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「中古衛星市場」がもたらす可能性–宇宙ビジコン「S-Booster」受賞技術者の挑戦

2022.05.16 08:00

林公代

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 衛星を中古で保有する場合、人工衛星を開発するには最低2~3年かかる期間が約6カ月に、開発コスト最低10億円が約3億円ですむと市川氏らは試算している。人工衛星を一から開発しようと思うと専門知識や技術が必要でハードルが高い。そうしたハードルを下げ、「安く、早く」宇宙業界に参入したいユーザーにとって中古市場はメリットが大きい。

 さらに中古衛星ならではのメリットもある。それは「初期故障のリスクが小さいこと」。人工衛星はどんなに注意深く製造しても、打ち上げ後半年ぐらいまでは、例えば太陽電池パドルが開かないなど機器故障が起こることがある。中古衛星の場合、故障リスクの多い初期運用をクリアし、機器が正常に動くことが証明されているわけで、すぐに使い始めることが可能なのだ。

 想定ユーザーは、衛星を保有したい新興国、地方自治体、早く宇宙産業に参入したいスタートアップなど。地球観測衛星の場合、衛星をもたず衛星データを購入することも可能だが、災害時など緊急時に撮りたい時に撮りたいものを撮れない場合もある。衛星のオーナーなら、いつでも撮りたい場所を観測し、すぐにデータを入手して活用することができる。

 一方、衛星の売り手にとってのメリットは何だろう。「売却益で新規衛星を開発することができるし、使用後の衛星を廃棄せずに済む。また、航空機リースは現在、投資先になっている。人工衛星についても同様にリースを行う事業体が出てくることも考えられる」と市川氏は説明する。

 人工衛星の数が増え続ける現状では、新たな衛星を次々打ち上げるより、使える衛星を有効活用することが、宇宙環境保護やスペースデブリ対策という観点からも重要ではないだろうか。

衛星をもつにはどうすればいい?

 「中古衛星ってメリットあるかも!」と思っても、実際に衛星をもつということはどういうことなのか、イメージがわきにくいかもしれない。宇宙業界にこれから参入しようとする方なら、なおさら何から手をつけていいかわからないに違いない。

 そういう方たちのためにJAXAは4月、「JAXAの衛星を譲り受け、運用しませんか」という画期的な募集を始めた。

 対象となる人工衛星は、2021年11月9日に打ち上げられたJAXAの小型実証衛星2号機(RApid Innovative payload demonstration SatellitE-2:RAISE-2)。公募により選ばれた6つの部品・機器を宇宙で実証することを目的とした衛星だ。2022年2月から定常運用フェーズに入り、各機器のデータなどを取得し実験提案者に提供している。RAISE-2は約1年後に定常運用が終わる予定で、その後に譲渡し、自ら運用を行い新しい宇宙事業のための実証を行う民間事業者を公募している(応募は4月に締め切り)。

 「民間事業者さんに衛星を保有してもらい、衛星を持つことでどんなリスクがあるのか、運用維持メンテナンスにどれくらいの費用がかかるのか。どんな体制をひかないといけないのか、登録などの手続きにどんなことがあり、どんな責任が生じるのか、それらの課題を実際に経験しクリアにして頂くという意味合いが大きい」(市川氏)

衛星を保有するということは、衛星の運用を担うということでもある。写真は「こうのとり」9号機の運用の様子(提供:JAXA)
衛星を保有するということは、衛星の運用を担うということでもある。写真は「こうのとり」9号機の運用の様子(提供:JAXA)

 RAISE-2の譲渡を受けた事業者は衛星を運用するとともに、6つの部品・機器の実験提案者に実験データを提供、利用料をとることができる。6つの実験テーマはジャイロやセンサー、アンテナなど、将来の小型衛星で役立ちそうな革新的な機器が多い。HDカメラを搭載している企業もあるので、今後の話し合いで「撮影してほしい」という衛星保有企業のリクエストが可能になるかもしれない。

 ちなみに、JAXA衛星の企業への譲渡は過去にも実績がある。JAXAの小型実証衛星4型(Small Demonstration Satellite-4:SDS-4)が2019年12月にスカパーJSATに譲渡された。スカパーJSATは静止衛星ビジネスを展開してきたが、低軌道衛星が成長分野として注目されていることから、SDS-4を保有し宇宙・衛星事業ビジョンの一環として取り組むと発表文に記されている。

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