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DATAFLUCT、NEDO「SBIR推進」採択–森林CO2吸収ポテンシャルの算出ツールを開発

2023.11.09 09:00

飯塚直

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 DATAFLUCT(東京都渋谷区)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した2023年度「SBIR推進プログラム」(一気通貫型)で「衛星画像を利用した森林のCO2吸収ポテンシャルの算出ツールの開発」が採択された。11月8日に発表した。

 JAXAベンチャーとして設立したDATAFLUCTは、衛星画像解析などの高度な技術と事業化の実績があるという。2019年に、ガス観測衛星「いぶき」の時系列データを分析した際、温暖化効果ガスの排出増加を確認。脱炭素社会に向け、行動変容や分析のサービスを開始している。

 今回の「SBIR推進プログラム」への応募は、衛星を含むデータの活用とアルゴリズム開発を通じてカーボンクレジットのエコシステム拡大、ステークホルダー支援ツールの拡充が目的になるという。

 日本は、森林率が約67%と高く、豊富な森林資源を活用したカーボンクレジットの導入は、脱炭素社会の実現に向けた大きなチャンスになり得るとしている。カーボンクレジットを販売することは、森林を適切に管理するために必要な資金の一助にもなる。

 だが、森林クレジットの創出や施業履歴の管理では、対象となる数十ヘクタールから数千ヘクタールの森林の状態を定期的にモニタリングする必要があるという。この課題を解決策として期待されているのが衛星データの活用。同社は、国内ではまだ事例のない「衛星データを活用したモニタリング」を事業化することで、森林由来クレジット申請に向けたバイオマス推定の精緻化と低コスト化を推進していくと解説する。

森林クレジットの創出から利用、評価までの流れ(出典:DATAFLUCT)
森林クレジットの創出から利用、評価までの流れ(出典:DATAFLUCT)

 今回採択された「衛星画像を利用した森林のCO2吸収ポテンシャルの算出ツールの開発」事業では、(1)「森林のCO2吸収ポテンシャルを衛星画像から推定・可視化するツールの開発」、(2)「森林事業者の有するデータと衛星画像を組み合わせることで高精度なクレジット推定を低コストで実現する手段の構築」――という2つのテーマについて、フィージビリティスタディ(実現可能性調査)を実施する。

 (1)「森林のCO2吸収ポテンシャルを衛星画像から推定・可視化するツールの開発」の背景について、DATAFLUCTは、自治体や企業の所有する森林の地上バイオマス量(aboveground biomass:AGB)を簡易的に推定ができれば、森林クレジット申請に向けた工数の予算化や将来価値の資産が可能になると説明。こうしたサービスへの需要はあるものの、既存の方法での初期導入コストの高さ、汎用的な評価手法の欠如などの難しさから実施している国内企業はいないとしている。

 (1)では、こうした背景からDATAFLUCTは光学衛星と合成開口レーダー(SAR)衛星を活用して、機械学習モデルの改善や衛星データの統計的処理でAGBの推定精度を向上させ、得られたAGBの値と位置情報データを結び付けて可視化する。

 (2)「森林事業者の有するデータと衛星画像を組み合わせることで高精度なクレジット推定を低コストで実現する手段の構築」の背景として、森林クレジットの申請では、データ整備が不十分な事業者は、現地踏査とともに、レーザー光を照射してその散乱や反射光から距離などを計測するレーザー距離計(LiDAR)で航空機から観測するが、継続的な施業管理とモニタリングが必要になると説明。こうした背景から森林クレジットの申請とモニタリングのコストが増大していると指摘する。

 そこでDATAFLUCTは(2)で森林簿や森林の地理情報システム(GIS)、航空機のLiDAR、航空画像と衛星画像を組み合わせることで低コストでの森林クレジット申請とモニタリングを実現する支援ツールを開発するとともに実現可能性を確認する。既存の光学画像を活用して森林の施業の有無を確認できるかを検証するとともに、航空機LiDARの3次元点群データを衛星データで補間する手法を検証する。

 DATAFLUCTは、2024年3月までにアルゴリズムを試作。2024年4月からの実証実験開始を予定する。

 事業化を通じて、森林バイオマス量の推定の精度を維持しつつ、クレジットの申請にかかるコストを低減させることで、市場の間口を広げ、参加者を増やし、活気あるエコシステム作りを目指す。

 将来的な人口増加や経済成長が見込まれている南アジアや東南アジア地域が脱炭素への取り組みを進めることが重要であることから、今回の事業で得られた知見を将来的にはアジアのボランタリークレジット市場や地場企業向け脱炭素サービスとして展開するとしている。

衛星画像を利用した森林のCO2吸収ポテンシャル算出ツール開発事業のイメージ(出典:DATAFLUCT)
衛星画像を利用した森林のCO2吸収ポテンシャル算出ツール開発事業のイメージ(出典:DATAFLUCT)

 SBIR(Small Business Innovation Research)は、中小企業やスタートアップ企業を補助金などで支援する制度。国内では「中小企業等経営強化法」に基づく制度として、社会課題の解決に貢献する研究開発型スタートアップの研究開発を促進、社会実装させるため、1999年から展開されてきた。

 NEDOのSBIR推進プログラムは、内閣府が司令塔となって、省庁横断的に展開。関係府省庁などが実施する研究開発課題や研究開発フェイズは、年度ごとに内閣府ガバニングボードで決定する。

 実現可能性調査や概念実証といった研究開発の初期段階をフェイズ1、実用化開発支援をフェイズ2として、各フェイズをSBIR推進プログラム内で実施する「一気通貫型」、関係する府省庁などで実施する指定補助金などに接続する「連結型」で実施する。

 一気通貫型でDATAFLUCTのほかに採択されたのは、テクノソルバと三協製作所、 MJOLNIR SPACEWORKSSpace quartersNew Space IntelligenceワープスペースSPACE WALKER、Space Transitなど。

関連リンク
DATAFLUCTプレスリリース

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