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宇宙でのオープンイノベーション–宇宙と地上の生活向上目指す「TSL」の勘所

2022.02.03 07:30

田中好伸(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2020年から「宇宙での暮らし」に着目した取り組みを進めている。有人探査ミッションや宇宙旅行者が活用する生活用品を提供することが持続的なビジネスになるような将来を目指している。

 2021年には米国で専門の訓練を受けていない民間人が宇宙を旅行しており、民間の宇宙旅行者が今後増加していく。また、2025年から予定されている「アルテミス計画」では、専門の訓練を受けた職業宇宙飛行士が月での探査が計画されている。つまり、宇宙に滞在する人間は、着実に増えることは誰の目にも明らかだ。

 しかし、国際宇宙ステーション(ISS)の中は地上と同じではないために、生活しやすい空間とはまだまだ言えない。

 「重力が微少」であるために、重力から解放されるというメリットを得られるが、同時に「生活(体内)リズムが崩れる」「体の使い方が異なる」「筋力や骨が衰える」といったデメリットも確実に受けることになる。また「モノがなくなりやすい」「水が地上と同じように使えない」「空気が循環(対流)しない」ということも生活という点では不便だ。

 現状のISSでは、閉鎖隔離環境であることから「生活が単調」「家族や仲間との隔離」「地球(自然)と隔離」といった課題もある(現役の宇宙飛行士の野口聡一氏は「ISSは、職場と住居がかなり近い」環境と説明していた)。

 加えて地上とは異なり、活用できるリソースも制約されている。具体的には「空気が限られる」「水が限られる」「生活用品が限られる」「機器や通信が限られる」「人的リソースが限られる」といった課題が指摘されている。

 しかし、宇宙での生活での課題は、意外にも地球でも同様なものがあり、地上で活用されている製品やサービスが宇宙での課題を解決できることもある。

 例えば、宇宙での「生活(体内)リズムが崩れる」という課題は、地上での「夜勤の仕事」「時差ボケ」「睡眠障害」に活用されるもので解決できる見込みが高い。ISSであらゆるリソースが「限られる」という課題も地上での「アウトドア」「自然災害時の避難所生活」などに活用されるもので解決できる可能性が高い。

 すなわち、宇宙生活の課題から宇宙と地上の双方の暮らしを向上させられるという可能性は意外に高いのである。2020年からJAXAが進めている「宇宙での暮らし」に着目した取り組みは、日本の民間企業が常用している製品やサービス、それらを支える技術力を活用するという目的もある。

 JAXAが中心となって進めている「THINK SPACE LIFE」(TSL)という取り組みでは「THINK SPACE LIFEアクセラレータプログラム2021」が注目できる。

 TSLアクセラレータプログラムでは、宇宙と地上で共通する課題を解決するサービスや製品、ビジネスのアイデア、それを主体的に実現へと導く参画事業者を募集。そのアイデアに対するメンターからの助言、アイデアを創出するためのワークショップへの参加、地上で実証する場所などのインキュベーションの仕組み、つまりアイデアを育てる仕組みが用意されている。TSLアクセラレータプログラムは、宇宙を起点にした募集事業者と提案事業者による“オープンイノベーション”の一形態とも言える。

TSLアクセラレータプログラム2021の概要(出典:JAXA)
TSLアクセラレータプログラム2021の概要(出典:JAXA)

 2021年12月から始まった「THINK SPACE LIFEアクセラレータプログラム2021」では、6社の募集事業者とJAXAが主催者となって提案の募集を開始した。募集事業者とテーマは以下の通り。

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