地球の80億人に影響--「星座」でデブリのリスクを考えるプロジェクト始まる

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地球の80億人に影響–「星座」でデブリのリスクを考えるプロジェクト始まる

2024.05.03 11:00

田中好伸(編集部)

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 地球を周回する宇宙ゴミ(スペースデブリ)のリスクを学んでもらうプロジェクト「Space Trash Signs」が始まった。4月23日に発表された。

 “星座”として表現することでデブリが地上での生活に大きな影響を与えることを学んでもらうことが目的。米Appleの共同創業者であるSteve Wozniak氏が設立した米Privateerが中心となって、6月に開催される国連の宇宙空間平和利用委員会(Committee on the Peaceful Uses of Outer Space:COPUOS)に先だってデブリ問題への認知拡大、興味喚起を目指して立ち上げた。

 世界の航空宇宙企業や宇宙機関、科学者、大学、博物館やメディアなどの支援を受けて、実際に軌道を周回しているデブリを組み合わせて、「グレート404」「壊れたコンパス」「失われた収穫」など10のデブリ星座を作り出した。宇宙空間の汚染がもたらしうる、さまざまな悪影響を可視化した。デブリ星座はそれぞれにストーリーを表現しているという。

作り出した10のデブリ星座。(左上から)グレート404、予測不可能、壊れたコンパス、行方不明の荷物、エリア圏外(左下から)ビッグクラッシュ、最後のSOS、失われた収穫、宇宙で安らかに、探検の終わり(出典:Space Trash Signs)
作り出した10のデブリ星座。(左上から)グレート404、予測不可能、壊れたコンパス、行方不明の荷物、エリア圏外(左下から)ビッグクラッシュ、最後のSOS、失われた収穫、宇宙で安らかに、探検の終わり(出典:Space Trash Signs)

 グレート404は、ウェブブラウザでウェブページが見つからないエラーにちなんで名付けられた。衛星インターネットを活用する約4300万人がインターネットに接続できずにコミュニティー全体を孤立させる可能性があるという。インターネット普及率が最も低い中央アフリカのブルンジの上空に位置している。

 壊れたコンパスは、衛星による測位ができなくなることを意味している。衛星測位システム(GNSS)を構成する衛星などにデブリが衝突して壊してしまうことで衛星を失うだけでなく、飛行機運航なども不可能になる可能性があると説明。その影響は約65億人に及ぶとみられている。星座は飛行機事故が多発することでも知られている北大西洋のバミューダトライアングルの上空に位置している。

 失われた収穫は、衛星を通じて収集されてる衛星データの喪失を意味し、地球全体の約5億km2の土地で不作となり、飢餓や環境災害を引き起こすリスクが指摘されている。世界で最も生物多様性に富んだ地域とされるアマゾン熱帯雨林上空に位置している。

日本上空にある「最後のSOS」。緊急通報ができなくなると、34億人に影響するという(出典:Space Trash Signs)
日本上空にある「最後のSOS」。緊急通報ができなくなると、34億人に影響するという(出典:Space Trash Signs)

 プロジェクトの中心であるPrivateerは、地球の軌道上にあるさまざまな物体の位置を捕捉、800万個以上のデータポイントを毎日収集している。データには、位置や速度、大きさ、形状、デブリの起源となった国、デブリを生み出したプロジェクト、除去にかかる費用の情報が含まれている。

 こうしたデータをもとにデブリを組み合わせて、特定の地域に何らかの関係性を持つビジュアルパターンをAI(人工知能)で探り当てたとしている。PrivateerのチーフサイエンティストであるMoriba Jah氏は「デブリの清掃と予防に関しては、国際基準のガイドラインはあるものの、一切の強制力を持ちません。私たちがいま行動を起こさない限り、宇宙はいずれ使用不可能になってしまうでしょう」とコメントしている。

