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宇宙服ってどんな服? 過酷な環境で命守る機能 月面活動用も開発中

2024.01.10 07:00

朝日新聞

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 「1人乗りの宇宙船」とも言われる宇宙服には、宇宙の過酷な環境から飛行士の命を守るためにさまざまな技術が集められている。

 時代とともにアップデートされ、現在では、月での有人探査に向けた次世代宇宙服の開発が進む。

 宇宙服には、大きく2種類ある。

 一つは船外活動中に着る服で、命を守る機能が備えられている。

 もう一つは、打ち上げ時や地球帰還時に着る。これは「与圧服」と呼ばれ、万が一、宇宙船に穴が開いて、船内の気圧が低下しても問題ないように保たれる。

 米国は1961年に「マーキュリー計画」で初めて有人宇宙飛行に成功。この計画で初めて与圧服を開発した。宇宙の過酷な寒暖差に耐えられるようアルミなどを使って断熱性を持たせた。宇宙船の外に出ない計画だったため、船外活動用の宇宙服はまだなかった。

 60年代半ばの「ジェミニ計画」で、船外活動用の宇宙服が登場した。米国が初めて船外活動に成功した65年、呼吸用の酸素は宇宙船から宇宙服にホースをつないで送られた。

 人類が初めて月に降り立った「アポロ計画」では、月面で飛行士が動けるよう、呼吸用の酸素などが入った生命維持装置を背負った。また、月の砂利や岩が当たっても傷つかない丈夫な素材に改良された。

宇宙での特別な衣類は主に2種類。1960年代から進化してきた
宇宙での特別な衣類は主に2種類。1960年代から進化してきた

 86年のスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故を受け、与圧服にパラシュートが付いた。万が一の際に飛行士が緊急脱出するためだ。通称、オレンジスーツと呼ばれ、スペースシャトルで国際宇宙ステーション(ISS)に向かった歴代の飛行士らが袖を通した。

 スペースシャトルが2011年で退役して以降、米航空宇宙局(NASA)は、民間の宇宙船で飛行士がISSへの往復をする方針に転換。米スペースX社が輸送機能を担うことになった。

 スペースXの宇宙船では、同社が開発した与圧服を着る。船内での機器はタッチパネルによる操作で、グローブをしたまま使うことができるという。

 米国主導で有人の月探査をめざす「アルテミス計画」では、25年にもアポロ計画以来の人類の月面着陸を予定する。

 その時に着る次世代の宇宙服を、米宇宙企業アクシオムスペースと、宇宙や防衛産業を手がけるコリンズエアロスペースが開発中だ。

 アポロ計画で飛行士が月面で跳びはねながら移動したり転んだりしたのは、関節の動きが制限されバランスが取りにくかったためという。次世代の宇宙服には、軽さと可動域の広さが求められている。

 船外活動用の宇宙服には、NASA開発の「船外活動ユニット(EMU)」とロシア開発の「オーラン宇宙服」がある。

現在と将来の宇宙服。将来の月面有人探査に向けた宇宙服の開発が進む
現在と将来の宇宙服。将来の月面有人探査に向けた宇宙服の開発が進む

 ISSの外は寒暖差が激しく、太陽の光が当たっていると120度、当たっていないと零下150度にもなる。そのため、断熱性の高い素材など多層の生地を重ねてつくられる。

 服の下には、おむつをはき、内部の温度が上がりすぎないよう水が細いチューブを流れる冷却下着を着る。太陽光が当たらないと手袋内のヒーターを動かす。

 背中には、酸素や水、電池が入った生命維持装置を装着。飛行士が吐いた二酸化炭素を取り除き、酸素を送り込んだり、内部の熱を排出したりする。

船外活動用の宇宙服には飛行士の命を守るさまざまな機能が備わっている
船外活動用の宇宙服には飛行士の命を守るさまざまな機能が備わっている

 EMUの中は、0気圧の真空状態の宇宙空間との圧力差が小さくなるように0・3気圧に保たれている。ただ、ISS内の1気圧からの急激な圧力低下で体内に溶け込んだ窒素が血液中に泡となって血管をつまらせる減圧症を起こすリスクがある。船外活動の数時間前から酸素マスクを着けて呼吸することで、体内から窒素を追い出す。

 船外活動中はISSの手すりなどに命綱を付ける。命綱が切れた場合に備え、「セイファー」と呼ばれるガスの噴射装置が宇宙服に付いている。ガスの量に限りがあり、何度も噴射できない。飛行士たちは、ガスを噴射してISSに向かうVR(仮想現実)の訓練を受けるという。

 船外活動やISSへの行き帰り以外の普段着は「船内服」だ。万が一に備え、燃えにくい素材であることが条件。また、飛行士たちは毎日2時間の運動をするため、汗をかいても清潔さを保てる吸水速乾や抗菌・防臭機能を持つ船内服が開発されている。

 ISSに持ち込める服の量は限られている。

 宇宙飛行士の星出彰彦さん(55)によると、着替えの頻度は、下着が2日に1回、運動着は5日に1回、Tシャツは1週間に1回、長ズボンは1カ月に1回という。

ISSで宇宙飛行士が普段着として着る「船内服」
ISSで宇宙飛行士が普段着として着る「船内服」

 ISSでは水が宙に浮くため洗濯ができない。星出さんは、汗をかいた運動着をエアコンの風が当たりやすい場所に干していたという。

 「においは気にならなかった。汗をこまめに拭いて体を清潔にして、ほかのクルーが嫌な思いをしないようにという意識を皆が持っていたと思う」

 船内服は基本的にNASAやロシアから支給されるが、過去には、セレクトショップ「ビームス」などの日本企業が開発した服を日本人宇宙飛行士が着たこともあるという。

 着た服は、物資を運んできた補給船に積み込まれ、大気圏に再突入して燃え尽きる。

 星出さんは3度の宇宙飛行で、NASA、ロシア、スペースXが開発した3種類の与圧服を着た。スペースXの与圧服について「体にフィットし、動きやすさが向上して技術の進歩を感じた」と星出さんは言う。

 「月面で活動するのは、私のみならず世界中の飛行士が楽しみにしている。未来の有人探査を支えるよりよい宇宙服の開発に期待したい」(玉木祥子)

(この記事は朝日新聞デジタルに2024年1月6日8時30分に掲載された記事の転載です)

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