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NTTなど、植生や生物の広域推定技術の開発に着手–衛星画像データを活用

2025.03.31 16:00

UchuBizスタッフ

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 NTTやバイオーム(京都市下京区)など6社はリモートセンシングでの植生や生物の広域推定技術の開発に着手する。3月27日に発表した。

 NTTのほかにNTTコミュニケーションズやNTTコムウェア、NTTデータNTTドコモが参加する。衛星画像解析技術をはじめとするNTTグループの資産とバイオームが保有する国内最大級という850万件以上のリアルタイム生物データベース「BiomeDB」を掛け合わせる。

 生物多様性のモニタリングを支援するための広域かつ継続的な植生や生物の関連データを収集、分析する手段を確立して、社会の「ネイチャーポジティブ」実現に貢献するという(ネイチャーポジティブ=自然再興は、生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せるという概念)。

 世界経済の総付加価値額のうち44兆ドル(世界の総GDPの約半分)が森林や土壌などの自然資本に依存していると指摘されている。その自然資本を支える生物多様性はかつてないスピードで劣化していると考えられている。

 こうした背景から「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity:CBD)」の締約国会議(Conference of the Parties:COP)の2022年に開かれた第15回(CBD-COP 15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を契機に世界的に生物多様性やネイチャーポジティブへの関心が高まっているという(同枠組みでネイチャーポジティブが掲げられた)。

 日本でも「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が策定され、企業や行政、市民などの多様な主体によるネイチャーポジティブ経済の実現に向けた取り組みが期待されているとしている。同戦略は2024年3月に閣議決定されたもの。企業や金融機関、消費者の行動を変えて自然を保全する経済に移行するビジョンと道筋を示している。

 ネイチャーポジティブ経済の実現では、「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)」での情報開示要請などの国際要請に基づいて、自然資本の現在の状態を把握、評価して、目標に向けて継続的なモニタリングや保全活動をする必要がある(TNFDは、企業や団体が自身の経済活動で自然環境や生物多様性への影響を評価し、情報開示する枠組みの構築を目指す国際的な取り組み)。

 しかし、現状把握やモニタリングでオープンデータだけでは更新頻度や精度が十分ではない場合もあり、負荷がかかる現地調査を継続しなければならない課題があると説明。こうした課題を解決するため、6社で実証を始める。

実証のイメージ(出典:NTT)
実証のイメージ(出典:NTT)

 6社による実証では、衛星画像データとバイオームが保有する生物データ、実フィールドデータ(自治体が保有する植生データや生物データなど)を活用することで高頻度、広域、国際的な議論に沿った粒度で特定地域の植生や生物の種類や分布状況を推定する。

 「ドコモ泉南堀河の森」(大阪府泉南市)とアサヒグループジャパンの社有林である「アサヒの森」(広島県庄原市)でフィールド実証する。

 ドコモ泉南堀河の森では、生物多様性の可視化、経年モニタリングの新しい手法を探求する。加えてドコモが運用する基地局周辺のモニタリングでの活用への可能性も検証する。アサヒの森では、アサヒグループジャパンは実証を通じて、持続可能な生物多様性の可視化、経年モニタリングの新手法を探求する。全体の役割を以下のようにして進める。

  • NTT:プロジェクト全体推進
  • バイオーム:生態系データ提供、生物多様性に関する知見の提供、サービス化の検討
  • NTT Com:フィールド実証の実施、ビジネスユースケースの検討、サービス化の検討
  • NTTコムウェア:総合データの解析、精度の検証
  • NTTデータ:高解像度衛星画像データ(AW3D)の提供
  • NTTドコモ:フィールド提供、ビジネスユースケースの検証

 今後は、自治体の「ランドスケープ戦略」策定や企業のネイチャーポジティブ経営への移行支援、統合報告書作成時のデータ収集支援など、具体的なビジネスユースケースを検討する。自治体や企業にヒアリングして生物多様性戦略策定支援、自然資本の定量評価に寄与できる「高カバレッジ・高精度な生物多様性プラットフォーム化」を目指すという。

 今回の開発着手にあわせて、NTTドコモ・ベンチャーズは同社が運用するファンドを通じて、バイオームに出資する。バイオームとNTTグループとの連携を深め、ネイチャーポジティブに役立つようなビジネスの検討や研究での連携などを進める。

関連情報
NTTプレスリリース

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