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高松聡氏が民間人で世界最長30日間のISS滞在へ–「宇宙から見た地球」を再現すべく24Kクオリティで撮影

2024.02.08 18:27

小口貴宏(編集部)

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 宇宙から見た地球を24K解像度で撮影し、その映像を地上の巨大48Kシアターで再生するプロジェクト「WE」が始まった。カップヌードルなどの「宇宙CM」で知られるアーティストの高松聡氏が発起し、大手コンサルティングファームのデロイト・トーマツが支援。民間人では世界最長となる30日間のISS長期滞在を予定している。 

左からWE代表で写真家・アーティストの高松聡氏、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーでパートナー執行役を務める伊東真史氏

 宇宙から地球を眺めた宇宙飛行士には「概観効果」が生じると言われている。その体験はさまざまだが、薄い大気に守られた脆い地球を見ることで、環境やサステイナビリティの重要性を直感するほか、戦争のない地球を強く希求するようになると言われている。

 一方で現時点で概観効果を味わえるのは、狭き門をくぐり抜けた宇宙飛行士か、超富裕層に限られている。そこで、超高精細カメラで撮影した地球の映像を、肉眼と変わらない解像度の巨大シアターで再生することで「『宇宙から地球を見るという体験』の民主化」を目指す。

 また、概観効果を多くの人に広めることは「地球のサステナビリティへの覚醒」と「戦争のない地球を希求するムーブメントの形成」につながる。こうした社会的意義を訴求することで、ブランドイメージの向上をめざすグローバル企業によるスポンサードを募る。

 加えて、環境保護財団からの寄付や、クラウドファンディングによる個人からの資金調達も想定する。資金調達の完了は2024年内を目標とする。

どうやって撮影?

 プロジェクトでは、資金調達の完了を前提に、2025年末以降に高松氏がSpace Exploration Technologies(SpaceX)のロケットに乗り込み、ISSに30日間滞在する。2024年1月には米Axiom Spaceの長期滞在フライトの座席を予約した。

 ISSには6台の8Kカメラを合体させて24K画質にした特殊機材を持ち込む。そして、ISSで一番大きな窓から地上を撮影する。そして、映像を超解像技術で48K相当にアップスケーリングする。

 VR映像は高松氏自身が宇宙遊泳で撮影する。なお、民間人の船外活動は許可された前例がないため、実施できない場合はロボットアームの先端にVRカメラを設置して撮影する。解像度は視野角1度あたり60ピクセル(60 PPD)を目指す予定で、これは視力1.0の肉眼に匹敵する。

 こうした超高解像度の映像撮影は前代未聞だが、大手カメラメーカーの技術協力が決まり、実現のめどがついた。あとは資金が集まれば実行可能だとしている。

ラスベガスの「Sphere」を超える48Kのシアター設置

 撮影が終了する2026年以降をめどに、映像を再生する仮設のパビリオン施設を地上に設ける。世界各地を巡礼する構想で「日本ではまず広島で始めようと思っている」と高松氏は語る。

 スクリーンのサイズは100m級で、解像度は48K。「100mのスクリーンを3mの距離から見ると、宇宙ステーションから地球を見るのと同じ画角になる」といい、スクリーンから3mの距離に入り口を設け、徐々に離れながら鑑賞できるようにする。また、3mまで近づいても肉眼ではドットを判別できない解像度にする。

 高松氏は米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES 2024」に参加し、現地の名物となっている円形シアター「Sphere」を体験した。「負けたと思ってやる気をなくしちゃったらどうしよう」という気持ちで足を踏み入れたというが「解像度的にはIMAXシアターと同レベルで残念ながら画質は(WEが目指す画質には)足りていない」と話す。

 「Sphereは16K解像度。WEはその4分の1のサイズで48K解像度なので圧倒的に高画質」(高松氏)

 WEのシアターはSphereのような完全球形ではなく、湾曲しているものの基本的には平面となる。また、VRを体感できるブースも設ける。

「宇宙CM」を手掛けた過去

 高松氏は栃木県宇都宮市生まれ。筑波大学の基礎工学類を卒業した。在学中に当時の宇宙開発事業団(NASDA)が公募した日本人初の宇宙飛行士に応募するが、「裸眼視力1.0以上」という条件を満たせずに断念。その後は電通に入社し、世界初の「宇宙ロケ」を実施したポカリスエットのCMを企画した。

 独立後は「この星に、BORDERなんてない。」をテーマに、冷戦や宗教問題といった分断に関するテーマから、宇宙をテーマにした日清カップヌードルのCM「NO BORDER」シリーズを手掛けた。

 その後は宇宙飛行士に再挑戦し、ソユーズのバックアップクルーとしてロシアで宇宙飛行士の訓練を受けたが、宇宙に行くことは叶わなかった。WEは同氏の新たな宇宙への挑戦となる。

 高松氏は現在60歳。宇宙飛行士の訓練を受けたのは8年前だが、現在も週に2回ジムに通い、宇宙に行く気力は十分だという。

デロイトトーマツが全面サポートへ

 プロジェクトの実施にあたっては、デロイトトーマツが全面的にサポートする。

 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの伊東真史氏はWEに加わった理由について「社会課題の解決には、強い意志をもって平和やサステナビリティを希求することが必要で、WEのプロジェクトが持つ意義に共感した」と説明した。

 続けて、WEの実現のためには「企業との共同開発や社会実装、アカデミーとの協力も必要になる。多様な専門人材を個別に当てていきたい。いろいろなことが起こると想定される。財務や会計、税務などもサポートする」と述べた。

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