ElevationSpace、回収カプセル試験でサイドパネル展開に成功

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ElevationSpace、回収カプセル試験でサイドパネル展開に成功

2024.01.10 08:00

飯塚直

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 ElevationSpace(仙台市青葉区)は1月9日、2025年打ち上げ予定の宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」の初号機「あおば」について、回収カプセル部分の試験として熱構造モデル(Structural and Thermal Model:STM)を製作し、サイドパネル展開試験に成功したと発表した。

 ELS-Rは、無重力環境での実証や実験を無人の小型衛星で実施でき、地球に帰還させて顧客へと返す国内初のサービスとなる。

 宇宙で実証や実験を行った後、高推力のハイブリッドスラスタで地球低軌道を離脱。大気圏に再突入し、衛星本体から分離した回収カプセルが大気圏を燃え尽きずに突破。一定の高度に到達後、カプセルのサイドパネルを展開することで、内側のパラシュートが引き出され、緩やかに降下し、海上に着水する仕組みを構築している。

 カプセルの外側を覆っている3枚のサイドパネルは、展開のタイミングがズレると降下中にカプセルが回転してしまう。そのため、パラシュートが正常に開けなくなる可能性があり、高い精度で同時に展開する必要がある。

 ElevationSpaceは、サイドパネル保持開放機構を独自に開発し、3枚のサイドパネルが同時に展開してパラシュートを確実に放出できるように設計。熱構造モデル(STM)を使用したサイドパネル開放機構の展開試験で同時展開に成功した。

回収カプセルの熱構造モデル(出典:ElevationSpace)
回収カプセルの熱構造モデル(出典:ElevationSpace)

 今回製作した熱構造モデル(STM)では、回収カプセル内へのパラシュートやフローテーションバッグの収納も試験し、構造的に問題がないことを確認している。

 回収カプセルの構造設計面では、2018年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が成功させた国際宇宙ステーション(ISS)からの物資回収ミッション「HTV搭載小型回収カプセル」(H-II Transfer Vehicle Small Re-entry Capsule:HSRC)の知見を踏まえており、JAXAでHSRC開発を主導していた渡邉泰秀氏を技術顧問に迎え、開発を進めている。

 同社は、試験で得られたデータをもとに調整し、今後の各種環境試験や最終的な実機の設計や製造につなげていく予定だという。

 「あおば」は、HSRCと同様の円錐台形の形状、HSRCで実証された熱防護材(アブレータ)を使用することで信頼性を担保。サイドパネル保持開放機構などに自社開発の独自技術を採用することで、低コスト化を実現しているという。

ELS-Rのサービスイメージ(出典:ElevationSpace)
ELS-Rのサービスイメージ(出典:ElevationSpace)

 政府が2023年6月に発表した「宇宙基本計画」の中で、ISSが周回しているような高度2000km以下の地球低軌道は、アクセスや物資補給・回収が比較的容易であることから、宇宙環境利用のための貴重な場と位置付けられている。Artemis計画をはじめとした月以遠への活動にあたって、必要となる技術の獲得や実証の場としても利用することも明言されている。

 しかし、これまで基礎科学的な実験から産業利用まで幅広く利用されてきたISSは、構造寿命などの関係から2030年に運用の終了が決定。宇宙環境利用の場を継続的に確保することが課題となっている。

 こうした課題に対し、ElevationSpaceは“ポストISS時代”を見据えたELS-Rの提供を目指し、2025年に「あおば」の打ち上げを予定している。

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ElevationSpaceプレスリリース

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