北極海と氷河から気候変動を理解--さまざまなことが見えてくる衛星の「リモートセンシング」の有用性

解説

北極海と氷河で気候変動を理解–衛星の「リモートセンシング」はなぜ重要なのか

2023.08.11 08:00

IEEE翻訳:佐藤信彦

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 地球の気候変動に関する理解を深めるには、北極海と氷河の状況監視が欠かせない。リモートセンシングや地理情報システム(GIS)といった技術は、海面水位の変動を調べ、それが将来どのような影響を及ぼすか分析、研究するのに役立つ。

 電気や情報工学などの分野の学術研究団体であり、技術標準化機関である米国電気電子学会(IEEE)海洋工学技術分科会(Oceanic Engineering Society:OES)メンバーのSiri Jodha Khalsa氏は、米国立氷雪データセンター(National Snow and Ice Data Center:NSIDC)の研究者であり、リモートセンシングとGIS、クライアントインターフェースとメタデータ、データツール開発、アルゴリズム支援に詳しい。そんなKhalsa氏に、北極海のリモートセンシングを質問してみた。

氷河は気候の状況を分かりやすく伝える指標

――北極海の水位を調査することが、なぜ重要なのでしょうか。氷河を調べることで、現在の気候に関して何が分かるのでしょうか。

 氷河は、気候の状況を分かりやすく伝える指標といえます。温度と湿度、降水量の長期的な傾向を記録しているからです。全体的にみると、氷河はこの数十年で縮小してきました。

 ところが、拡大の「急成長」段階を繰り返している氷河も一部あります。世界の多くの地域では氷河が重要な貯水機能を担っているので、氷河が失われると、その下流に住む人々の生活は大きな影響を受けます。

――リモートセンシングやGISで、どのように氷河の状況や北極海の水位を調べているのですか。ほかの調査方法と比べて、どんな長所があるのでしょうか。

 現地へ行くことが難しく、とても環境が厳しい北極の状況を調べるには、リモートセンシングがとても重要です。人工衛星からのリモートセンシングは最もよく使われる観測方法で、多くのメリットがあります。

 冬季に太陽の出ない極夜がある北極は、暗闇に包まれ、雲も多くなるため、中分解能撮像分光放射計(MODIS)や光学観測衛星「Landsat」など可視光で観測する機器は、観測機会が限られてしまいます。

 一方、マイクロ波撮像装置(Special Sensor Microwave/Imager:SSM/I)や高性能マイクロ波放射計(Advancing Microwave Scanning Radiometer:AMSR)、合成開口レーダー(SAR)を活用した観測衛星「RadarSat」のようにマイクロ波で観測するセンサーが、北極海の状況、特に海氷の調査で最も利用されます。

 氷河、なかでもグリーンランドと南極を覆って動いている氷の層を監視することが、大きな海面上昇につながる可能性があるとして注目されるようになりました。海へ流れ出る氷河の観測は、航空機や衛星からリモートセンシング技術を使って常時行われています。

 さらに、「Global Land Ice Measurements from Space(GLIMS)」のような取り組みでは、世界中の氷河について、広がり方などの情報を定期的にまとめています。

――MODISやAMSRのデータが実際にどう使われるのか、もう少し教えてください。

 米航空宇宙局(NASA)などが運用している「Aqua」と「Terra」という2つの衛星に搭載しているMODISと、米海洋大気庁(NOAA)などが運用する衛星の可視赤外撮像放射計(Visible Infrared Imaging Radiometer Suite:VIIRS)極軌道で周回する衛星コンステレーション「Sentinel」に搭載される海域陸域色彩撮像装置(Ocean and Land Color Imager:OLCI)などのセンサーは、観測幅が広く、中程度の空間解像度を持つことから地球のほぼ全域を毎日観測して記録できます。そのため、地球表面の状況を監視するのに重大な役目を果たしています。

――Khalsaさん自身の研究に、IEEE OESでの活動はどのように役立っていますか。OESで間もなく始まる、ワクワクするプロジェクトはありますか。

 OESは、海洋科学の範囲拡大を目的とする、世界的活動の一環です。私個人としてOESの活動は、北極地域におけるリモートセンシング技術の活用事例を学ぶことや、関連技術に取り組んでいるほかの専門家と交流できることにつながっています。

 OESが開催するカンファレンスには、最も重要な「OCEANS」のほか、極環境の監視に関する技術と研究がテーマの「Antarctic and Southern Ocean Forum(ASOF)」と「the Arctic and Northern Ocean forum(ANOF)」という2つがあります。

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