米田あゆ氏と諏訪理氏、宇宙飛行士としての抱負を語る

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宇宙飛行士認定の米田あゆ氏と諏訪理氏が振り返った「基礎訓練」–無重力体感や低圧環境の感想は?

2024.10.24 07:22

田中好伸(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)から宇宙飛行士として認定された米田あゆ氏と諏訪理氏が10月23日にJAXAが開いた会見に登壇して、メディアからの質問に答えた。

米田あゆ氏。諏訪氏については「常に落ち着いている。場を和ませることも得意で助けられた」
米田あゆ氏。諏訪氏については「常に落ち着いている。場を和ませることも得意で助けられた」

 米航空宇宙局(NASA)が主導する月探査計画「Artemis」が動くとともに国際宇宙ステーション(ISS)が2030年末で運用を終了。JAXAやNASAなどで数年間の訓練を受けた、米田氏や諏訪氏のような職業宇宙飛行士が宇宙で活躍する一方で、民間の宇宙飛行士や一般の宇宙旅行者が、これまでよりも気軽に宇宙に行ける時代にもなってきた。

 両氏はそうした変化を認識。米田氏は宇宙飛行士の役割について「活動の幅が広がっていく。『こんなこともできるよ』と発信していきたい」とコメント。諏訪氏は「基礎訓練で学んだことはどんなことでも通用できる。JAXAの宇宙飛行士チームに選ばれた。そのチームの『誰が言っても大丈夫』と言われるようになりたい」との意気込みを語った。

 「(宇宙飛行士の役割について)しっかり考えたい。子どもたちに真剣に取り組むことは楽しいと伝えたい。宇宙飛行士の責任とは何か考えている」(米田氏)

諏訪理氏。子どもたちへのメッセージとして「夢中になれるものを大切にしてほしい」
諏訪理氏。子どもたちへのメッセージとして「夢中になれるものを大切にしてほしい」

 JAXAの宇宙飛行士誕生は14年ぶりとなったが、以前と大きく違うのがArtemisでの月探査だ。そのために基礎訓練では地質学訓練も取り込まれた。

 記者会見に登壇したJAXA 有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット ユニット長の久留靖史氏によると、この地質学訓練は「有人月探査を見据えた、新しいもの」という。5月に秩父、10月に浅間山でフィールドワークを実施した。基礎訓練では、国立天文台での天文学、宇宙科学研究所(ISAS)での宇宙科学研究概要も学んだ。

地質学の講義を受ける(出典:JAXA / JAMSS)
地質学の講義を受ける(出典:JAXA / JAMSS)

 有人月探査に向けた基礎訓練では、JAXAとトヨタ自動車が共同で開発する有人与圧探査車(ローバー、愛称「LUNAR CRUISER」=ルナクルーザー)の開発現場を訪れている。諏訪氏は「月に向けて技術開発の現場に行けたのは幸せなことだった」と明かした(Artemisでルナクルーザーを日本が開発、運用することが日米政府間で決められた)。

 「開発現場で意見交換ができた。日本のいろんな技術が詰まっているルナクルーザーを楽しそうに開発している。モックアップに乗せてもらい、シミュレーションを体験できた。月で実際に走れるかと思うとワクワクしてきた」(諏訪氏)

 米田氏もルナクルーザーの開発現場を訪れたことが刺激になったことを明かしている。「ルナクルーザーはクルマだが、(与圧環境であることから)住むクルマ。宇宙飛行士が滞在しやすいように工夫していることが分かった。新しい可能性を考えているのが印象的だった」

 ルナクルーザーを含めて宇宙開発の現場ではさまざまな人間が携わっていることにも感銘を受けたという。

 「多くのさまざまな人間の姿があり、人間の顔が見えてきた。多くの人間が裏側にいることを実感できた」(諏訪氏)

 「(宇宙技術の)開発に携わる人間の多さ、思いを感じた。積み上げてきたものを広げていきたい」(米田氏)

トヨタのルナクルーザー開発現場を見学(出典:TOYOTA / JAXA)
トヨタのルナクルーザー開発現場を見学(出典:TOYOTA / JAXA)

 基礎訓練中には、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙飛行士候補者と一緒に無重力体感訓練(パラボリックフライト)も経験した。諏訪氏は、この訓練が一番楽しかったという。

 「(飛行機の)天井にお腹を向けるという動きがあった。天井を床に感じたのは面白い体験だった」

パラボリックフライト(出典:ESA / JAXA)
パラボリックフライト(出典:ESA / JAXA)

 基礎訓練では、軽飛行機による航空機操縦訓練も必須。これはマルチタスキングで物事を進めていく訓練だが、諏訪氏によれば、「初めての体験が多く、慣れるまでに時間がかかった」という。

 米田氏にとっては低圧環境適応訓練が「興味深かった」としている。ISSでは、宇宙ゴミ(スペースデブリ)が衝突して機体に穴が空いてしまうことで空気が逃げていく、急減圧が起きる可能性がある。低圧環境適応訓練は、急減圧を体感するという意味もある。

 「急減圧になると、減圧症や低酸素症に襲われることになる。低酸素症では苦しさを感じないまま認識レベルが落ちることがある。興味深い経験だった」(米田氏)

低圧環境適応訓練(出典:JAXA)
低圧環境適応訓練(出典:JAXA)

 米田氏は宇宙飛行士候補者になる前の4年間、医師として勤務していた。そうした背景から医師ならではの見方をみせた。

 地上での現状に宇宙開発の現場からのフィードバックとしてどんなことができるのかという質問に対して、米田氏は「地球では得られない知見、宇宙だからこそ得られる知見がある」と説明する。

 「地上ではゆっくりと進む加齢の現象が、(重力が微少な)宇宙では短いスパンで進む。加齢現象でどういったことが起きるのか、予測することができる。そうした知見を地上に生かしたい」(米田氏)

2人の肩書きは「JAXA 有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット 宇宙飛行士グループ 宇宙飛行士」
2人の肩書きは「JAXA 有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット 宇宙飛行士グループ 宇宙飛行士」

 米田氏と諏訪氏の両宇宙飛行士は今後、NASAのジョンソン宇宙センターが拠点になる。11月からは半年程度のプリアサイメント訓練が予定されている。加えて宇宙飛行士としての能力を維持、向上させる訓練を不定期で受けることも決まっている。いつになるかは不明だが、審査委員会が誰をどのミッションに搭乗させるのかを判定。審査委員会が決定してから2年程度のアサインド訓練を終えてから、宇宙に飛び立つことになる。

 JAXAに所属する宇宙飛行士は現在、米田氏と諏訪氏のほかに古川聡氏、星出彰彦氏、油井亀美也氏、大西卓哉氏、金井宣茂氏の7人がいる。直近では、大西氏が2025年2月以降に「Crew-10」ミッションでISSに輸送され、ISSに滞在することが決まっている。

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