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宇宙は「日本が科学技術立国として存在感を出せる場」–再びISSへ向かう若田飛行士が語る

2022.07.26 11:15

野々下裕子

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 9月に約半年間にわたる国際宇宙ステーション(以下、ISS)での長期滞在ミッションを予定している若田光一宇宙飛行士の帰国記者会見が7月21日に開催され、YouTubeで公開された。スペースシャトル・エンデバーでの飛行ミッションにはじまり、日本人最多の5度目となる今回のミッションでは、日本の宇宙実験棟「きぼう」を活用した様々な実験とISSのメンテナンスを予定している。

 若田氏と古川聡宇宙飛行士によるISS長期滞在ミッションは、2020年11月に国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)から発表され、両宇宙飛行士は出発に向けてNASAなどで宇宙訓練活動を行っていた。その後、COVID-19などの影響によりミッション開始時期の発表が遅れていたが、7月15日にNASAから、米国フロリダ州ケネディ宇宙船センターから発射されるスペースX社のクルードラゴン5号機(Crew-5)に若田氏が搭乗することが正式に発表された。出発は9月29日以降を予定しており、出発前の一時帰国に併せて記者会見が開催された。

 「日本はISSへの物資輸送を9機連続で成功させ、きぼうから50kg級の超小型衛星を放出するミッションでは、50カ国で計300機という世界の4分の1にあたる国の宇宙実験に貢献するなど、技術力の高さでも信頼を得ている」と若田氏は説明する。13年目を迎えるきぼうの実験棟は産学官民が幅広く様々な実験で活用されており、今回も創薬や健康寿命に関する研究開発をはじめ、日本も参画する米国の月面探査プログラム「アルテミス計画」に関連する実験もあり、例えば、有人で使用する月面ローバーのシステムに反映される技術実験データの収集も含まれる。

 若田氏は4度目のミッションで日本人初のISS船長(コマンダー)を務め、188日間に及ぶ長期滞在ミッションをこなしている。あと1年で還暦を迎える日本人最高齢の宇宙飛行士だが、今回一緒に搭乗する3名のクルーはいずれも宇宙は初めてなので、ベテランとしてのサポートが期待されている。

 「ミッションは毎回新鮮で、新しい時代の操縦桿もない自動化が進んだ宇宙船は訓練時間も短縮され、多くの方が宇宙飛行を実現できるシステムになっていると感じており、実際に体験するのを楽しみにしている。そのためにも家族の支えと宇宙医学医の専門家であるフライト・サージャンの協力を得ながら、日々地道に体力維持と健康管理で努力している。」(若田氏)

 訓練に関してはこれまで世界各国の訓練所でシミュレーターなどを使用して行っていたが、コロナの影響でまずパワーポイントで勉強してから訓練もリモートでしなければならず、その点は担当者全員で工夫して克服していったという。

 記者からは、クルーの一人がロシア国籍であることがミッションに影響しないか?という質問があったが、「クルーはウクライナ侵攻後も共に訓練を続け、十分な時間をかけてチームワークを高めている」と強調した。また、米国の宇宙飛行士がロシアのソユーズ宇宙船に搭乗することが先日発表されており、ロバストの観点からもISSの運用に米露それぞれの参加することは不可欠だと述べる。

 「ISSは計画当初から変わらず世界15カ国が協力してISSの利用成果を最大化できるよう努力している。国際協力プロジェクトは日常生活を豊かにする様々な技術を生み出すのと同時に、世界の人たちが協力してより平和な世界を築く重要な取り組みであり、そこに日本が入っていることが重要であると感じてもらいたい。」(若田氏)

 日本の宇宙開発計画だが、近いところではアルテミス計画でまもなく打上げられる世界最大の新型ロケットSLSの初号機「アルテミス1号」に、超小型探査機「EQUULEUS(エクレウス)」と世界最小の月着陸機「OMOTENASHI(Outstanding Moon exploration TEchnologiesdemonstrated by NAno Semi-Hard Impactor)」が搭載される。

 また、月や火星探査の中継基地となる月周回有人拠点(Gateway)の検討も進められており、日本人宇宙飛行士による月面活動の機会が訪れる可能性もあることから、JAXAでは13年ぶりに宇宙飛行士候補者を新規募集し、過去最多の4127名の応募があった。

NASAが開発した新型ロケット「アルテミス1号」試験時の様子

 若田氏は「自身が月に行く可能性は低いかもしれないが、生涯、有人宇宙飛行活動の現場で仕事をしていきたいと考えており、種子島から世界の宇宙飛行士を宇宙に送り届けるシステムを作り上げることが夢だ」と話す。すでに宇宙飛行士以外に、JAXAで技術部門長や理事などの仕事に付いており、ISSの運用など政策に近いことにも関わっている。

 「それらの仕事は宇宙にいる時より苦労することも多いが、マネージメントの経験が宇宙でのコミュニケーションやトラブルの解決に役立てられるなどたくさん学びがあり、宇宙飛行士としてチーム全体のために何ができるかより明確に理解できるようになったと感じる。今回のミッションも月や火星探査に挑む若い世代の夢につながり、日本人が月に降り立つ日を楽しみしている。」(若田氏)

 日本政府は2025年以降のISS運用を含む地球低軌道活動に参加する方針をこの夏に発表する予定だが、「日本の優れた技術をさらに伸ばし、独自の強みを活かして宇宙へ挑戦していくことは重要だ」と若田氏は強調する。最後に「日本という国が科学技術創造立国として果たしていかなければいけない責務の1つであり、プレゼンスを発揮できる現場だと考えている。ミッションの成果が月探査へとシームレスにつながるよう全力を尽くし、2023年に滞在予定の古川宇宙飛行士にきちんとバトンをつなげていけるよう、皆さんからの応援をこれからもよろしくお願いいたします」と若田氏は述べ、会見を締め括った。

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