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宇宙飛行士候補の米田氏と諏訪氏が「航空機の操縦訓練」でトラブル対応–ANAの専用施設で

2024.08.06 10:26

小口貴宏(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)とANAホールディングス(ANAHD、以後ANA)は8月5日、宇宙飛行士候補者である諏訪理氏、米田あゆ氏の基礎訓練の一部を公開した。2人はシミュレーターで航空機を操縦し、東京と大阪を往復した。

 訓練は東京都内のANAの施設で行われた。東京の羽田空港から大阪の伊丹空港へは諏訪氏が機長、米田氏が副機長を担当。伊丹から羽田へは役割を逆にして飛行した。

 シミュレーターは、フライト中にエンジン停止や天候悪化などのトラブルが次々と発生する設定だった。航空機は機長と副機長の2人で運行するが、諏訪氏と米田氏には、1人で物事を判断するのではなく、チームワークでトラブルに対処しながら、飛行機を安全に着陸させることが求められた。

 「往路も復路も、両方ともエンジンが停止し、行き先も悪天候でダイバートと、急激にワークロードが上がった。時間が少ないなかで、管制官に連絡しつつ、ダイバート先にも連絡を取って決断をする。その際に『この順番で連絡を取ったほうが良いのでは』と米田氏がアドバイスしてくれたのは助けになった」(諏訪氏)

諏訪理氏

 「悪天候で予定していた空港に着陸できない。かつ飛行機も左右にあるエンジンが片方停止している。時間が限られる中で着陸の候補地を2人で話し合って決めなければならない。私が機長を担当して操縦桿を握っていたときは、諏訪氏が多くの候補先を提案していただき助かった」(米田氏)

米田あゆ氏

宇宙飛行士候補の基礎訓練をANAが受託

 フライトシミュレーターの訓練は、ANAがJAXAから受託した宇宙飛行士候補者基礎訓練「心理支援プログラム」の一環で実施した。ANAは新規事業として2018年から宇宙ビジネスに参入しており、宇宙飛行士訓練の受託もその1つだ。チームワークでの臨機応変な判断が求められる航空機パイロットや、異文化理解が必須の客室乗務員の育成ノウハウは、宇宙飛行士の育成と通じる部分があるためだ。

 米田氏は「初めてフライトシミュレーターに入ったときは、スイッチがいっぱいで何がなんだかわからなかった」と前置きしつつ「訓練で1つ1つのスイッチの働きを知ることで自分ごとにし、自分としてのパフォーマンスを発揮できるようになった」と感想を述べた。

 また諏訪氏は訓練の意義について「ISSの訓練もそうだが、何か新しいことにチャレンジする際に、何が起こっているかわからず、見えている範囲が狭いと決断できない。やはり、多くのシチュエーションをきちんと経験することで、緊急時に広い視野をもって判断できるようになる。しかし、宇宙に行ってすぐにさまざまなシチュエーションを経験できるわけではないので、訓練を通じて視野を広げることは重要だ」と述べた。

訓練後に感想を語る両名

 2人は今後も基礎訓練を継続し、審査を経て、早ければ10月にも正式な宇宙飛行士に認定される見通しだ。

 ANAは宇宙ビジネスとして、宇宙飛行士訓練の受託のほか、衛星データ事業や宇宙旅行事業の検討も進めている。

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