高校生によるタンパク質結晶化実験サンプル、ISS日本実験棟「きぼう」に

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高校生によるタンパク質結晶化実験サンプル、ISS日本実験棟「きぼう」に

2023.11.22 08:00

飯塚直

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 米国時間11月9日に米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられたSpace Exploration Technologies(SpaceX)のロケット「Falcon 9」は無人補給船「Dragon」を搭載。Dragonは11月11日に国際宇宙ステーション(ISS)とドッキングした。

 今回の打ち上げは、米航空宇宙局(NASA)がISSへの貨物や物資の輸送を民間企業に委託する「商業物資輸送サービス」(Commercial Resupply Services:CRS)の29回目のミッションとなる(SpaceX CRS-29:SpX-29)。

 SpX-29には、さまざまな物資が搭載されているが、その中には、学習院高等科・女子高等科(学習院女子高校)の高校生を対象にした「タンパク質結晶化体験ワークショップ」で実際に高校生15人が結晶化実験を行ったタンパク質の試料(サンプル)も搭載されている。

学習院女子高校の高校生がタンパク質結晶化実験をする様子(出典:Space BD)
学習院女子高校の高校生がタンパク質結晶化実験をする様子(出典:Space BD)

 生命活動を支えるタンパク質は、形(構造)と働き(機能)が密接につながっており、形が分かれば、機能を推測できるという。機能を促進したり阻害したりする化合物を設計することも可能とされている。多くの医薬品は、こうしたタンパク質の機能を調整するものであり、タンパク質の構造は医薬品の開発にも役立っている。

 ISSのような微小重力環境では、地球の重力に起因する対流が起こらないことで、結晶が流れのない静かな環境で安定して成長可能。不純物が結晶に取り込まれることも少ないことから、結晶中で分子が規則正しく並んだ、品質の良い結晶ができる傾向があるとしている。

 微小重力環境でできた結晶を地球に持ち帰って調べると、品質が良くなっていることがあるため、微小重力環境でできた結晶を調べることでタンパク質の詳細な構造の情報から医薬品の研究や開発を進められるとして注目されている。

NASA ケネディ宇宙センターでSpX-29搭載サンプルの充填作業をする様子(出典:Space BD)
NASA ケネディ宇宙センターでSpX-29搭載サンプルの充填作業をする様子(出典:Space BD)

 学習院女子高でのワークショップは、ISSの日本実験棟(JEM)「きぼう」を活用した、Space BD(東京都中央区)のライフサイエンス事業の一つ。学習院女子高校を含めた国内外の企業や研究機関のサンプルがISSに運ばれ、すでに実験を開始しているものもある。

 Space BDは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や丸和栄養食品とのパートナーシップのもと、地上での結晶化条件探索、宇宙実験の適合性審査、サンプルの充填作業などを提供している。

 学習院女子高校でのワークショップは、Space BDと学習院大学が2022年3月に締結した産学連携協定の協力内容の1つ。学習院大学 理学部の一貫教育プログラムとして企画された。サンプルの地球帰還後には、地上で実験したサンプルと宇宙環境で実験したサンプルを比較する実験が予定されている。

 Space BDは、「きぼう」の実験設備を活用し、微小重力空間の特性をいかした高品質なタンパク質結晶の生成技術を使用しライフサイエンス事業「タンパク構造解析サービス」を展開。創薬研究で重要となる、タンパク質の構造情報の決定と化合物との相互作用の検証を支援している。

 通常の新薬開発プロセスで膨大な時間がかかる候補化合物の選定で高品質なタンパク質の構造情報を基づいて実験をすることで、リードタイムを大幅に短縮し、コスト削減に貢献しているという。

関連リンク
Space BDプレスリリース

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