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「H-IIA」ロケット47号機、8月26日に打ち上げ–月に着陸する「SLIM」などを搭載
2023.07.11 16:54
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月11日、国産基幹ロケット「H-IIA」47号機を8月26日に打ち上げると発表した。種子島宇宙センターの大型ロケット発射場で打ち上げる。予定時刻は午前9時34分57秒。予備期間は8月27日~9月15日を設定している。
H-IIA47号機には「X線分光撮像衛星(X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission:XRISM)」と「小型月着陸実証機(Smart Lander for Investigating Moon:SLIM)」が搭載される。
XRISMとSLIMは、宇宙基本計画工程表で2023年度初めの打ち上げ時期を想定。SLIMは、月と太陽、地球の位置関係から月へ向かう軌道に投入できる期間が限られ、月へ向かうために通常より多い推進薬の充填が必要であることから、打ち上げ準備作業を3月中にも開始する計画だった。
H-IIAの後継である新型基幹ロケット「H3」の試験機1号機(Test Flight No.1:TF1)の打ち上げ失敗に関する原因究明活動を進めていることから、3月からの打ち上げ準備作業に入ることを中止。H-IIAへの技術的な影響を詳細に評価した上で次の打ち上げに臨むため、H-IIA47号機の打ち上げについては、月軌道投入可能期間となる8月以降で調整していた。
XRISMはX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の後継。ASTRO-Hは、姿勢制御系に不具合があったことから約1カ月で観測を中断した。
ASTRO-Hの不具合の直接の要因と背後にある要因を調べ上げ、再発防止のための対策を講じたXRISMは、再発防止策に基づいて計画されたプロジェクトとなり、ASTRO-Hが目指していた科学成果を早期に回復し、世界に届けることを目指している。
XRISMは、ASTRO-Hの成果や研究の進展をもとに、銀河を吹き渡る風である「高温プラズマ」のX線精密分光撮像を通じて、物質やエネルギーの流転を調べ、天体の進化を解明するのが目的。JAXAの宇宙科学研究所(ISAS)にとって7番目のX線天文衛星計画となる。
新たな国際X線観測計画として、米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)をはじめとした関係機関と密接に協力しながら、開発が進められていた。
SLIMは、将来の月惑星探査に必要なピンポイント着陸技術を研究し、小型探査機を活用して月面で実証する計画。人類が進める重力天体探査は、従来の「降りやすいところに降りる」探査ではなく、「降りたいところに降りる」探査へと大きな転換を果たすことになると説明する。
「神酒の海」の近くを着陸目標としている。着陸目標地点の直近にはクレーターが存在するが、国際的にも名称がなかった。このクレーターは今後、プロジェクト内外で言及されることが多くなると予想されることから、サイエンスチームを中心としてクレーターの名称を議論。国際天文学会(IAU)へクレーターの名称として「SHIOLI」を提案、認定された。SLIMが歴史のターニングポイントに挟まれる「栞(しおり)」になってほしいという願いが込められている。
将来月面からの試料回収(サンプルリターン)を実施する場合、月面からSLIM級の大きさのリターン機を打ち上げれば、「はやぶさ」などと同程度の大きさのカプセルを地球に送り返せるようになるとしている。
SLIMには、JAXAやタカラトミー、ソニー、同志社大学が共同で開発した、月面を移動できる探査ロボット「Lunar Excursion Vehicle 2(LEV-2)」(愛称「SORA-Q(ソラキュー)」)が搭載される予定。一面が「レゴリス」と呼ばれる細かな砂に覆われ、重力が地球の6分の1しかない月面で活動可能な超小型ロボットの探査技術を実証する。将来の有人月面探査に向けて、自動運転技術や走行技術の検討に必要な月面データを取得も目指している。
H-IIAによる打ち上げ輸送サービスは、三菱重工業がJAXAによるロケット技術の移転を受け、2007年から実施。2013年からは「H-IIB」も打ち上げ輸送サービスのラインアップに追加されている。H-IIAは50号機で退役する予定。