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「ロケットを自動車のように大量生産」めざす日本企業が最優秀賞–内閣府主催のS-Booster 2022

2022.12.22 15:00

日沼諭史

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▲「S-Booster 2022」の最終選抜会が実施され、最優秀賞が決定

 内閣府が主催する宇宙分野のビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2022」の最終選抜会が2022年12月15日に行われ、安全かつ低コストで大量生産が可能な打ち上げ用ロケットエンジンを開発する日本企業、MJOLNIR SPACEWORKSが最優秀賞に輝き、賞金1000万円を獲得した。

待機状態にある小型衛星を「全て打ち上げる」量産ロケットエンジン

 「S-Booster 2022」は、内閣府が主催する、日本およびアジア・オセアニア地域の個人、およびグループを対象とした宇宙分野のビジネスアイデアコンテストだ。5回目の開催となる今回は、4月から応募を受け付け、一次および二次選抜とメンタリング期間を経て、11チームが最終選抜会に臨んだ。

 最優秀賞に選ばれたMJOLNIR SPACEWORKSは、ベンチャーキャピタルのRiskTakerが選定する「RiskTaker賞」も併せて受賞した。小型衛星などの打ち上げニーズが高まるなか、高コストで生産に時間がかかる従来型の液体燃料エンジンではその需要を満たすことができないことから、はるかに低コストで大量生産が可能な「ハイブリッドエンジン」を考案。液体酸素とプラスチックからなるシンプルな構造で、安全性が高いことを特徴としている。

▲MJOLNIR SPACEWORKSの大量生産可能なロケットエンジンに関するピッチ
▲爆発しやすい液体水素を使わない「ハイブリッドエンジン」を開発

 すでに4トン級の推力をもつ地上燃焼試験を実施しており、海外ロケットメーカーなど複数社との契約も締結済み。2020年代後半には年間3000機を超えるとされる小型衛星を「全て打ち上げる」と意気込む。「ロケットがないと宇宙に行けない、何も始まらない。と同時に、宇宙はもっと簡単に行けると思っている。我々のビジネスが成功すればもっと簡単に宇宙にいけるはず。宇宙なんて1週間前に行ってきたよ、と言えるような、そういう世界を目指して頑張っていきたい」と語った。

▲構造がシンプルなため低コストに
▲納期の劇的な短縮も実現する

 特別審査員を務めるWiL General Partner & CEOの伊佐山元氏は、受賞理由について「(今回のコンテストでは、宇宙に)衛星を上げる、建物を作る、ヘルスケアサービスをするなど、いろいろな案があったが、その大前提は宇宙に行けること。今は衛星を上げたくてもロケットが足りていない。ロケットの数を増やすことができるなら今日のプランはみんな実現に近づく」と説明した。

 そのうえで「1社が他の全部の会社を背負わなければならない。ロケットの量産化や、それを支える会社になってもらわないと宇宙産業はこの先に行けないので、非常に責任重大だが、それだけ期待も大きい」と付け加えた。

▲特別審査員の伊佐山元氏

 総評に立ったJAXA理事長の山川宏氏は、「(宇宙ビジネスの)実現可能性だけでなく、多様性も増してきており、業界全体としてますます発展していくことが期待できる。今後も(JAXAとして)S-Boosterに参加されたみなさまを支援していきたい」とコメント。一方で受賞者やファイナリストに向けては、「S-Boosterに今後挑戦される方に、今回の経験を伝えて後輩を育ててほしい」としつつ、「近い将来、同じ方向に向かって事業を一緒に進めていくことができるようになれば」と語った。

▲JAXA理事長 山川宏氏

 また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)理事長の石塚博昭氏は、「民間産業がなかなか育ちにくいと言われてきた宇宙事業も、S-Booster事業の開始を皮切りに、スタートアップや起業家などのニュースペース勢が参入しやすい環境が整いつつある。今般の補正予算(令和4年度第2次補正予算)ではディープテック・スタートアップ支援事業としてNEDOに1000億円の基金が造成される。こうした制度を活用して、NEDOとしても、今後ますます注目される宇宙産業分野へ果敢に挑戦するスタートアップ・起業家支援に取り組む」と宇宙産業発展の後押しを約束した。

▲NEDO理事長 石塚博昭氏

 なお、「審査員特別賞」は月の地下などに眠る水資源の採掘を効率化する地図の作成と販売を目指す日本のTSUKIMIが、「JAXA賞」は衛星画像などを用いた地下水の分析技術をもつインドのAumsat Technologiesが、「アジア・オセアニア賞」は衛星画像を用いて二酸化炭素排出量などを推定し、低炭素社会を目指すための複数のソリューションをもつタイのLEET Carbonがそれぞれ受賞した。協賛企業の各賞を含む受賞者は下記の通り。

  • 最優秀賞:MJOLNIR SPACEWORKS(日本)「ハイブリッドエンジンの大量生産・販売」
  • RiskTaker賞:MJOLNIR SPACEWORKS(日本)「ハイブリッドエンジンの大量生産・販売」
  • 審査員特別賞:TSUKIMI(日本)「<Space Treasure Map>月・小惑星の資源宝地図」
  • アジア・オセアニア賞:LEET Carbon(タイ)「LEET CARBON」
  • JAXA賞:Aumsat Technologies(インド)「Chika Mizu」
  • 京セラ賞:Team BPS(日本)「リモートセンシングによる大規模プランテーションの病害および土壌水分量推定サービス」
  • スカパーJSAT賞 株式会社:Space quarters(日本)「宇宙溶接を用いたパネル接合型大型ステーションモジュールの建築」
  • ソニーグループ賞:SpaLCe(日本)「えきくろ5.0~超小型液体クロマトグラフィーの進化~」
  • NEDO賞:SpaLCe(日本)「えきくろ5.0~超小型液体クロマトグラフィーの進化~」
  • Honda R&D賞:株式会社エイシング(AISing Ltd.)(日本)「エッジAIが提供するあらゆる場所での安全の実現」
  • 三井物産賞:株式会社Dinow(日本)「民間宇宙旅行におけるトータルヘルスケアサービス」

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