 プロジェクトは、世界中700以上のプラネタリウムと提携して、デブリ星座を実際に投影し、鑑賞しながら学べる機会を提供することを予定している。

 ウェブブラウザ上でエラーページを表示したり、宅配便を追跡できなくなったり、天気予報が表示されなくなったりなどデブリが引き起こす問題を疑似体験できるデジタルキャンペーンも予定している。各キャンペーンサイトからプロジェクトのウェブサイトに誘導され、そこですべてのデブリ星座や詳細なデータ、背景知識や解決のために取れる行動などを学べるという。欧州宇宙機関(ESA)が40以上の宇宙関連団体と共同で開発した「ゼロデブリ憲章」にそのまま署名することもできるとしている。

 Space Trash Signsは、デブリ問題の解決に取り組む民間や公共の組織や個人に開かれたプラットフォームと説明。主要な支援団体であるESAの専門家は今回のプロジェクトがデブリ問題の認知向上に貢献すると期待しているという。その他には、データを提供するPrivateerに加えて、日本のアストロスケール、ドイツのOKAPI:Orbits、フランスのDark Space、インドのDigantaraといったデブリ問題に取り組むスタートアップも支援している。

 ESAの宇宙安全プログラムコーディーネーターであるQuentin Verspieren氏は、「Space Trash Signsは、デブリという大きな問題を、一般の人にわかりやすく知ってもらうという重要な役割を担っている。ESAとしては、このような取り組みによって人々の認知や興味関心が高まり、ゼロデブリの未来に向けて人々が結集しやすくなることを認識することが重要だと考えている」とコメントしている(ESAは子どもでも理解できるようにデブリ問題を解説するサイトを運用している)。

米ニューヨーク上空にある「ビッグクラッシュ」。金融機関のサービスも衛星を活用しており、衛星が使えなくなることで金融市場は1913億ドル(約30兆円)もの被害があるとしている(出典:Space Trash Signs)
米ニューヨーク上空にある「ビッグクラッシュ」。金融機関のサービスも衛星を活用しており、衛星が使えなくなることで金融市場は1913億ドル(約30兆円)もの被害があるとしている(出典:Space Trash Signs)

 2023年12月時点で運用中の衛星は約9000機。対して軌道が判明しているデブリ、つまり地上から追跡できるデブリの数は約3万5150個。大きさ別にみると、10cm以上が3万6500個、1~10cmが100万個、1mm~1cmが1.3億個と考えられている。

 高度700~800kmを周回するデブリは秒速7.5km、時速にして約2万7000kmで飛行している。デブリの大きさが1mmだとしても、その衝突エネルギーは野球のボールが時速約100kmでぶつかるものと同じと考えられている。大きさが数ミリだとボウリングの玉が時速約100km、大きさが1cmだと小型車が時速70~80kmでぶつかるのと同じ衝突エネルギーになる。

 実際に高度400kmを周回している国際宇宙ステーション(ISS)のロボットアームに小さなデブリが衝突して、数ミリの穴が開いてしまうという事故が起きている。

 加えて厄介なのが、デブリが増加する現象が発生してしまっていることだ。分裂や爆発、衝突などの“イベント”がこれまでに640回以上起きている。

 2007年に中国が、2021年にロシアが衛星破壊実験(Anti-SAtellite Test:ASAT)を実施。2009年にはロシアの運用を終えた衛星が、米Iridiumが運用中の通信衛星と衝突した。こうしたイベントによって地球低軌道(LEO)を周回するデブリは一気に増加してしまっている。なお、ASATは国連総会で2022年12月に禁止する決議が承認されている

 ある研究では、高度1000~1325kmを周回する6700機の衛星が事業が50年続くケースでコンステレーションを考慮しても、90%が「適切に」運用を終了したとしても、10cm以上のデブリが590%も増えるということが明らかになっている。衛星を活用したビジネスが終わった後にデブリが自己増殖すると考えられている。

(出典:Space Trash Signs)
(出典:Space Trash Signs)

関連情報
Space Trash Signsプレスリリース(PR TIMES)
Space Trash Signsウェブサイト
ゼロデブリ憲章ウェブサイト
ゼロデブリ憲章(PDF)
ゼロデブリ憲章署名

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