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米軍、衛星海氷データ提供を打ち切り–気候変動の指標を失う

2025.07.07 14:43

塚本直樹田中好伸(編集部)

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 米国防総省(DoD)が科学研究のためのデータ処理を中止する計画が明らかになっている。米メディアのSpace.comや公共ラジオ(NPR)が報じている。

 DoDは、米海軍が運営する海軍艦隊数値海洋センター(FNMOC)によるリアルタイム処理を中止し、海氷データの提供を6月末に停止すると通知した。ただし、NPRの報道によると、この決定に対する気象学者や天気予報士からの抗議を受け、データの提供停止は7月末まで延期された。

 米防衛気象衛星計画(Defence Meteorological Satellite Program:DMSP)の一環であるFNMOC(Fleet Numerical Meteorology and Oceanography Center)は、衛星からのデータを米海洋大気庁(NOAA)が処理し、気象学者や天気予報士に配信している。気象学者や天気予報士は、リアルタイムのハリケーン予報や極地の海氷測定などの幅広い目的にFNMOCからのデータを活用している。

 連邦政府の予算で運営されている、コロラド大学ボルダー校を拠点とする米雪氷データセンター(National Snow and Ice Data Center:NSIDC)の気象学者たちは、米空軍の防衛気象衛星に搭載されている、特別センサーマイクロ波イメージャー/サウンダー(SSMIS)のデータにアクセスできなくなると告げられている。

 SSMIS(Special Sensor Microwave Imager/Sounder)は地球の陸地と海上の氷の被覆状況をスキャンできるマイクロ波放射計。DoDは、SSMISのデータを米海軍の艦船の展開計画に使用しているが、処理済みのデータを気象学者や天気予報士に提供してきている。

 SSMISのデータにアクセスできなくなるという、今回の変更は、米政府が科学や科学研究への資金提供に対する予算削減の最新の動きとSpace.comは指摘している

 北極と南極の海を覆う氷の量を示す海氷指数は、地球温暖化に大きく左右される。海と大気の平均気温の上昇は海氷の融解を加速させる。海氷は、大規模な氷河の融解を遅らせ、阻止する緩衝材として機能していると考えられている。

 この緩衝材が失われると、氷河の壊滅的な融解が近づき、危険な海面上昇の脅威となり得る。海氷を追跡できなければ、気象学者は気候変動の最も重要な指標の一つを見失い、地球がどれほど危機に瀕しているのかを見極めることができなくなる。

 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)には、「高性能マイクロ波放射計2(Advanced Microwave Scanning Radiometer 2:AMSR2)」と呼ばれる機器が搭載されており、SSMISとほぼ同じ役割を果たしている。NSIDCの気象学者たちはAMSR2のデータへの移行を検討していた。しかし、移行には機器とデータをNSIDCのシステムと較正するのに時間がかかることで、観測データに空白期間が生じることになる。

 しずくは、北極の冬季の海水域面積(年間最大面積)が観測史上最小となったことを明らかにしている

(出典:NASA's Scientific Visualization Studio)
(出典:NASA’s Scientific Visualization Studio)

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