インタビュー
子どもが「宇宙」で思い浮かべるキャラ1位「こてつくん」誕生秘話–きっかけは作品不足への危機感
「宇宙と聞いて思い浮かべるキャラクターは?」と聞かれたとき、大人世代は「スター・ウォーズ「機動戦士ガンダム」「宇宙兄弟」などを連想するかもしれないが、今の子どもたちは「宇宙なんちゃら こてつくん」と答えるのだという。4~6歳(男女共)のアニメ視聴率は10%を超える週もあるというから驚きだ。
2019年に“WEBまんが”からスタートし、2021年からはNHK Eテレでアニメ放送中の「宇宙なんちゃら こてつくん」(以下「こてつくん」)は、アニマル国において宇宙アカデミーに通うパイロット科1年生のこてつが、アカデミーの仲間たちとともに宇宙や月を目指す、青春の日々を描いた作品。かわいらしくユーモラスな、人間味あふれるキャラクターを描く、人気クリエイター「にしむらゆうじ」さんがキャラクターデザインを手がけるほか、アニメで流れる独特のゆるい効果音なども印象的だ。
宇宙ビジネスが盛り上がりを見せる中、「こてつくん」の知名度が向上しているのは、子どもたちにとっても宇宙が身近なものになりつつある証明なのかもしれない。そんな「こてつくん」の誕生の経緯やこれまでの成果、今後の展開などについて、企画を立ち上げたタカラトミーアーツの宮下哲平氏に話を聞いた。
子どもたちが「宇宙作品を知らない」状況を変えたい
――宮下さんご自身は、もともと宇宙に対して強い思いがあったのでしょうか。
実は小さいころはそこまで宇宙好き、という感じではありませんでした。ただ、小学生の時に茨城県の土浦市に転校して、JAXAの筑波宇宙センターの近くで育ちました。それもあって、年に1〜2回は親に宇宙センターに連れて行ってもらっていたんです。当時のことはあまり覚えていませんが、いま思えば興味をもってもっと勉強すればよかったなと(笑)。その後、実際に宇宙に強い興味をもったのは漫画「宇宙兄弟」を見てからですね。
――なんと「宇宙兄弟」から「こてつくん」の企画へとつながったわけですね。
宇宙兄弟の展開にめちゃくちゃ熱いものを感じて、大人になってもこういう熱い気持ちを持てるんだと思いました。宇宙をリアルに描いた作品ですから、主人公たちが挑戦している姿や名言がすごく自分の心に刺さって、宇宙ならビジネスをするのも面白そうだ、と感じたのが最初のきっかけでした。
僕はタカラトミーアーツでキャラクターのライセンスビジネスを手がける部署にいるのですが、僕ら大人の世代だと「宇宙」と聞いて思い浮かべる作品やキャラクターは、おそらくいくつもあると思います。ところが、いまの子どもたちに同じ質問をしてみると、(宇宙で思い浮かべる作品)1位が「特になし」という驚きの結果になりました。
名前のあがったキャラクターだと、子どもたちに人気のメジャーな作品があがっていました。ただ、それらの作品は宇宙そのものをメインテーマとしているわけではなかったため、いまの子どもたちのなかでは、宇宙ど真ん中のキャラがいなかったんです。(小さな子どもが宇宙に触れる作品が少ない現代において)宇宙がもっと身近に感じられる作品やキャラクターがあってしかるべきではないか。そう考えたのが宇宙を題材にした作品を作りたいと思った理由の1つです。
――たしかに、昭和や平成には「スター・ウォーズ」「銀河鉄道999」「機動戦士ガンダム」など、宇宙を題材にした作品が数多くありましたが、令和において小さな子どもたちが新たに宇宙に触れる作品はなかったかもしれません。
もう1つあったのは、ビジネス的な観点です。当社ではカプセルトイやぬいぐるみなどでさまざまなキャラクター商品を展開していますが、ほとんどが版権を保有している他社からキャラクターをお借りして商品化しているものです。そのため、当然ながら当社だけで自由にグッズ展開はできません。
自分たちのオリジナル作品やキャラクターであれば、単にグッズ販売するだけにとどまらず、自由度の高いライセンスビジネスも展開できる。僕の部署は、そういったことにチャレンジしている部署でもあったため、オリジナルの宇宙キャラを作ってみようと考えました。
そんな時、KADOKAWAさんのアニメ局の方と「キッズ向けの作品を作りたい」という話があがり、子ども向けの宇宙キャラを作りたいと提案しました。そしてLINEスタンプなどで人気のにしむらゆうじさんに原作まんがを依頼させていただき、そこからスタートしました。ですので、こてつくんは当社とKADOKAWAさん、にしむらさんの3者によって生まれた作品なのです。
――そのような経緯があったのですね。こてつくんは、最初は「WEBまんが」として始まりました。
2018年の年末にKADOKAWAさんと雑談レベルでお話ししてから、3者で初めて打ち合わせしたのが2019年の1〜2月ごろ。WEBまんがとして始まったのが2019年7月でしたから、だいたい半年程度の準備期間で立ち上がりました。アポロ11号で人類が初めて月面に降り立って50周年のタイミングで発表させていただきました。
アニメ化のプロジェクトは作品立ち上げ当初から構想しておりまして、ビジネスとして広げていくのであればアニメ化はぜひやりたいと思っていました。今後市場としても盛り上がる宇宙がテーマで教育的な要素も盛り込んだ作品なので放送するならNHKさんがいいと考えていましたが、関係いただいた各会社様の尽力もあり、NHK Eテレにて2021年4月から放送開始となりました。
アニメーションは「映画すみっコぐらし」などを手掛けているファンワークスさんに制作いただいています。NHK Eテレで放送するアニメ番組もいくつか手がけられていましたので、そういった意味でもスムーズに進められました。