擬似的な弱重力環境で植物栽培、ゲノムレベルで変化を探る--「テラフォーミング」知見を狙う

ニュース

擬似的な弱重力環境で植物栽培、ゲノムレベルで変化を探る–「テラフォーミング」知見を狙う

2024.04.22 15:58

飯塚直

facebook X(旧Twitter) line

 デジタルブラスト(DigitalBlast、東京都千代田区)は4月19日、北海道大学と共同で、火星を模擬した環境下での植物メカニズム研究と、実用化に向けた「テラフォーミング」プロジェクトを開始すると発表した。テラフォーミングは、地球以外の天体の環境を人類の生存に適した環境に改変することを指す。環境改変の技術は地上の緑化など、地球環境問題の解決にも生かせるとされている。

 人工衛星による地球観測や通信、測位サービスの普及や有人月面探査「Artemis」計画など、世界的に宇宙開発や宇宙ビジネスに対する関心が高まっていると説明。今後数十年の間に、一定数の人類が宇宙に長期滞在することも現実的な見通しになっているという。

 一方で、宇宙への食料輸送には莫大なコストがかかり、輸送量にも制限があるため、国際宇宙ステーション(ISS)など軌道上の拠点、月や火星で食料を生産するための技術や仕組みの開発が進められている。

 宇宙への参画を模索している民間企業や民間の研究機関では、微小重力や月での植物育成に高い関心を寄せているという。

 微小重力下での植物生理実験は、2008年のISSの日本実験棟「きぼう」運用開始以来、16年間で12テーマしか行われておらず、その多くが発芽期や幼植物体での実験となっており、植物育成と重力との関係性理解は非常に限定的と指摘されている。

 そこで同社は、宇宙での食料生産につながる植物栽培に必要な基礎的知見を得るため、植物の発生や環境応答などで研究を進めてきている、宇宙実験実施の経験をもつ、北海道大学 大学院 理学研究院 藤田知道研究室との共同研究を決定した。

 共同研究は「月と火星を模擬した疑似弱重力下でのヒメツリガネゴケの細胞レベルおよび個体レベルにおける重力応答メカニズム解明にむけて」がテーマ。

テラフォーミングでコケの定着が進み、人類の活動が始まった火星のイメージ(出典:DigitalBlast)
テラフォーミングでコケの定着が進み、人類の活動が始まった火星のイメージ(出典:DigitalBlast)

 疑似弱重力環境を生成し、植物を栽培することで成長制御のカギとなる遺伝子群を見出し、その制御網を解析することで、重力による成長調節がどのような分子機構で制御されるのかを明らかにするのが目的だという。植物の重力応答統御システムの全貌解明に迫る。

 月や火星などの地球外環境の重力は1Gよりも小さい。これまでの過重力栽培実験やきぼう船内を利用した微小重力環境下での宇宙栽培実験で重力の大きさに応じて光合成活性や成長量(バイオマス)を増加させる可能性のある転写因子の存在が明らかにされつつあるとしている。

 今回の研究では、新しい「3D-クリノスタット制御」と呼ばれる技術を開発することで、地球の6分の1である月、3分の1という火星のそれぞれに相当する偏差を生じさせ、転写因子の機能や作用機序を詳細に調べるという。その分子制御機構を解明し、月面での農業活動での植物への影響の評価に取り組むとしている。

 3D-クリノスタット制御は、3次元的な回転で連続的に重力の方向を変化させることで、重力環境を変化させる装置。回転軌道を変えることで、擬似的に微小重力など任意の重力環境を作り出せるという。

 弱重力環境下で植物の応答をゲノムレベルで明らかにすることで、将来的に人類が月や火星といった地球以外の惑星で食料となる植物を栽培する際に必要となる、基礎的知見を得ることを目指す。

 最終的には、遺伝子制御系を人為的に操作することで、地上1Gや宇宙ステーションでの微小重力、月や火星での弱重力で成長が促進される植物を開発することも視野に入れている。

 DigitalBlastは、同研究が研究者や民間企業の興味、関心を喚起し、ISSやきぼうの民間利用ニーズを高めることで宇宙植物学が進展し、将来的には、火星環境下での植物育成まで発展することを期待するとしている。

テラフォーミングの技術は砂漠の緑化など、地球上の環境問題解決にも転用できる可能性があるという(出典:DigitalBlast)
テラフォーミングの技術は砂漠の緑化など、地球上の環境問題解決にも転用できる可能性があるという(出典:DigitalBlast)

関連情報
DigitalBlastプレスリリース

Related Articles