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船舶の動向など海のリアルタイムな情報を衛星で集約、共有するシステムを開発へ

2023.03.30 14:31

飯塚直

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 アークエッジ・スペース(東京都江東区)やIHI、LocationMind(東京都千代田区)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「船舶向け通信衛星コンステレーションによる海洋状況把握技術の開発・実証」に採択され、事業を開始した。期間は2029年度までの8年間を予定。LocationMindが3月27日に発表した。

 今回の事業は、宇宙から船舶の動静情報を網羅的に収集する“海洋状況把握(Maritime Domain Awareness:MDA)”に必要な衛星技術、双方向に通信して海事情報を集約、共有するために、データプラットフォーム技術を研究開発、実証する。

 研究開発、実証するデータプラットフォーム技術は、船舶自動識別装置(Automatic Identificatin System:AIS)を高度化させた「VHFデータ交換システム(VHF Data Exchange System:VDES)」を搭載するための衛星技術とMDAの情報を集約、共有するためのデータ共有システムを確立する。

 VDESは、AISの機能を拡張したものであり、船舶・海洋を対象に双方向通信でネットワークを構築することが目的。日本が国際標準化を主導してきたという。

 今回の事業では、VDES衛星コンステレーションと新しいデータ共有システムに基づいたデータプラットフォームを構築してMDAやビッグデータの収集、双方向の情報通信といったサービスの提供も目指している。

VDES衛星による海洋状況把握(出典:内閣府)
VDES衛星による海洋状況把握(出典:内閣府)

 3社によると、日本が地政学的優位性を利用し 「自由で開かれたインド太平洋構想」を実現するためには、宇宙を活用した国周辺海域、シーレーン周辺海域のMDAの能力の強化が必要だという。

 2002年から、AISの装備が条約によって一部の船舶に義務付けられ、衛星を利用した地球規模での船舶動静(動的情報、静的情報、航海関連情報など)の把握が可能になった。

 しかし、AIS搭載の船舶が外航船や一定トン数以上の内航船舶に限られることから、漁船や小型船による搭載が進んでいないと言われている。海上保安業務についても、AIS信号の断絶や測位衛星信号の欺瞞によるなりすまし(スプーフィング)が行われることにより、MDAの情報としては信頼性が十分ではないという。

 AISの信号は海上の近距離で情報を交換することを前提に設計されているため、宇宙で受信した場合に信号の衝突による抜けが多いという問題があると指摘されている。リアルタイムでないなど、信頼性のあるデータの取得に限界があるとも言われている。

 今回の事業の背景について3社は、海洋での脅威やリスクなどの早期察知に資する情報収集体制に関連して「すべての船舶の動静が把握されている状況ではない」現状を抜本的に改善する宇宙インフラを活用した自律的なMDA能力をもつことは重要だと説明する。

 海上保安業務についても、宇宙インフラを活用した双方向通信が海上安全情報の提供や航行援助、海上交通管制の能力を高めることに大きく役立つとしている。

 NEDOが公募した事業は、「経済安全保障重要技術育成プログラム(Key and Advanced Technology R&D through Cross Community Collaboration Program:Kプログラム)」の一環。

 Kプログラムは、経済安全保障推進会議と統合イノベーション戦略推進会議の下、内閣府、文部科学省、経済産業省が中心となって、府省横断的に経済安全保障上重要な先端技術の研究開発を推進することが背景。有識者などで構成される会議で検討した上で国の研究開発ビジョンを経済安全保障推進会議と統合イノベーション戦略推進会議の閣僚級会議で決定して、研究開発事業を公募する。

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