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学習院大学が「宇宙利用論」開講、Space BDが支援–初回講義をレポート
2023.04.25 08:03
学習院大学とSpace BDは2023年4月度より、学習院大学の全学共通科目として「宇宙利用論」を開講した。
大学と宇宙ベンチャーによるカリキュラムの共同開発は国内初の事例だ。所属学部や学年にかかわらず希望者が履修でき、4月18日の第1回ガイダンスは、約100人弱の学生が受講。グループワークも盛り上がり、学生の関心の高さがうかがえた。
2023年度前期の「宇宙利用論」は全15回。「宇宙利用」「宇宙法」「宇宙ビジネス」3つの観点からの学びを通じ、宇宙を活用できる人材の育成と輩出を目指す。
全15回のラインナップはバラエティ豊かだ。第2回には宇宙飛行士を招き、地球環境と宇宙の違いなどの体験談を聞く。他校の教授と連携した回では、考古学における衛星データ活用について学ぶ。民間企業の外部スピーカーを招く回では、宇宙旅行や人工衛星開発など、宇宙利用の最新動向を多角的に学べる。また、宇宙法、宇宙における安全保障問題、人類の惑星居住など、ルール面からの学びも豊富だ。
ちなみに、全15回のうち、後半に実施される4回は、Space BDが講義を担当して、宇宙ベンチャー企業のリアルな活動状況を学生にも共有しながら、宇宙利用について考えを深めていくという。
また、運営や評価方法もユニークだ。運営では、学内チャットを活用して、質問しやすい環境を作る。評価では、3000〜4000文字程度のレポート提出や出席点のほか、90秒間の動画を作成して提出する「録画動画プレゼン」を課す。渡邊氏は、「評価も公平校正を保つものにしたい」と話した。
大学の宇宙利用は「企業と取り組むスタイル」が重要
学習院大学理学部物理学科教授の渡邉匡人氏は、初回講義のガイダンスの冒頭、このように話した。
「大学の講義を外部の民間企業と一緒に運営することは一般的に非常に珍しい。しかし、宇宙を皆で利用していくためには、色々な人と協力していかなければならないので、企業と一緒に取り組むというスタイルを、皆さんに見せたいと思った」(渡邉氏)
渡邉氏は、国際共同研究や国際宇宙ステーション(ISS)での実験も行っている。「月から火星へ行くためには、月の資源を活用したいが、勝手に利用してよいのか?」という疑問が湧いたとき、学習院大学法学部法学科教授の小塚荘一郎氏に相談したごとが、本カリキュラム開発のきっかけになったという。
いま、宇宙開発は国主導から、自治体や民間主導へと広がっている。その流れの中で、大学機関として、宇宙を利用できる人材をいかに育成し、輩出するか。渡邉氏、小塚氏らは真剣に話し合うようになったという。
そして、学習院大学は2022年度の宇宙航空科学技術推進委託費「人文社会×宇宙」分野越境人材創造プログラムに採択された。テーマは「宇宙ルール形成に着目した文理融合×産官学連携による人材創造プログラム」だ。これを経て、本カリキュラム開講に至ったという。
ガイダンスでも強調され、筆者が印象的だったのは、ただ宇宙の利用を促進するのではなく「平和的利用」を学生に啓蒙していた点だ。
「宇宙の利用で一番強く思うのは、将来に負の遺産を残さないこと。宇宙や月での戦争は絶対に避けなくてはならない。一度やってしまったら、必ず後に残って後の世代が非常に困る。全人類が宇宙を平和的に使うことを目指さなければならないと思っている」(渡邉氏)
このように話した後、渡邊氏は「Space BDの西さんは小塚先生からご紹介いただいた」と明かし、Space BDとのカリキュラム共同開発についても説明した。
学習院大学とSpace BDは、2021年より在校生向けの特別授業やインターンシップなどを実施してきた。両者は2022年3月に産学連携協定を締結、本カリキュラム開発においてSpace BDはビジネスの側面から関わった。
宇宙をテーマに、問いを立て、質問する力も磨く
講義の後半は、Space BDで教育事業開発をリードする西真一郎氏が登壇。西氏は「Space BDは2017年創業という若い宇宙ベンチャーだが、JAXAの衛星打ち上げやISS利用に関する事業化公募全件で選定事業者となった唯一の企業。ロケットに色々な物を搭載する際の技術的なサポートを提供している」と自社紹介した。
西氏は続けて「宇宙利用論全15回のうち、我々が担当する4回では皆さんの積極的な参加を求めている」と話し、講義内で実施するアクティビティを実際に体験する場として、2〜4名のグループワークを2回実施した。
1回目はグループ内での自己紹介。「知らない人とも喋れる、バックグラウンドが異なる方々と会話することは大事。まずは慣れていただきたい」と西氏は説明した。
2回目はメンバーチェンジしたうえで、グループディスカッションを実施。ガイダンスを聴講して、疑問に思ったことや感じたことを話し合い、「なぜ〇〇なのか?」などの問いの形式で、できるだけ多くの質問を書き出すというものだ。西氏は、「問いを持つことは、とても重要だ」と呼びかけた。
2回目のグループワーク後は、全グループが発表。西氏がマイクを持って教室内を回ると、全グループからさまざまな質問が飛び出した。例えば、「文系の人も働いているのか」「火星に行くために月に行くというのはなぜか」「宇宙法は誰が決めたのか」「月にどうやって物資を着陸させるのか」「地動説を信じるか」など。
西氏は「疑問を持ちながら人の話を聞くことは、社会で求められる重要な力だ」と話し、宇宙利用論を通じた基礎力形成にも意欲を示した。
渡邊氏も「自身の研究のなかで、疑問に思ったことを小塚先生に質問したところから、カリキュラムを作って始めるというところまで発展した」と話し、問いを立てる力や質問する力を磨いてほしいと学生たちにエールを送った。次回講義より活用される学内チャットでの質問も、グループワーク同様に盛り上がることだろう。