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スカパーJSATなど、衛星データでため池モニタリングの有効性を確認–SARも活用

2022.07.22 17:01

飯塚直

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 スカパーJSAT、ゼンリン、日本工営、QPS研究所(福岡市中央区)の4社は、2021年6月に採択された「福岡市実証実験フルサポート事業」で衛星データを活用した“ため池モニタリング”を実証し、有効性を確認したと発表した。

 福岡市実証実験フルサポート事業は、福岡市と福岡地域戦略推進協議会(FDC)が、人工知能(AI)やIoTなどを活用し、社会課題の解決などを目指すプロジェクトを全国から募集。優秀なプロジェクトについて、福岡市での実証実験をさまざまな面でサポートするものとなる。

 全国にため池は約16万カ所あり、特に西日本に多く分布しているという。多くのため池は、地域の農家でつくる水利組合などが管理しているが、高齢化や担い手不足により、日ごろの安全点検や監視が不十分な場所も増加している。

 2018年7月の西日本豪雨では、ため池決壊による人的被害も発生していた。江戸時代に築造された古いため池も多く、その多くは耐震設計がなされていないため、経年的な老朽化も進行しつつあるという。

 そこで、遠隔から広域を状況把握することでため池の越水リスクや決壊リスクを低減し、安全・安心な地域社会づくりに貢献すべく、衛星データを活用した実証実験を実施した。

実証実験での4社の役割
実証実験での4社の役割
実証実験のスケジュール(出典:農林水産省)
実証実験のスケジュール(出典:農林水産省)

 実証実験では、災害時状況把握に向けた「ため池内の堆積ゴミの検出」と、平常時監視に向けた「ため池堤体のモニタリング」を実施した。QPS研究所が手掛ける合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)衛星をはじめとした衛星データによって、ため池へのゴミの流れ込みを確認。堤体の変動を測定したという。

 堤体変動の測定では、スカパーJSATが開発した衛星からの電波を反射する“リフレクタ”や独自の解析アルゴリズムで、誤差1.0mm精度で堤体の変動量を捉えられることを確認。実際に現地を測量して、その結果と遜色のない結果も得られたという。

ため池の衛星画像(光学衛星による撮像、拡大図は設置した模擬ゴミ)
ため池の衛星画像(光学衛星による撮像、拡大図は設置した模擬ゴミ)
QPS研究所のSAR衛星2号機「イザナミ」による撮像
QPS研究所のSAR衛星2号機「イザナミ」による撮像

 今後は、解析アルゴリズムのさらなる改良を重ね、高速度、高精度化を実現した解析技術でSAR画像を用いた衛星防災情報サービスとして、災害時の「浸水状況把握システム」と、平常時の「斜面/インフラモニタリングシステム」の2つの実用化を目指す。

 浸水状況把握システムとは、災害時に天候状況にかかわらず、光学衛星で捉えられたような堆積ゴミをSAR画像とその解析によって捉え、人の手を介さず一度に広域に把握するという。

 斜面/インフラモニタリングシステムは、ため池の堤体だけでなく、斜面や盛り土などの土構造物の変状をセンチ~ミリメートル精度で定期的に監視し、危度を評価することで広域で管理できるしている。

斜面/インフラモニタリングサービスのシステム画面イメージ(赤は隆起傾向、青は沈下傾向を表し、変動量に応じた危険度ランクによって評価する)
斜面/インフラモニタリングサービスのシステム画面イメージ(赤は隆起傾向、青は沈下傾向を表し、変動量に応じた危険度ランクによって評価する)

 QPS研究所は2025年以降に36機の衛星による高頻度な地球観測を可能とするシステムの構築を目指しており、将来的には、災害時や夜間帯を問わず平均10分間隔で撮像することで、よりリアルタイムにエンドユーザーの意思決定への貢献が可能となるサービスの実現を進めていると説明する。

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