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なぜスタジアムは茶色い食べ物ばかりなのか–解決のヒントは「宇宙」にあった【SKS JAPAN 2023】

2023.08.24 11:00

小口貴宏(編集部)

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 宇宙空間と日常生活に共通する「食の課題」をヒントにビジネスを開発する──。こんな挑戦をしているのが、一般社団法人のSPACE FOODSPHEREだ。

 今後は宇宙旅行の発展などによって、宇宙における食のニーズの多様化が想定されている。一方で、地上にも未解決の食の課題が残っている。SPACE FOODSPHEREは宇宙と地上に共通する「食の制約」をヒントに、食料調達からゴミ出しまでを含め、さまざまな「制約の解決策」をビジネス化することを目指している。

 SPACE FOODSPHEREは2022年秋に「宇宙と地上の食の制約」をヒントに新規ビジネスの開発をめざすアクセラレーションプログラム「Space Reverse Innovation(SRI)」を立ち上げた。そして今回、7月に開催されたフードテックカンファレンス「SKS JAPAN 2023」において、SRIから生まれた3つのプロジェクトが発表された。

SPACE FOODSPHEREの参画組織一覧
SRIから生まれた3つのプロジェクト

Space Stadium Food

 その1つが、スタジアムでの食のバリエーションの拡充をめざす「Space Stadium Food」だ。

MSDで取締役を務める浅野高光氏

 同プロジェクトは、「宇宙には食事のバリエーションが少ない」という課題をヒントに、地球にも同様の課題がないか調査した結果生まれたプロジェクトなのだという。

 「スタジアムでは『おいしいフードに出会えない』という課題があることがヒアリング調査からわかった。唐揚げ、ポテト、たこやき、茶色いものが多いよねと。調理施設の制約などがあり仕方ない側面もあるが、だったら、スタジアムのフードと宇宙の食の課題を一緒に考えたプロジェクトを立ち上げられるんじゃないか」(MSDで取締役を務める浅野高光氏)

 第一弾として、米を使ったフードプラットフォーム「Rice Food Platform」に取り組んでいるという。その詳細は明かされなかったが、十分グローバルに通用するプロダクトだといい「全体で7兆円ある市場のうち1%のシェアを取れると踏んでいる。それだけで700億円。そして、別の見方では、本プロジェクトの商品はグルテンフリーであり、この市場は11.9%のCAGR(年平均成長率)で伸びている。その考えの起点となるのが宇宙でありスタジアムだ」と語る。

SPACE FOODSPHEREの菊池優太氏

 また、同プロジェクトの実現にあたっては、さまざまなパートナーとの協業が必要となる。SPACE FOODSPHERE理事の菊池氏は「球団チームと話をする中でさまざまな課題が見えてきた」と明かし、調理師やレシピ、包材メーカー、自治体など多岐にわたる連携が必要になると説明した。

4/6(ろくぶんのよん)

 「お金にならない」と思われがちな「災害食の備蓄」をビジネス化しようと取り組むのが4/6だ。閉鎖隔離環境の宇宙では、飛行士の食料を余分に確保しておくなどの冗長性が必須となる。この冗長性をヒントに、非常時に「災害食が足りない」という地上の課題の解決を目指したのが同プログラムとなる。

  独自調査の結果、実際に想定されている災害が発生すると、現在の備蓄量では1日1食分も満たせないことがわかったという。また、備蓄の6分の2は公的機関が保有しているが、残りの6分の4は私的な備蓄と流通や小売、卸業者の流通在庫を吐き出すことが前提となっており、そうした在庫の所在が不明瞭であることが災害食備蓄における課題だと明かす。

 そこで同プロジェクトでは、流通事業者などとタッグを組んでビジネス化を目指すという。「一緒にやりたいのは流通事業者。(災害のために)流通在庫を余分に抱えてくださいと頼んでもキャッシュフロー的にマイナスだから絶対無理。だから、遊びとなる在庫をどうやって事業化するのか、どうやって人の欲求に結びつけるのか、それを日常のフローとすることで、プラスオンの事業とすることを目指している」と浅野氏は説明した。

DKAT

 このほか、DKATというプロジェクトも紹介した。浅野氏は「独自調査の結果、才賀時に炊き出しが実施される避難所と実施されない避難所があることがわかった」と語り、これを明確化し「災害時、心を豊かにするキッチン」のビジネス化を目指すのだという。これらは、避難所とある意味で環境が似ている有人宇宙船におけるメンタルケアなどにも応用できるとした。

 なお、これら3つのプロジェクトとの宇宙との関連について、SPACE FOODSPHEREで代表理事を務める小正瑞季氏は「宇宙にできたての技術を持っていくことはできない。ある程度地上で熟成させた技術を持っていく必要がある」として、宇宙での制約をヒントに地上での課題を解決する取り組みによって技術が熟成し、宇宙へ応用可能なものへと発展するサイクルにつながるとした。

3つのプロジェクトそれぞれの宇宙事業への展開イメージ

 また、SPACEFOOD SPHEREでは、これらプロジェクトの拠点となる「SPACE FOOD LAB」の設置にも取り組んでいると明かした。

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