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「中古衛星市場」がもたらす可能性–宇宙ビジコン「S-Booster」受賞技術者の挑戦
2022.05.16 08:00
人工衛星や探査機は、基本的に一度宇宙に打ち上げてしまったら、そのあとは修理ができない。だから壊れないように、信頼性高く、頑丈に作られている。大型の高機能衛星の場合はなおさらだ。それ故、設計された寿命を超えて長く運用できることが少なくない。新しい機種が登場する時、旧機体を廃棄するのか、使い続けるかは現在、大きな課題となっている。
「例えばNASAの火星ローバー『Opportunity』は90日間の運用予定をはるかに超えて11年間活躍しています。また2009年に打ち上げられたJAXA(宇宙航空研究開発機構)のGOSAT(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」)は5年の運用予定が10年を超えても稼働しましたが、2018年には最新機器を搭載した2号機が打ち上げられ、2022年には次号機の打ち上げが予定されています。まだ活躍できる衛星であるにもかかわらず、スポーツ選手で言えば、控えか引退かを迫られる。そこで『衛星の中古市場』を作り、まだ働ける衛星のセカンドキャリアを輝かせたいと考えました」
こう話すのは、JAXA新事業促進部の市川千秋氏。JAXA入社後、国際宇宙ステーションへの貨物便「こうのとり」や地球観測衛星の開発運用に10年以上携わってきた。例えば「こうのとり」は開発に5年以上かかるのに、打ち上げ後数カ月で大気圏に突入し燃え尽きてしまう。
「JAXAの事業所一般公開で『そんなに頑張って作ったのに数カ月しか使わないんですか』と来場者さんから言われたことが原体験としてあります。頑張って開発した高い信頼性や品質、技術をもつ衛星を、衛星を持ちたい新興国の方などに広く使って頂く機会を提供できれば、市場として発展していけるのではないか」。中古衛星市場を考えた理由を語る。
市川氏はJAXA外の有志とチーム「オポチュニティ」を結成。内閣府が主催する宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2019」で“中古衛星取引プラットフォーム(Satellite Re-use Market:SRM)”について発表したところ、JAL賞を受賞した。
その内容は、まず衛星運用の経験とJAXAの知見を活用して人工衛星の残存価値を定量的に査定、証明書を発行。次に売り手と買い手間の取引を契約までサポートし、その後のアフターサービスも提供する。SRMは仲介手数料などを収益とする。中古衛星を活用することでユーザーは圧倒的に早く、低コストに衛星ビジネスを開始できることがSRMの最大の「売り」だ。
例えば、日本が使っていた観測衛星を、衛星を持っていなかったアジアの国々で使ってもらえば自分たちが見たいところを観測できるだろうし、日本上空で使っていた4Gの通信衛星がアップグレードされて5Gの通信衛星になった時、「4Gでも十分」と考える国や事業者があれば、活用してもらえるのではないか。
これまで、静止軌道衛星の売買が企業間で直接行われた実績はあるが、プラットフォーム的な仲介業者は存在しなかった。実現すれば「世界初」のサービスになる。
中古衛星ならではのメリット–早く、安価に
そもそも衛星の寿命は何で決まってくるのだろう? 自動車がそうであるように、人工衛星も運転の仕方で寿命が変わってくる。
例えば燃料。衛星の居場所である軌道を維持し、姿勢を制御するために燃料を使うが、頻度が多いほど燃料が早く減る。燃料がなくなると衛星は使えない。
ほかにも劣化する部品がある。例えば姿勢制御に使う部品「リアクションホイール」は、長い期間経つうちに摩耗し、やがて使えなくなる。ただし、これらはトラブルが起こることを想定し設計されている。大きなトラブルなく運用されれば、予定の運用期間が終わったあとも長く使える可能性が高く、中古市場に売りに出せる。