約115万km)、地球に送信したデータは7GBを超えた。

(出典:Firefly Aerospace / YouTube)

 最終目的地である月の写真も、この週に初めて撮影された。

第3週:宇宙スケールの「自撮り」写真

 第3週の流れもおおむね同じだ。ペイロードのキャリブレーションは最終段階に入り、月へと向かう準備が着々と進んだ。Blue Ghostは、こうしたルーチンワークの合間に何枚もの貴重な写真を撮影した。例えば作業中に撮影されたこの一枚は、地球を背景にBlue Ghostが自撮りしたものだ。約80億人が映り込んだ自撮り写真など、そうそう撮れるものではない。

地球を背景にしたBlue Ghost(出典:Firefly Aerospace)
地球を背景にしたBlue Ghost(出典:Firefly Aerospace)

 Blue Ghostのカメラは地球が月の前を通過する様子も捉えた。短い映像だが、今回は地球が太陽を隠すのではなく、地球が月を隠している。

(出典:Firefly Aerospace / YouTube)

第4週:月への旅

 ついに準備が整い、Blue Ghostが地球の周回軌道を離れ、月に向かう時が来た。その直前、Blue Ghostはもう一枚、今度は地球と月が同時に映り込んだ自撮り写真を撮影している。Firefly Aerospaceによると、Blue Ghostは無事に地球軌道を離れて月遷移軌道に入り、いよいよ月への旅を開始した。

 遷移軌道に投入されたBlue Ghostは、まずペイロードがすべて正しく機能するかを確認するチェック作業を何十回も行い、月への軌道を維持するために複数回にわたって軌道修正マヌーバを実施した。

Blue Ghostが撮影した月の最初の写真(出典:Firefly Aerospace)
Blue Ghostが撮影した月の最初の写真(出典:Firefly Aerospace)

第5週:いざ、月へ

 2月13日、Blue Ghostは4分15秒間にわたってエンジン噴射を行い、月周回軌道に入った。Firefly Aerospaceは、この噴射をこれまでで最も難しいものだったと語る。その後数日をかけて、軌道を安定させるためにさらなる調整を行い、平行して現在の楕円形軌道から円軌道への移行を進める。

 月周回軌道への到達後、Blue Ghostは地球から最も近い天体である月の詳細な写真を何枚も撮影した。Blue Ghostは2週間をかけて月周回軌道を回り、さまざまな実験をこなしながら着陸のタイミングをうかがう。現在の着陸予定日は3月2日だ。

小さいがパワフルな月面探査車「Tenacious」

 ケネディ宇宙センターからBlue Ghostが打ち上げられた時、同時に打ち上げられた月着陸機がもう一機ある。日本の民間企業ispaceの「Resilience」(レジリエンス)だ。Resilienceには世界最小クラスの探査車「Tenacious」(テネシアス)が積まれている。Tenaciousは、おもちゃ屋のリモコンカー売り場に置いてあっても違和感がないほど小さく、高さは26cm、重さは5kgほどしかない。

 Resilienceはispaceの月探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション2(ミッション1は2022年に実施)用の着陸機で、Tenaciousは月着陸後、月面探査での活躍が期待されている。

 Resilienceは月のMare Frigoris(氷の海)のアトラスクレーターに着陸する予定だ。Tenaciousが月面で収集したデータはResilienceを経由して地球に送られる。

 Tenaciousは月面で食料生産実験、放射線測定、水電気分解、レゴリスの採取等を行う。

(この記事はCNET Japanからの転載です)

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