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開発技術を地球に還元–宇宙飛行士向井千秋氏がみた「宇宙×IT」の可能性

2022.10.18 08:00

阿久津良和

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 Microsoftの年次イベント「Ignite 2022」で日本マイクロソフトは「Microsoft Ignite Spotlight on Japan」を開催した。ゲストセッション「『クラウド』で切り開く『宇宙』の未来」では、MicrosoftのAzure Spaceシニアプログラムマネージャー 世古龍郎氏とアジア初の女性宇宙飛行士で現在は東京理科大学 特任副学長の向井千秋氏の2人が宇宙とITについて語った。進行は宇宙キャスターの榎本麗美氏が務めた。

「地球は宇宙の一部」

 Microsoftは宇宙でもクラウドを利用する「Azure Space」を提供している。衛星通信を利用したエッジ処理とクラウド接続を行う「Orbital Cloud Access」、衛星通信事業者向けの基本サービスを備える「Orbital Digital Ground Segment」。分析領域では、クラウドに直結した地上局経由で衛星データを受信するとともに衛星を制御、受信した宇宙データを処理、分析、配布する「Orbital Ground Station」と「Orbital Analytics」。開発者向けにはクラウド開発やシミュレーションを行う「Orbital Space SDK」を提供している。

Microsoft Azure Spaceシニアプログラムマネージャー 世古龍郎氏
Microsoft Azure Spaceシニアプログラムマネージャー 世古龍郎氏

 世古氏は「衛星オペレーターや衛星データの利用者、地上局とクラウドを利用してデータへ簡単にアクセスし、効率的に分析する手段を提供している。(Azure Spaceは)クラウドのコンピューティングや分析サービスを利用して、衛星データからインサイトを迅速に得るサービスだ。さらにMicrosoft 365に代表される弊社製品と併用して、利便性を高めることに焦点を当てている」と概要を説明した。

 Azure Spaceはペタバイト級で増加する衛星データの高速処理、衛星データをもとにした地表面の分析、農業や保険、サプライチェーンの分野にも利用範囲を拡大させている。国際宇宙ステーション(ISS)で船外活動をする宇宙飛行士の支援に用いられ、「将来的には火星ミッションや生命科学の分析、宇宙飛行士の健康管理など」(世古氏)への利用拡大を目指している。

向井千秋氏
向井千秋氏

 向井氏は「技術はとても進んでいる。Microsoftの取り組みは宇宙を身近なものにし、利用の可能性を拡大させている。分析も素晴らしいが、宇宙の一番のいいところは地球を遠景、カメラのズームアウトした状態で全体像が見える。そこから自分のビジネスや自分の興味に従ってズームインし、ソリューションにつなげていく。今後数年内でどのように進んでいくのか、期待している」とコメントした。

 「例えば、医療関係の病理診断やガン組織の画像解析もAI(人工知能)が活躍する分野。例えば、火星に人類が上陸する場合、通信は片道20分、往復40分かかってしまう。そんな場面で自律性を持って判断し、人々を手助けするツールも登場するだろう。AIは日々進化しているが、ポイントは我々がどう使うかだ」(向井氏)

 現在、宇宙は地球低軌道がビジネスの中心だが、「Artemis」に代表されるように政府の視点は再び月に向けられた。向井氏は現在のように限られた人々だけが訪れる宇宙ではなく、気軽にクルーズできる宇宙へと進みつつあると説明する。

 議論が「宇宙×メタバース」に進むと、Microsoftはパートナー企業とともに開発した地球のデジタルツインを披露。ペタバイト級の衛星データを利用し、リアルタイムに処理することで建築物や土地など多様な情報を抽出する仕組みだ。この技術はフライトシミュレーションゲーム「Microsoft Flight Simulator」にも利用されている。さらに複合現実(MR)ヘッドセット「Microsoft HoloLens 2」でロケットを開発する技術者支援にも取り組み中だ。

 世古氏の紹介に対して向井氏は「実際の手順書は紙ベース。手順が変わると混乱を招いてしまう。地上ではヘッドマウントディスプレイと仮想空間を使った訓練を行っている。半年前の訓練を思い出すための訓練でも間違いを減らす場面で役立つ」とデジタルの利便性を評した。

 同社はホログラムでISSと通信する「3D Telemedicine to Help Keep Astronauts Healthy」のほかに、遠隔治療を目的に国内の大学と共同研究を行っている。

 向井氏は「遠隔治療に距離は関係ない。センサー技術があれば体内の変化を把握して対応できる。長崎大学と長崎県五島中央病、Microsoftが開発した関節リウマチの遠隔医療システムも、2次元ではなく3次元で見ると精度が増す」とコメントした。HoloLens 2についても「NASA(米航空宇宙局)の訓練で使ったヘッドマウントディスプレイはガッチリして重かった。(HoloLens 2は)コンパクトで軽く、視野も広い」と評価した。

 「宇宙×人々の暮らし」というテーマに話題がおよぶと向井氏は、「ビジネスの観点でエンターテインメント業界は大きなフィールド。なぜなら皆が楽しめるから。私より子どもたちやゲーム業界の方々に(活用方法を)考えてほしい」と語った。

 「私は1985年に宇宙飛行士となり、自分たちが住む地球が自分の目で見られることに大きく感動した。ところが、今は望めば、人々は月にも行ける。現在の東京理科大学では、食事や水、酸素を含めた衣食住など限られたリソースをリサイクルする宇宙滞在技術を研究している。(研究結果の活用性は)地上の砂漠も同じ。宇宙と地球を分けるのではなく、開発技術を地球に還元しつつ、企業は身の丈にあった投資を行ってほしい。地球は宇宙の一部。サステナブル(持続可能性)な世界が一番だ」(向井氏)

(左から)宇宙キャスター 榎本麗美氏、東京理科大学特任副学長 向井千秋氏、Microsoft Azure Space シニアプログラムマネージャー 世古龍郎氏
(左から)宇宙キャスター 榎本麗美氏、東京理科大学特任副学長 向井千秋氏、Microsoft Azure Space シニアプログラムマネージャー 世古龍郎氏

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