インタビュー
「共創しよう。宇宙は、世界を変えられる」JAXA新事業促進部が支える宇宙ビジネスのこれから
宇宙航空研究開発機構(JAXA)には、日本の宇宙産業基盤を強化し、宇宙利用産業のコミュニティー拡大と新ビジネス創出を目的とした新事業促進部が存在する。宇宙技術を研究する宇宙科学研究所やロケットに関わる宇宙輸送技術部門と異なり、一般人からは「JAXAらしくない」と見えるかもしれない。
しかし、新事業促進部は、日本企業の宇宙ビジネス進出を支える役割を担っている。新事業促進部で部長を務める伊達木香子氏に話を聞いた。
ビジネスの出口から考える「J-SPARC」
――JAXAで新事業促進部はどのような経緯で設立し、どのようなことをしているのでしょうか。
新事業促進部は、JAXAの前身であるNASDA(宇宙開発事業団)時代の2003年に設立されました。当時は「産業連携室」と呼ばれており、現在の名称に変わったのは2015年です。設立当初は政治や経済などが複雑に絡み合い、順風満帆とは言えませんでしたが、2008年に「宇宙基本法」が施行されました。ちょうど産学連携や科学技術の産業利用など機運が高まる時期に当てはまったと思います。
設立当初は研究技術の民間活用を試行していましたが、前述の宇宙基本法(の附則にある宇宙開発機関の見直しなど)も相まって2010年あたりから体制が整いました。2015年前後は内部で50~60のプロジェクトが稼動し、宇宙にビジネスとしてフォーカスした時期です。われわれは擁する宇宙技術を用いて、民間企業の産業競争力強化という目標を掲げてきました。そのため、JAXAが持つ技術や設備の利用を含めた各種プログラムを展開しています。
――「J-SPARC(JAXA Space Innovation through PARtnership and Co-creation:JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ)」を展開しています。民間企業とどのように事業を進めているのでしょうか。
基本的には民間企業と提携して(JAXAも)リソースを提供し、ビジネスの創出と拡大を目指す取り組みです。従来の連携と異なるのは、「とりあえずやってみよう」ではなく、“ビジネスの出口を定める”プログラムということです。われわれは「共創活動」と呼んでいます。
宇宙ビジネスの実現に向けてJAXAが保有する技術を提供するだけではなく、共創から得た成果を双方で利用するプログラムを走らせています。ロケットの例で例えれば、まずJAXAが責任主体として開発し、その後、民間企業に技術転移していましたが、共創活動では互いに話し合いをしながら「何を目指す?」「どの技術を採用する?」とアジャイル的に短期で検討し、進めるようになっています。
先ほどビジネスの出口について触れましたが、売り上げの数パーセントなど定量的に定めることは難しいです。共創の取り組みの中で「この部分は新しい技術だから、これを成功と設定してやってみよう」「技術利用によるビジネスモデルの構築」といった目標を定め、市場でビジネスに役立つ仕組みを見極めようとしています。いわゆるビジネスプランをしっかりと作り上げることを重視しています。
――最初から「ビジネスになる」という意味で技術開発に取り組んでいるのでしょうか。
民間企業も収益を得ないとビジネスになりませんが、未来技術とビジネスを両立させる宇宙ビジネスは難しいです。(民間企業と比べて)やはりスピード感が異なるからです。大型ロケット開発の場合などは安全性を重視しつつ、貴重な税金を用いているため、長期のスパンで開発することが多いです。
ですが、宇宙ビジネスは世の中の動きに合わせて展開しなければなりません。その見極めが重要です。例えば、国際宇宙ステーション(ISS)一つ、ロケット一つ取っても、安全性が最初にきます。
ただ、技術移転、量産という段階に入ると迷うことが多くて、(現在は開発段階から)先を考えるようになりました。事業継続性の観点からも多様な視点が必要です。
――J-SPARCはどのような成果を出しているのでしょうか。
終了しているものを含め、これまで34のプロジェクトが稼動し、現在は21のプロジェクトで動いています。