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日本の新興企業が100kg級衛星を量産へ–アクセルスペースが打ち上げ直前「汎用バス」公開

2023.12.27 07:10

小口貴宏(編集部)

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 アクセルスペースは12月21日、同社が開発した汎用衛星バス「Pyxis」を報道公開した。米Space Exploration Technologies(SpaceX)の「Falcon 9」ロケットで2024年第1四半期に打ち上げる予定で、射場のある米国へ輸送される直前での公開となった。

 そもそも汎用衛星バスとは、推進器(スラスター)や通信機能といった「衛星の基本機能」を収めた箱だ。単体でも衛星として機能するが、機器を追加するなどして、さまざまな用途の衛星を短期間で開発できるようになる。

アクセルスペースで代表取締役 最高経営責任者(CEO)を務める中村友哉

 アクセルスペースは、衛星の受注生産から運用までをワンストップで手掛けることで、顧客が専門知識なしに衛星を開発・打ち上げ・運用できる「AxelLiner」(アクセルライナー)事業の立ち上げを目指している。汎用衛星バスは同事業の柱となる。

 同社で代表取締役 最高経営責任者(CEO)を務める中村友哉氏は「オーダーメイドの一品生産ではなく標準規格を用いて量産する汎用衛星バスは、衛星開発の新しい形だ」とコメント。汎用衛星バスを用いることで、これまで2〜3年かかっていた衛星の受注生産期間を、1年以内に短縮できると述べた。

キューブサットではなく100kg級の衛星生産に照準

 同社が狙うのは、100kg〜200kg級の小型衛星の受注生産だ。最近は「キューブサット」という重さ数kg〜10kg程度の超小型衛星が話題を集めているが、それよりも大きい。中村氏によると、技術の進歩によってキューブサットが可能になったものの、サイズの制約は依然としてある。一方で100kg〜200kg級の衛星はそうした制約が少ないことから、今衛星業界でホットなサイズなのだという。

 その実証衛星初号機となるのがPyxisだ。質量は145kg、本体サイズは125cmx100cmx75cm。打ち上げ後、軌道上では汎用衛星バスの実証のほか、同社事業のもう1つの柱である地球観測サービス「AxelGlobe」(アクセルグローブ)の次世代衛星向け望遠鏡を試験する。さらに、ソニーグループのIoT向け低消費電力広域通信(LPWA)規格「ELTRES」(エルトレス)の軌道上実証も予定する。

 近年は衛星の運用終了後にスペースデブリ化を防止する「デオービット」も重要となる。Pyxisでは運用終了後に膜を展開し、軌道上の希薄な大気との空気抵抗によって減速し、大気圏へ再突入させる「小型衛星用膜面展開型デオービット機構」(D-SAIL)も備える。

汎用衛星バスの実証衛星初号機「Pyxis」

「宇宙安全保障のニーズも排除しない」

 アクセルスペースは同日、シリーズDラウンドとして第三者割当増資で約62.4億円を調達したと発表。株式調達の累計は143億円に達している。

 同社は調達した資金をもとに、前述の汎用衛星バスに加えて、地球観測サービスの「AxelGlobe」を強化する方針だ。

事業の柱は2つ

 AxelGlobeはすでに5機の観測衛星を打ち上げ、地球上の任意の地点を「2日に1回」撮影する体制を整えている。今後は「1日1回」撮影できる体制を目指し、数年以内に衛星をさらに追加する計画だ。

 また、現状は中分解能衛星のみだが、高分解能衛星の投入も予定している。

 高分解能衛星は宇宙安全保障のニーズも想定されるが、中村氏は「宇宙安保のお客様を排除はしない」としつつ「民間でも高分解能の衛星を使うニーズが増えている」と説明。中分解能と高分解能衛星を組み合わせたソリューションを作ることが重要と付け加えた。

「現時点では円安のほうがデメリット」

 経済環境に目を向けると、欧米ではこれまでの金融引き締め政策が一転し、金融緩和の兆しが出ている。一方で日本では利上げ観測が高まり、これまでの円安基調から一転して円高の影もちらついている。

 こうした金融環境の先行きについてアクセルスペースで執行役員 最高財務責任者(CFO)を務める折𠩤大吾氏は「今後の資金調達への影響はないと思っている」としつつ、為替環境については「ロケットの打ち上げ費用はドルで払っており、現時点では円安のほうがデメリット」と述べた。

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