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ispace、月面小型探査車「TENACIOUS」の組み立てを完了–欧州法人が独自に設計、製造
2024.07.26 07:12
民間月探査プログラム「HAKUTO-R」を進めるispaceは7月25日、ミッション2に搭載される小型探査車(マイクロローバー)のフライトモデルの組み立てが完了したことを発表した。同社の欧州法人であるispace EUROPEが独自に設計、製造した。
マイクロローバーは「TENACIOUS」(テナシアス、「粘り強い」という意味)と名付けられたことも発表された。TENACIOUSは、ispace EUROPEがあるルクセンブルクから日本に輸送され、今冬の打ち上げに向けてミッション2の着陸機(ランダー)「RESILIENCE」に搭載される。
ミッション2に搭載されるマイクロローバーの設計や製造、組み立ては、欧州宇宙機関(ESA)とルクセンブルク宇宙機関(Luxembourg Space Agency:LSA)が共同で出資した。ESAとLSAは、ルクセンブルクの宇宙資源の産業化を進めるとともに宇宙資源の探査と活用を目指す宇宙プログラム「LuxIMPULSE」での契約をもとにマイクロローバーに出資した。
ispace EUROPEの最高経営責任者(CEO)であるJulien-Alexandre Lamamy氏によると、TENACIOUSは、欧州で製造された初めてのマイクロローバーになるという。ルクセンブルクでは2017年に宇宙資源法が施行。TENACIOUSは、同法に基づいて欧州企業の貨物(ペイロード)を月に運び、月の砂や塵(レゴリス)という宇宙資源を採集する最初のマイクロローバーになるという。
TENACIOUSは高さが26cm、幅が31.5cm、全長が54cmという大きさで重さは約5kg。軽量でロケット打ち上げ時の振動に耐えられるよう躯体には炭素繊維複合材(CFRP)を採用している。高精細のカメラが搭載され、スコップでレゴリスをすくう様子を記録する。すくわれたレゴリスの所有権は米航空宇宙局(NASA)に売却される契約がispaceとかわされており、カメラで撮影される動画は、NASAに見せるための証拠としても使われると説明する。
ルクセンブルクで開かれた記者会見にはispace EUROPEのJohn Walker氏が登壇。Walker氏はマイクロローバーのリードエンジニアを務めている。Walker氏はTENACIOUSの大きさについて「小さいクラスに入る」と説明。TENACIOUSの独自性として「太陽光電池パネルで発電すること、RESILIENCEを経由して地球と通信すること」を挙げている。
TENACIOUSは、月に到着後RESILIENCEにある展開機構で高さ1mから月の地面に落とされる(月の重力は地球の6分の1であるため、月の高さ1mは地球での高さ20cm程度という)。
ランダーのRESILIENCEにコマンドを送信したりデータを送受信したりするのは、日本法人のispaceが日本の管制室(ミッションコントロールルーム)から担当する。月の地面に到達したTENACIOUSへのコマンド送信やデータ送受信は、ランダーを経由してルクセンブルクにあるispace EUROPEのミッションコントロールルームから実施する。
RESILIENCEには、TENACIOUSのほかに複数のユーザーから委託されたペイロードが搭載され、NASAが主導する「Artemis」計画にも貢献することが期待されている。
ミッション1では打ち上げから着陸までの間に10段階のマイルストーンを設定しており、それぞれに設けた成功基準(サクセスクライテリア)を達成することを目指していた。
ルクセンブルクで開かれた今回の記者会見に登壇した、日本法人で最高収益責任者(Chief Revenue Officer:CRO)を務める斉木敦史氏は、ミッション2のサクセスクライテリアについて「作成中」であるとした。
「ミッション2のサクセスクライテリアは、マイクロローバーの分がプラスされることになるだろう。スコップで採集したレゴリスも含めた観測データなどは、ispaceにとって技術的な財産になると同時に、今後の営業的な財産にもなる」(斉木氏)
ミッション1は、2022年12月にSpace Exploration Technologies(SpaceX)のロケット「Falcon 9」で打ち上げられたが、2023年4月に月着陸に失敗した。2024年10~12月に打ち上げ予定のミッション2もFalcon 9で打ち上げられる。
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ispaceプレスリリース