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2024年打ち上げ予定「木造人工衛星」素材はホオノキに–10カ月の曝露実験で確認
2023.05.12 17:00
住友林業(東京都千代田区)は5月12日、京都大学と2022年3月から取り組んできた「国際宇宙ステーション(ISS)での木材の宇宙曝露実験」で約10カ月間の宇宙空間での木材試験体の曝露実験が完了したと発表した。2023年1月に試験体は地球へと帰還。米航空宇宙局(NASA)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)を経て、3月に木材試験体を受理したという。
外観や質量などを測定する1次検査では、木材の割れや反り、剥がれなどはなく、温度変化が大きく強力な宇宙線が飛び交う極限の宇宙環境下でも、試験体の劣化は極めて軽微で材質は安定しており、木材の優れた耐久性を確認したという。
2024年に打ち上げを計画している木造人工衛星「LignoSat」1号機に使用する樹種は、今回の実験結果を踏まえ、ホオノキに決定したという。京都大学では、今回の曝露試験のデータと1号機の運用データを、これから計画を進めるLignoSat2号機の設計や2号機で計測を検討するデータの基礎資料に活用するしている。
木材試験体の宇宙曝露前後で質量の変化を測定。宇宙放射線や宇宙空間の“原子状酸素(Atomic Oxygen:AO)”が木材にぶつかることによる表層の消失、化学変化や分解による質量変化の程度を検証した。曝露試験体の重量を測定し、含水率の影響を補正した結果では、ほとんど減少していないことを確認している。
極端な温度変化、原子状酸素の衝突、銀河宇宙線(Galactic Cosmic Ray:GCR)や太陽エネルギー粒子(Solar Energetic Particle:SEP)の影響など地球上とは桁違いに過酷な環境下の宇宙空間に10カ月間晒した試験体は、それらの影響から何らかの浸食が生じることを想定していた。予想に反して外観上に極端な劣化は認められず、木材の利用拡大への可能性を再認識する結果となっている。
今回の宇宙曝露実験はLignoSatに使用する樹種の候補のヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバから最終的に使用する樹種を決定するプロセスの一つとなった。3つの樹種に劣化の差は確認されなかったことから、地上で実施した加工性の高さや寸法安定性、強度などの各種試験の結果も踏まえ、LignoSatにはホオノキを使用することを決定した。
同社は、木造人工衛星の打ち上げに向けて最終的な調整を進めるとともに、試験体の詳細解析を進め、ナノレベルの物質劣化の根本的なメカニズムの解明を目指す。メカニズムを解明することで、高耐久木質外装材などの高機能木質建材や木材の新用途開発への活用を目指すという。
電磁波や磁気波は木材を透過するのでアンテナや姿勢制御装置を衛星内部に設置でき、構造を簡素化できると説明。運用終了後は、大気圏突入時に完全に燃え尽きるので微小物質(アルミナ粒子)が発生せず、よりクリーンで環境に優しい人工衛星の開発につながると木材のメリットを説明している。